デイブ・マックラウドによる前人未踏の継続登攀 「五重の8」とは?

文=坂野正明(ハイランド在住)Photo_Kevin Woods

スコットランドのクライマー、デイブ・マックラウドが、3月19日、また一つ前人未踏の金字塔を打ち立てた。本人名付けて「The 24/8」。または「五重の8」とも呼んでよい偉業だ。マックラウドがこの10年来、いつの日か、と温めていた考えを実行に移して、完遂したものだ。今までおそらく誰も考えたこともなかったプロジェクトだった。


午前6時50分、Cameron Stone Arete 8A+からスタート

「五重の8」とは何か

英国の一流クライマーにとっての一つの登竜門に「トリプル8 (Triple-8)」がある。
E8 (トラッド、英国式グレード)、F8a (スポート、フランス式、5.13b相当)、Font 8A (ボルダリング、フォンテンブロー式、三段+相当)をいつの日か達成することだ。

また全然別のスペクトルとして、英国南部の登山の一大メッカの北ウェールズには、King of the Pass Challenge がある。同地のハンベリス・パス(Llanberis Pass)近辺で象徴的とされる(ある特定の)氷滝(V, スコットランド式グレード)、トラッドルート(E6)、ボルダリング課題(Font 7C)を一日で登ることだ。未だ数人(2人?)しか成功していない。ルートの難易度の高さもさることながら、相対的に南方にある同地ではそもそもその氷滝が張ることが5年に1度、2〜3日しかない。加えて、氷滝が張るような時は、岩登りにはおそらく寒くて、岩が濡れている可能性も高いため、条件が整うこと自体が極めて稀という事情がある。

一方、それとまた全然別のスペクトルとして、山岳ランナーの挑戦として、英国にはいくつかの24時間耐久ラウンドがある。中でもスコットランドでは、チャーリー・ラムゼー・ラウンド(CRR)が有名だ。大半が登山道のないまして道標もない山中を、のべ90km、標高差8700m走って、24の主要山頂を踏むことを 24時間で完遂する挑戦だ(レースではなく、百名山踏破のような個人的挑戦)。なお、ここで言う「主要山頂」とは、マンローと呼ばれる標高3000フィート(914メートル)を超える山を指す。スコットランドで全282座。1座1座一生かけて、(日本の百名山のように)全座完登することを目標とする人が少なくない。


午前9時ごろ、Dispatching Leopold 8a を登る

マックラウドの「24/8」または「五重の8」は、これらを組み合わせたような挑戦だ。

すなわち
E8 (トラッド)
F8a (スポート)
Font 8A (ボルダリング)
Ⅷ, 8 (スコットランド冬期登攀)
マンロー 8座

を24時間以内で完遂することだ。

マックラウドこそ、オールラウンダーのクライマーの鑑だ。この10年、トラッドスタイルでは夏冬ともスコットランドは言うに及ばず世界の第一人者と言って過言でなく(前人未踏のグレードの複数のE11、XI (XII?)の初登)、ボルダリング(Font 8C)でもスポーツクライミング(F9a)でも超一流の履歴を誇る。

「五重の8」は、オールラウンダーのマックラウドならではの挑戦で、今まで誰も考えたこともなかった類と言ってよい。山を愛するクライマーにとっては夢の課題と言えよう。

前述の課題のうち、マンロー8座はそれだけならば、体力(と冬場のナビゲーション能力)さえあれば、天候が大荒れでない限り可能ではある。しかし、そのために、この挑戦で歩く全行程は 39kmになる。それも多くは雪上でアップダウンの連続で。24時間の挑戦として不足はなかろう。「五重の8」は、技術的にも体力的にも極めて高度な、登山界のトライアスロンならぬクイントゥプルアスロンと言ってよい。

 

 

同一カテゴリの最新ニュース