世界最難のアイスクライミング Mission to Mars WI 13


@jonglasdberg @louderthan11

Michael Levy/rockandice.com 訳=羽鎌田学

シーズンごとに最難グレードが上がっていく感のあるカナダ・ヘルムケンフォールズだが、今シーズンも予定通り(?)グレードが上がりついにWI(ウォーターアイス) 13を記録した。

「既存のグレードでは難易度を充分規定できない時もある」

それが、かつて2010年にティム・エメットとウィル・ガッドが初めてヘルムケン・フォールスの流れ落ちる水流裏の洞窟で氷に覆われオーバーハングした壁を登った際に達した結論だった。そして彼らは当時の世界最難ルートのグレードがWI 7であった時代に、そのルートをWI 10とグレーディングしたのである。

そして10年の月日が経ち、半ダースほどの、なかばホームゲレンデと化したヘルムケン・フォールス通いの後の今、ティム・エメットはスロベニア人クライマー、クレメン・プレムルと組み、再び既成概念の枠を超えるルートを初登し、“Mission To Mars”と命名した。ティムとクレメンがそのルートに与えたグレードは、桁外れ、前代未聞のWI 13。

2010年以来のヘルムケン通いの中で、彼は絶えず「もう少しより過激な」クライミングを追い求めてきた。例えば2013年には、ティムとクレメンはWI 10+とした“Clash of the Titans”を開拓初登し、また2016年には“Interstellar Spice”を登り、WI 12とグレーディングした。

今冬、洞窟の基部に立った彼らは、早速ヘルムケンで新ルートを開拓するためには避けては通れない作業に取り掛かる。それは想定されたライン上の剣のように突き出た何百本もの氷柱を蹴落とし、ボルトを設置することである。2日間かけてルートを開拓した彼らは、今度はムーブの解明に専念する。そして2日後、彼らは長さ32mの新ルート“Nadurra Dura”を初登し、WI 12とした。

「取付きからかなり被っているのですが、それが登るにつれてもっともっと被ってくるのです」とティムは言い、続ける。「氷柱を登り始めその根元まで行くと、岩を使うワンムーブが出てきます。ピックを岩に引っ掛けて、別の氷柱に乗り移るわけですが、ほぼルート全体、氷を使って登っていきます。最難のパートは最後に出てきます」

Nadurra Duraを手早く片付けたティムとクレメンは再びドリルを手にして壁に取付き、4本のボルトを追加しルートを8m伸ばす。このエクステンションの最後の2ムーブは岩を登る。
今一度2人はアックスを握り締めルートに取付く。そして数日間のトライの末、共にエクステンションルートを完登。ヘルムケン・フォールス最難のWI 13、“Mission To Mars”の完成である。

このWI 13というグレード、以前ヘルムケンにおける高難度グレードについてティムとクレメンがその根拠を述べたことがあるが、それを思い起こせば、さほど突飛でもない。

「WI 12とかWI 13とかいっても、ミックスクライミングのそれと同じようなものなのです。ただ登るのが、氷であるだけなのです。岩を登るのなら、M12とかM13とかになるだけです。こういったグレードは、ルートを登るために費やさなければならない努力、エネルギーについての全体的なイメージをクライマーに与えるためにあるのです。どれだけ難しいかを知るためのものですよ」と、ティムは説明する。

以前ウィル・ガッドはRock and Ice誌の『地球最後の日』と銘打った彼の記事の中で、2010年に開拓初登した“Spray On”のグレードをWI 10とした理由をもっと突っ込んで説明している

「確かにSpray Onの写真にみんなは興奮したかもしれませんが、グレードに関しては顔をしかめた人も多かったようですね。特にヨーロッパでは。ティムと私がWI 10というそれまで使われたことのなかったグレードを選んだのは、まさにそのルートの難しさがミックスクライミングのM10に匹敵するものだと考えたからです。ミックスクライミングのM10を登ることができて、かつ最高級の氷のルートをリードできてこそ、言えることなのです。またアイスクライミングのグレードは、クライマーがより上の数字を求めて競えば競うほど、見当違いなものになります。例えば、数人の友達がオーストリアで新ルートを登り、それをWI 8としたのですが、結局再登後にWI 6とダウングレードされてしまいました。難易度5以上のアイスグレードは実際の難しさよりも、単にクライマーのエゴを反映したものなのです」

ただしティム・エメットにとっては、ヘルムケン通いはエゴの充足以上のものであるようだ

「そこでは、アックスを駆使した本当にユニークなクライミングを展開できるのです。クレメンと私はそれに心底夢中になっているのです」とティムは言い、続ける。「実に注意深く登らなくてはならないのです。アイスツールを力任せにぶち込むなんて論外です。そんなことしたら壁から垂れ下がった氷柱は簡単に折れてしまいますよ。またどのような体勢を取るかが、壁から剥がされるか否かをわける極めて重要なポイントになってきます」

またケイブが持つ美しさが、その深遠なクライミングスタイルのみならず、ティムがそこに何度も足を運ぶ理由のようだ。「あんな場所は他に見たことがありませんよ」とティムは説明する。

「アイスランドにも何ヵ所かケイブがありますが、あそこほど大きくもなく、おまけに冷えませんから。私たちと一緒にケイブに足を踏み入れた人は一様にそのサイズに腰を抜かしますよ。今回私たちが登ったルートは長さ40mですが、それをケイブの外側から眺めたらとても小さく見えます。でも、中に入って見上げれば我が目を疑いますよ」

「そこに行けば、一生忘れられない光景を目のあたりにすることができるのは確実です。たとえ登らなくてもね」

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