ティト・トラヴェルサ死亡事故でインストラクターに有罪判決

5月18日、ナタリー・ベリー UKC 、訳=羽鎌田学

イタリアのクライミング雑誌「Pareti(パレッティ:岩壁)」によると、長年に渡る複雑な裁判の後、イタリアのクライミング・インストラクターが、2013年に起きた12才のティト・トラヴェルサ死亡事故で過失致死罪で有罪判決を受けた。

当時才能豊かなジュニアクライマーとして注目されていたイタリアのティト・トラヴェルサは、フランスの岩場オルピエールで、ウォーミングアップ・ルートを登り終えロワーダウンする際に、使用していたカラビナとスリングが誤って繋がれていたクイックドローが切断し15mのグランドフォールを喫し負傷、その結果死亡したのである。彼が参加していたジュニア及びユースクライマーを対象としたクライミングツアーをインストラクターとして引率し、事故現場に居合わせたニコラ・ガリッツィア(36)は、2年の刑を言い渡され、21,000ユーロ(日本円にして274万円ほど)を超える訴訟費用の負担に直面している、とクライマーでもあり著述家でもあるアンドリュー・ビシャラットは彼のブログ記事で説明している。

当該の裁判でやはり被告であった他の2名、ティトが通っていた、また彼が参加していたクライミングツアーを直接企画・実施したクライミングジムBside Climbing経営者ルーカ・ジャンマルコ(50)と、この悲劇に関係したクイックドローの回転防止用ゴム製ストリングを供給していたCTの商標で知られる製造販売会社Aludesign代表カルロ・パリョーリ(72)は、両名とも無罪となった。後者は、ストリングを組立・使用説明書なしで販売していたことにより罪に問われていた。

同形状のクィックドロー、上側に注目。固定用のゴムバンドのみで連結されている

ビシャラットによれば、ガリッツィアは、イタリア司法制度のねじれによって、また彼にとっては初めての有罪判決でもあり、必ずしも2年の刑期を刑務所で過ごすわけでもないようだ。ちなみに、検察側からの求刑は4年であった。また今回の判決によって長年に渡る裁判の最初の段階がやっと終了したわけだが、まだまだ2つのステップが残っている。先ず、最初の30日間で裁判官は判決理由を総括的に明らかにしなくてはならず、その後の最終段階で弁護側が控訴するかを決定することになる。

事故に関係したクイックドローだが、ティトと同じクライミングクラブに所属するあるジュニアクライマーの母親がクイックドローを作る際に、カラビナとスリングを回転防止用のゴム製ストリングで連結してしまっていたのだ。カラビナがスリングの輪に通されることなく、ゴム製のストリングのみでスリングに結ばれていたのである以上、ロープに体重をかけた途端にクイックドローが切断するのは明らかである。

ティトがウォーミングアップ・ルートを登った際に使ったクイックドローの中には正しく組み立てられたものが4本混ざってはいたが、不幸にもそれらはルート下部のプロテクションで使用されていて、彼のグランドフォールを避けるには至らなかった。事故後、ティトは直ちに救急ヘリでグルノーブルの病院に搬送されたが、3日後に息を引きっとった。

イタリア、トリノ県イヴレア市に生まれたティト・トラヴェルサは天才児クライマーとして活躍し、10才の時にイタリアのフランスとの国境に近いアオスタ渓谷の岩場テット・ディ・サーレで1本目の8b+(5/14a)、Sarsifalを登り、事故2日前には、トリノ県グラヴェーレにある岩場で彼にとって4本目の8b+(5/14a)となるPablo Direttaを登ったばかりであった。

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