2020年東京五輪のスポーツクライミング競技は、ボルダリング、リード、スピードの3種目複合で争われますが、日本人にとってもっとも縁遠い種目がスピード競技といえるでしょう。
ボルダリングとリードに関しては世界チャンピオンを複数回、輩出しているクライミング強豪国であるにもかかわらず、スピード競技についてはワールドカップへの出場経験もほとんどなく、練習するための壁もない、というのが日本のこれまでの状況でした。これは、クライミングの本質である「難しさ」を追及しようとするボルダリングやリード種目に対し、「トップロープの安全管理のもとで登攀に要した時間を競う」といった異質の競技に興味を持たなかったから、と言えるかもしれません。
実際、ワールドカップのスピード競技に参加する国は偏っており、ロシア、ポーランド、ウクライナ、中国、インドネシアなどで盛んだったのですが、近年、五輪を意識してかフランスやイタリアといった国からの参加選手も増えてきました。いずれにしても、日本も東京五輪対策としてスピード競技に取り組まざるを得ない状況になっており、今後どこまで力を注いでいけるものなのか、注目してみたいところです。
スピード競技のルールは単純・明快で、同じ条件の壁をいかに早く駆け登れるかを競います。競技用の壁は、高さ、傾斜、そしてホールドの種類と位置・角度があらかじめ定められており、会場が変わっても同じ条件で登れるように設計されています。
選手はゴール地点から吊り下げられたテープを、ハーネスを介して身体につけて登りますが、その先にはオートビレイ機という安全装置がついています。これは選手が登るスピードに合わせてテープを巻きとり、選手が落ちて強い力が加わったときにのみ制動をかけてストップし、ゆっくりと下降させる装置で、選手の登りを手助けするものではありません。
ルートの難しさはフレンチグレードの6b(5.10c)程度とのことなので、登攀ルートそのものについては、一般の中級者でも完登するだけならできる難しさと言っていいでしょう。
競技の流れは次のようになっています。 まず、予選は用意された2本のルートをそれぞれ1トライずつ2本トライし、早いほうのタイム順に16名が決勝に進出します。決勝はトーナメント方式で、予選順位の高い選手と低い選手の組み合わせで1回戦を戦い(1位と16位、2位と15位、等)、早くゴールにたどりついたほうが勝者として次のステージに進みます。そして準決勝(勝ち上がった4人の対戦)、決勝(準決勝の勝者ふたりでの対戦)を経て1位が決まります。 対戦式の運営により、「もっとも早いタイムを出した選手が勝ち」とは単純にいかないところがスピード競技の面白さでもあります。
スノーボードのデュアル・スラローム種目のように、隣の選手のことを常に意識しながらの競技のため、実力が拮抗した選手同士の戦いではメンタル面の強さが要求されます。スタートを急ぐあまりフォールスタート(スタートの合図前に登り始めること=いわゆるフライング)を犯してしまうと、その時点で失格になってしまうため、とりわけスタートには慎重を期さねばなりません。
現在の世界記録は、男子はダニル・ボーディエフ選手(ウクライナ)の5.6秒(*4月16日取材当時、現在は5.48秒)。女子はユリア・カプリナ選手(ロシア)の7.53秒(*4月16日取材当時、現在は7.38秒)。15メートルの高さの壁を、わずか6~8秒程度で登ってしまうのだから驚異的なスピードです。秒速2メートル程度、つまり1秒で自分の身長以上の高さを駆け登ってしまうので、実際にその登りを目の当たりにすれば、きっとその速さに驚かれることでしょう。
いずれにしても勝ち負けがその場で明快にわかり、クライミングを知らない一般客にとってもっとも理解しやすい種目、それがスピード競技なのです。
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