素材と設計が融合する 夏のアルパインの最適解 アークテリクスの クライミングフーディ
文=小川郁代
強い日差しと冷たく乾いた空気が同居し、雲がかかり風が吹けば、ほんの数秒で急激に体感温度が低下する真夏のアルパイン環境で、テクニカルなクライミングに集中し続けるためには、何を身に着ければよいのだろうか。
保温性と通気性を備え、動きやすく着心地のいい薄手のストレッチフリースがまず候補に挙がるが、風や雨、摩擦の影響にはやや不安が残る。ソフトシェルであればある程度プロテクション性能は期待できるが、重量やストレッチ性、独特のひやりとした質感など、着心地の面では多少の妥協が必要だろう。
この難題にアークテリクスは、フリースとソフトシェルの要素を組み合わせるという答えを導き出した。異素材を組み合わせるハイブリッド手法はさして珍しくもないが、それだけにとどまらない、アルパインクライミングに焦点を絞ったニッチなこだわりが、この一着にはあふれている。
ベースとなるのは、裏面のスリット構造が通気性を発揮する薄手の高機能フリース。摩擦の影響を受けやすい部分に、ハイストレッチナイロンのソフトシェル生地を配して耐摩耗性を確保した。
フード部分は一枚仕立てだが、それ以外のナイロン生地はフリースの表面に重ねる形で配置されているので、吸水性や肌触りなど、フリース本来の着心地のよさは変わらず確保されている。補強が施されているのは、最も摩擦を受けやすい肘下とロープの振り分けを考慮した肩まわり、そして、ハーネスに下げたギアが接触する裾の部分。通気性と軽さを損なわず最大限の保護性を確保するために、ミニマムかつマストな範囲がシビアに絞り込まれている。
このアイテムのコンセプトが最も明確に表現されているのが、フードと裾の作りだろう。後頭部にコードアジャスターを備える、ひさし付きのヘルメット対応フード。隙間風をシャットアウトする裾のドローコード。どちらもアウター向けの仕様で、この薄さのフリースと組み合わせることはあまりない。フリースとソフトシェルの要素を、素材だけでなく仕様でも融合させているのがよくわかる。
大きく開くフロントファスナーや、シンプルでしっかり腕まくりができる幅広ゴムの袖口なども、すべてクライミングに最適化されたディテールだが、意外なのは、こうしたコアなクライミング用途のものには珍しく、かなりゆったりしたフィットが採用されていることだ。
腕や肩の可動域は、素材の伸縮性と脇下のガセットで充分確保しつつ、さらにゆとりをもたせることで、通気性とレイヤリングの自由度をより高めているのだろう。薄くしなやかなフリース素材だからこそ、上にシェルを重ねてももたつかず、下に着込んで保温性を高めることもできる。大きめのシルエットにもかかわらず、サイドから前面に回り込むようなカッティングの効果か、すっきり見えるのも好印象だ。
アルパインクライミングに用途を絞りながらも、インにもアウトにもレイヤリングのアレンジがしやすいぶん、さまざまな場面に活躍の場が広がるだろう。フリースよりも安心感があり、ソフトシェルよりも気軽で動きやすい、「いいとこどり」の一着。クライミングシーンを知り尽くした、柔軟でユニークな発想が、暑い季節の変わりやすい環境に、最適解を与えてくれる。
アークテリクス コンシール SL プルオーバー フーディ
価格: 2万7500円
重量: 396g(M)
色: 3色
問い合わせ先:
アークテリクス カスタマー サポートセンター/アメアスポ ーツジャパン
arcteryx.jp/
*この記事はROCK&SNOW2025年7月発売号を一部修正し、転載しています。