2016年12月にクラウドファンディングによって60万円以上の資金を集め、全く新しいクライミング専用ソックスとして話題を呼んだ「クライミングスキン」。
今までの靴下とは全く異なる「ネオプレン」素材を使用し、靴下という概念にとらわれない新しいアイテムとして、茂垣敬太氏の「Bouldering Spot 9A」や渡辺数馬氏の「ZIP ROCK」でも取り扱われており、全国で一斉に広まりをみせている。
製作者は、大手アパレル販売代理店をへて地元山口で高級セレクトショップを経営。現在は「INFINITY PEAKS」の代表を務める仙石一大氏。 なぜクライミング専用スキンを作ろうと思ったのか、現在の事業、クライミングにおける靴下の必要性、今後の展望について話を聞いた。
——山やクライミングをいつ頃からやりだしたのか教えてください。
元々はマリンスポーツが好きで、サーフィンをやっていました。その後、釣りやシーカヤックにハマったので、最初は海ばかりでした。絶対山なんかしないと思っていたのに、6年くらい前に友人に誘われ、地元の山に登ることになりました。いざ登ってみたらまったく登れなくて。60歳くらいのおじいちゃんが2時間で登るのに、僕は4時間30分もかかった。それから登山をするようになり、気がついたら山にハマっていました。
——クライミング専用の靴下を作ろうと思ったきっかけを教えてください。
本当に偶然でした。3年半くらい前に、後輩が海外からのお土産として「ネオプレン」製の靴下をくれたんです。ためしにクライミングのときに履いてみたら、「あれ、これ悪くないな」って感じて。元々アパレルの仕事をしていて、サーフィンもやっていたので素材には詳しくて、「ネオプレン」の特性を考えたときに、これはクライミングでも使えるものになるかもしれないと思いました。
それから試しに作ってみようと思ったのがきっかけです。 製造に関しては、セレクトショップをやっていたときにTシャツやパンツをOEMで作っていて、経験があったのでひととおり作り方は知っていました。
——製造にあたっての困難はありましたか。
一番はサイジングですね。完成まで約3年半かかっているのですが、サイジングに1年半以上かかっています。いろんなパターンを作って試したので、大量にサンプルを作りました。サイジングは本当に難しくて、何度も諦めそうになりました。あとは資金面です。日本国内の工場は資金が足りず全滅で、探し回った結果、台湾の工場に依頼をしました。
——3年半もの長い間、あきらめずに製作を続けられたのはなぜですか。
それが、1年半か2年くらいして、一回にかかるサンプルと送料でお金もかなりかかり、もうやめようと思ったことがありました。無理だと思って。これだけ変えて出来なかったら、もう無理だなと。そんなときに製造を依頼していた台湾の工場担当者の方が「サンプルはまだなのか」、「パターンはまだなのか」と、そう言ってくれて。これだけ本気で相手してくれているんだから、このまま向こうにお金を落とさないで終わるわけにはいかんと思ったんです。
それで、またしばらくして今度は足の裏をサイジングしているときにまたどん詰まってしまって。これはもう本当に無理だ、絶対駄目だ、全然無理だなって、僕からまったく連絡をしなくなったんです。 そしたら、また担当者から「まだなのか」と連絡してきてくれて。実はそれから僕、サンプル代を取られていないんです。
——途中から無料でサンプルを作ってくれるようになったのですね。
はい、それまではサンプル代やパターン代が結構かかっていたんですが、その後15回くらいはすべてお金をとられていません。そういう工場なんですよ、相手が。これは相手にお金を落とせないままやめられんでしょうと、再び奮起するきっかけになりました。
——なぜそこまで台湾の担当者の方は協力的だったのでしょうか。
そこは僕も不思議で、クライミングスキンが完成した後に、直接担当者の方に聞いてみました。そしたら、僕が頑張ってたからって。「そこまで執念深い奴は初めてだ」と言われました。僕が頑張っていたから、それが理由でした。 本当にお金がなかったときなので、当時はすごく助けられました。担当者の方とはいまだにSNSで連絡を取り合っています。
——最近クライミングジムを見渡すと、靴下を履いている人を多く見かけます。靴下を履く人が増えているように感じますが、その理由はなんでしょうか。
最初にレンタルシューズで靴下を履くので、靴下を履くことが習慣になっている人が増えているのだと思います。クライミングジムでは基本的にレンタルシューズを履くときは靴下が必須です。そのため、特にインドアのジムから始めた人たちは最初の段階で靴下を履いているので、抵抗がありません。そのまま習慣となっている人が多いのではないでしょうか。
あとはクライミングシューズ自体が進化している、という点もあります。最近のシューズはギュウギュウに攻めたサイズを履かなくても、十分に性能を発揮できるものが多いと思います。
——靴下を履くメリットとはなんでしょうか。
メリットでいうと、衛生面と痛みの緩和がメインです。衛生面についてですが、靴を清潔に保てるというのも大きいです。あとはクライミングスキンの場合、これは想定していなかったのですが、足のタコにも一定の効果があることが後から判明しました。
——逆に靴下を履くことのデメリットはなんでしょうか。
靴の中でずれて動いてしまったり、よれてしまうこと。足裏の感覚が損なわれてしまう可能性があります。あとは汗を吸ったときに、コットンとか吸水性がある素材だと靴の中で膨張したり、じわっとする感覚があります。 足裏感覚に関しては、素材を薄くすれば改善できるのですが、薄くしてしまうと耐久性が下がってしまいます。ネオプレン以外の素材や1mm以下の薄さも全部試しましたが、結局今の厚さを採用しています。
プロ選手などのように、コンペ志向の場合はちょっとした足裏感覚の差や、靴とのフィット感で結果に差が出るかもしれませんが、趣味の範囲で楽しんでいるいわゆる僕のような一般クライマーの場合は、そこまで大きなデメリットはないと思います。 実際、最近ではクライミングスキンを履いていただいている方の中にも、国体指定強化選手の方や、2段、3段を登れるような方もいます。
——靴下を履く人が増えているとはいえ、素足で履いている方も多くいます。元々素足で履いている人たちにも履いてもらいたい、という思いはあるのでしょうか。
正直、すでに素足で満足している方には履いてもらわなくても良いと思っています。 元々、知り合いの女性クライマーの人が結婚式用のミュールを履きたいけど、タコがすごくて履けなかったことがあって、かわいそうだなと思っていました。
また、クライミング用品専門店に飛び込み営業をしたときに、初心者の人は足が痛い。痛くてやめる人が多くいる。タコが出来るから、女性とかだと履けない人がいる。という話を聞きました。そういった困っている人たちが履いてくれればそれで良いと思っています。
——実際にクライミングスキンを作ってみて、良かったことはありましたか。
それはもう一つしかないですよ。ちょっとずつですけど、メールをくれる方がいるんです。「良いです」だけじゃなくて、「この部分はもう少し研究したほうが良いのではないか」とフィードバックをくれる人もいる。
「新品から履いている靴が全然臭わない」、「初心者だけどシューズを履いても痛くない」。寒い地方の人からだと「冬でも全然寒くない」、そういった感想をいただけることが一番うれしいです。
——今後、どのような展開を考えていますか。
クライミングスキンの未来でいえば、好きな人が履いてくれるんだろうな、くらいです。 正直、あんまり野望的なものはありません。これで何をしたいって、次の資金を作って、次のアイテムを開発したいだけです。あんまりお金に興味がないんです。なので、お金じゃなくて、とにかく今は次のアイテムを作りたいです。
——次はどのようなアイテムを考えていますか。
山に関連したものであることは間違いないですね。やっぱり山が好きなので。 その上で、今までにありそうでなかったもの。もうちょっと新しい、もう一歩踏み込んだ視点でアイテムを作っていきたいと思います。 「それはないだろう」って言われる可能性もあると思います。
実際、クライミングスキンも「これはないだろう」ってやっぱりどこかで言われていると思うんですよ。 でも、両論あっていいんです。新しいものって絶対に両論あるので。それで良いので、そこをいきたい。 新しいもの、ありそうでなかったものを。そして自分が欲しいって思うものを、僕が欲しいから作ります。
——最後に伝えたいことはありますか。
二つあります。ひとつは、アイディアを持っている人はどんどん新しいもの、より良いものを作って欲しいです。これ、絶対に自分が考える前から同じようなことを考えていた人はいると思うんです。 クライミングスキンはもう権利化しているので作れませんが、これを超えるものならいくらでも作れると思います。自分のアイテムがその結果負けてもそれで良いんです。競争することで業界がより発展していくと思うので。
もうひとつは、普通のことなんですけど、楽しんでクライミングをして欲しい。それだけです。いろんな人がいて良いと思います。何を選ぶかも自由だし、何を言うのも自由。クライミングを楽しみましょう。
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