2025ピオレドール授賞式が開催


トロフィーを手にした生涯功労賞受賞のオディンツォフ(中央)と、2022年に同賞を受賞したスロヴェニアのシルヴォ・カロ(右)

文=和田 薫
写真=Piotr Drodz

 イタリア北部のサン・マルティーノ・ディ・カストロッツァで12月9日から12日にかけて、2025年のピオレドール授賞式が開催された。

 今年は受賞者たちだけでなく、審査員のイネス・パパート(ドイツ)、オ・ヨンフン(韓国) やジャック・タックル(米国)をはじめ、スティーブ・ハウスもアメリカから駆けつけ華やかなイベントとなった。(各受賞登攀の内容の詳細は現在発売中の『ROCK&SNOW』に)

 旧ソ連圏出身として初めて生涯功労賞を受賞したロシアのアレクサンドル・オディンツォフ は、家族とともにサンクトペテルブルクから参加。2022年2月にウクライナへの侵攻を始めたロシアに対し欧州は制裁を強めており、ロシアの一般市民へのビザの発給も厳しく制限している。ビザを得てもフライトがなかなかない。オディンツォフは、ソ連崩壊後も国境を超えてクライマーを育成・サポートしてきただけに、現在の状況は心が痛む。

 本人および主催団体であるGHMのクリスチャン・トロムスドルフも、「登山には、国籍も国境も政治も関係ない」と改めて強調した。オディンツォフとは20年来の知己であるスティーブ・ハウスと過去のヒマラヤ遠征での会話を披露し、まさに国境を超えた交流と再会に、会場は祝福ムードに包まれた。

 今年のピオレドールのもう一つのハイライトは、バンジャマン・ヴェドリーヌ (フランス)が受賞した今年の特別賞に象徴される、「アルピニズム」の再定義であろう。

特別賞を受賞したバンジャマン・ヴェドリーヌ

 従来、ピオレドールは、初登頂・初ルートをアルピニズムの体現として表彰してきた。しかし、時を経れば当然すでに登られた山・ルートが増え、初登頂だけに価値を見出すことに疑問が生じるのは当然のことだ。ヴェドリーヌは、K2をABCから1日で登頂、パラグライダーで下山するなど、創造性の高いクライミングを続け今回の特別賞受賞となったが、従来のピオレドールの対象とはならない。ただ、今年10月のジム・モリソンによるエベレストのホーンバイン・クーロワールのスキー滑降など、いわゆる「初登頂」でなくても私たちを驚かせてきた功績はたくさんある。

 2日目のプレスカンファレンスで、ジャーナリストたちからこの点についてクライマーに質問が投げられ、活発な意見交換がされた。「アルパイン・ロック」のアイディアが会場にも披露されたこともその流れを裏付けているといえよう。これは、ビッグウォールやカプセルスタイルなど、いわゆるアルピニズムに該当しないロッククライミングを表彰する、新たなカテゴリーを儲ける提案だ。カプセルスタイルでビッグウォールをソロで登る、スペインのシルビア・ヴィダルも2021年に特別賞を受賞している。この点はこれまでも何度も議論されてきたが、今回初めてそのアイディアが公に提示された格好だ。

 なお、筆者は出席できなかったため、本稿は出席者、関係者へのヒアリングによる。


2日目には受賞者らで雪山ハイキングへ

同一カテゴリの最新ニュース