「垂直のトライアスロン」 オリンピック競技としてのクライミングの未来(3)

さてここで2016年ワールドカップ各大会スタートリストを参考に、参加選手数を比較しみよう。例えば、リードとスピードの競技に参加するクライマー数は3対1。3人のリード選手につき、1人のスピード選手ということになる。そしてボルダリングとスピードの選手数となると、その割合は5対1となる。

その数字が語るように、確かにスピードクライミングの愛好者は数少ないが、その存在のおかげで、スポーツクライミングがIOCによって認められたと言っても過言ではないだろう。実際、クライミングなど知らないほとんどのテレビ視聴者にとっては、スピードを競う競技はうってつけに違いない。視聴者にとって、できるだけ早く到達すべき、そのゴールははっきり目視でき、最短時間というスコアも極めて客観的である。

「スピードクライミングなら、正に世界記録を打ち立てることができるわね」と、アレックス・プッチョはコメントする。彼女は競技形式についてはっきりとした意見を述べることを避けてはいるが、ボルダラーである以上、彼女の専門であるボルダリング競技が少しでも前面に出されるように競技形式が見直されることを望んでいるに違いないだろう。彼女だって、オリンピックで勝利を争うことを夢見ているはずだ。

ただし重要なことは、スピードクライミングがもたらすアドレナリンと視覚的アピールのおかげで、IOCが公言した選考条件下で、スポーツクライミングは、サーフィン、そしてスケートボードと肩を並べることができたことである。それは若い観客を引き付ける不可欠な要素なのである。

――その影響

確かにいろいろな問題があるかもしれないが、クライミングにもっとスポットライトが浴びせられることは、決して悪くはないだろう。実は世界最強のボルダラーのひとりでもあるプッチョでさえもが、スポンサーからの資金援助だけでは生活ができずに、ユースチームのコーチ職にも従事しているのである。

彼女は言う。「私たちが活動しているスポーツの世界で動いているお金は、微々たるものよ。スポーツクライミングがオリンピックに登場してもっと多くのスポンサーがつくようになったり、また今まではクライミングになんか見向きもしなかった、より大きな企業がスポンサーの手を差し伸べてくれるようになったりしたらいいわね」

クライマーであり、プラナのアンバサダーでもあるオリビア・シューもプッチョに同意し、次のように付け加える。「スポンサーが出すお金が増えれば、もっと多くのクライマーがクライミングのみに集中できるようになるし、そうなれば、より難易度の高いパフォーマンスを展開する可能性も広がるわよね」

「それにまだまだクライミングが運動競技としてあるべき姿に近づいたとは思えないし」と、彼女は言う。

そして「知名度が高まることは、スポーツ自体をより高度なものにすることに繋がるだけではなく、そのスポーツから恩恵を受けることができるはずの人たちに門戸を開くことにもなるでしょ」と述べる。

USA Climbing会長のキーナン・ワグナーによれば、クライミング愛好者数はここ20年あまりで確実に増えつつあり、その男女比は半々となっていることが特徴である一方で、社会のあらゆる部分で一様な増加が見られているわけでもないようである。

「民族的な多様性を、私たちは完全に見落としていましたね」と、彼はコメントする。「クライミングをオリンピックという世界的な舞台に登場させることによって、その点も大きく変えることができるのではないでしょうか。サッカーとか野球とかと比べたら、まだまだ若いスポーツクライミングのコンペがテレビの全国版で放映されることも稀で、実際はほとんどの人はその存在にさえも気がついていないのが現状でしょう」

「一般の人々への浸透は、私たちにとって確実にプラスになるはずです」と、彼は結ぶ。

――目指せ、東京

ただしクライマーにとってオリンピックを目指す道は決してなだらかではない。プロ、そしてスポンサーのついているクライマーにも参加が認められている以上、選手名簿に名を連ねるクライマーは容易に想像できるだろう。ショウナ・コクシー、ショーン・マッコール、アシマ・シライシといった数人のプロクライマーたちが既にオリンピックでの戦いに関心を表明している。しかし男女それぞれに割り当てられた出場選手枠は20である。出身国を問わず、エリートたちにのみ許された枠であることは違いない。

参加選手選考プロセスの詳細は、2017年に開催予定のIFSC総会で決定されることになっている。そこでは全てのIFSCメンバー国を代表する山岳連盟が一堂に会し、オリンピック選手団の選考方法、競技形式、競技ルール等の細部が協議されることになる。

>>現時点ではうわさにしか過ぎないが……



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