「垂直のトライアスロン」 オリンピック競技としてのクライミングの未来(4)

現時点ではうわさにしか過ぎないが、国ごとによって選手の数が異なる以上、世界規模でのオリンピック代表選考大会が必要だという話も耳にする。またワールドカップ年間優勝者と2018年世界選手権の勝者は自動的に2020年のオリンピックへの出場権を得るなどとか、それら既成の大会が選考大会とみなされることになるだろうとか囁かれたりしている。しかし、メイヤーも言うように、それは決して容易ではないが、IFSCとIOCがしっかり話し合い決定しなくてはならない議題なのである。

メイヤーは続ける。「IFSCは、競技会の成績を考慮するといった他のスポーツ連盟が使っているものとは異なった選考手段を用いることになるかもしれません。しかし、いずれにしても現時点では懸案事項なのです」そして付け加える。「実際には、十分な議論が交わされているとは言いがたいのですが」と。

――スポーツの未来

「私たちのスポーツ、クライミングがその原点からかけ離れたものになってしまうのではという危惧もありますが、それに根拠があるとは思えません。現在の流れが本来の岩登りを過小評価しているわけでもないのです」と、メイヤーは主張する。「むしろIFSCは全ての分野での成長を見越しているくらいです。クライマー、山岳連盟、オリンピックへの追加によって利益を得るメーカーなど、そもそもは自然の岩でのクライミングを好む傾向がありますよね」

その一方で、アメリカ合衆国でのクライミングブームは、幾つかの問題も引き起こしてはいる。例えばジムでクライミングを始めたばかりのクライマーが地元の岩場を埋め尽くす様子には、必ずしも喜んでばかりはいられないようだ。しかしそのような問題も、実は決して目新しいものではない。オリンピックをきっかけにした新規参入者が引き起こす問題など大海の一滴に過ぎず、またほとんどの場合、各地の山岳会とか環境保護団体が既に取り組んでいる問題でもある。

もちろんメイヤーが言うように、ジムでクライミングを始めた人たちの多くが自然の岩場でのクライミングに乗り出すとしても、ほとんどの人はインドアでのクライミングに満足し続けることだろう。インドアクライミングもコンペも既に到来している現象で、その愛好者は外に出ずに満足しているのである。2020年のオリンピック参加の功罪がいかなるものであろうが、プラスチックでできたルートのみを対象としたクライミングは既に現に私たちの目の前に存在しているのである。

――オリンピックごとに

メディアの注目とかスポーツとしての視点とかがインドアクライミングにのみ向けられているのでは、という疑問は別にして、実際にはまだ未来が決定されているわけではないのだ。当分の間、IFSCはオリンピック五輪の下での金メダルを争う競技として認められたのだといって喜んでばかりはいられない。少なくとも今のところは、そうだ。

2024年には、新たな開催国を念頭に再び競技選考が始まるのだが、そこでもう一度採択されるかどうか、そしていくつのメダルが割り当てられるのかは、2020年にクライミングがどのようなパフォーマンスを見せることができたかによるところが多いだろう。

「クライマー、そしてクライミング愛好者は、クライミングコミュニティがどれだけ力強く団結しているかを、そして私たちのスポーツの持つパワーを、世界の人々に見せなくてはならないのです」と、マッコールは語る。

今我々はオリンピックという世界の入口のホールドに足をかけたばかりだ。しかしその足掛かりを保ち、強固なものにするには、充分な粘りと、クライミングと同様に優れたソールラバーが必要なのだ。

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2016年、日本・加須でのボルダリングワールドカップ 写真=萩原浩司




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