DVD Review Vol.6

『REEL ROCK 7』『push it』『ヒマラヤ 運命の山』『Chasing Winter』『The Disciples of Gill』『岳 -ガク-』

構成・文=榎戸雄一(雪山大好きっ娘。)

*この記事は『ROCK&SNOW No.59 2013年3月号掲載記事をもとにしています。

『REEL ROCK 7』
Big Up Productions + Sender Films
www.reelrocktour.com/

Big Up ProductionsとSender Filmsが毎年共同で開催している、世界最大のクライミング映像イベント「Reel Rock Festival」。今年は7周年ということで名称は「Reel Rock 7」。今年も全4編からなる待望の映像作品がリリースされた。1章ではクリス・シャーマとアダム・オンドラが、5.15cはあるのではというスペインのプロジェクトにトライする模様が。2章にはアメリカチームによるインド・メルーのシャークスフィン直上ルートからの登頂映像。3章にはWide Boyzによる、世界最難ワイドであるCentury Crackの完登動画。そして、アレックス・オノルドが昨年春にビショップで初登したハイボールとヨセミテの三大ビッグウォールをソロで継続する映像で締められている。クライマー、課題、ロケーション、映像のどれをとっても現在最高峰の作品集。

『push it』
Light Shed Pictures
www.lightshedpictures.com/

イギリスのふたりの女性クライマ-が、ヨセミテはエル・キャピタンのビッグウォールを目指し、完登するまでを描いた映像作品。ふたりにビッグウォール経験はまったくなく、人工登攀や荷上げの練習を本を見ながらぎこちなく始めるも、すぐにヨセミテへ飛んでいく。初心者向けのルートを選ぶが、わずか2ピッチに8時間もかかり、技術不足の現実を目の当たりに下山。それでも、くじけずエル・キャピタンに突っ込んでいく。ふたりが選んだラインはTriple Direct。今までにない荷物の重さもあって、荷上げや32ピッチという長さにヘトヘトになりながら、8日をかけてなんとか完登する。この作品は、女性クライマーの挑戦に焦点を当てている。ビッグウォールに迷っているクライマーにはぜひ見てもらいたい。

 『ヒマラヤ 運命の山』
東映・東映ビデオ
www.toei.co.jp/

東映・東映ビデオラインホルト・メスナーの『裸の山』を原作としたドキュメンタリー映画。1970年にメスナーが成し遂げた、ナンガ・パルバット/ルパール壁側からの登頂にまつわる物語である。登頂には成功するものの、ディアミール側への下降を余儀なくされ、弟のギュンターを亡くし、命からがらの下山となる。帰国後も隊長のヘルリヒコッファーと責任のなすり付け合いで泥沼の裁判に進展してしまう。軽装すぎる装備に疑問は感じるものの、実際にナンガで撮影されたという映像は迫力満点で、そこで展開される、山頂アタックメンバーの選抜に際してのクライマーたちのエゴが絡み合う人間模様も、当時の遠征隊の実態を映していて、歴史を感じさせる。

『Chasing Winter』
PRAK Media
http://27crags.com/films

ポール・ロビンソンが運営しているPRAK Mediaからの最新作は、アシマ・シライシをフィーチャー。舞台は南アフリカ・ケープタウン。ポールはここ2、3年、ケープタウン周辺での開拓作業に励んでいる。ロックランズの赤い砂岩とは対照的な、丸っこくて白い花崗岩。ポールとカルロ・トラバーシが高難度課題をバシバシ登ってるシーンからスタート。そしてメインのアシマちゃんが登場し、雰囲気がガラリと変わって、彼女の独壇場となる。V11のフラッシュに始まり、V14課題への果敢なトライ、2本のV13課題もさっくり落とす。コーチのオビをはじめ、ポールもカルロもスポッター扱い。PRAK Mediaの作品は4作目ということもあり、リリースを重ねるごとに、撮影も編集もレベルが上がっており、今後がますます楽しみだ。

 

 『The Disciples of Gill』
Pat Ament
www.patament.org

『ジョン・ギルのスーパーボルダリング』というバイブルを産み出し、ボルダリングの父ともいえる伝説のボルダラー、ジョン・ギルをテーマにしたプライベートなDVD作品。編集は、数々のクライマーの伝記や歴史を綴ってきたアメリカのパット・アメント。まだ幼い孫娘に、クライミングの手ほどきをしながら、ジョン・ギルの思い出を語る構成で進行していく。要所要所に挿入される、動くジョン・ギルの映像は、マニア向けではあるが非常に貴重だ。まだクライミングのムーブが確立していない時代で、キョンや振りといった傾斜をかわすムーブはなく、ひたすら正対かキャンパシングという力業のムーブが中心であるのも、時代を感じられておもしろい。

 『岳 -ガク-』
東宝
www.toho.co.jp/ 

東宝昨年、感動的なフィナーレで完結した、山岳救助隊の島崎三歩が活躍する漫画『岳 – みんなの山』の実写版映画。山岳救助隊をテーマにした作品はこれまでも数多く作られてきたが、『岳』が他の作品とは違う点は、遭難者に対しても「よく頑張った」と声を掛け、登山者すべてを愛するポジティブさにある。近年の登山ブームにも支えられ、原作ともども大ヒット作となった。荒れ狂う吹雪の冬山での多重遭難が舞台だが、三歩の熱いまでの底なしの情熱が寒さを吹き飛ばしている。主演の三歩役は小栗旬、ヒロイン的な新人救助隊員の椎名久美は長澤まさみが演じており、平山ユージさんもちらりと出演している。