スピードクライミング国際大会がオンラインで開催される

文=羽鎌田直人

国際スポーツクライミング連盟(IFSC)は2020年8月3日、初のオンラインでの競技会実施の試みとして、「IFSC Connected Speed Knockout presented by Japan Airlines」を開催した。

オンラインでの競技会といっても、同時刻に中継で実施するわけではなく、競技自体は、事前に参加を希望する加盟NFがそれぞれの国に設置されているIFSC公認スピードウォールで実施し、その様子を録画したものを編集して一つの競技会にするという今までにない形式のイベントである。今回は日本を含む9カ国から男子29名、女子25名の選手が7か所で分散して撮影を行った。日本からは、2月に開催されたスピードジャパンカップで活躍した5名の選手が参加した。

予選は対戦方式ではないため、各国で撮影した動画を単純につなげていけば一つの競技会の予選として統合することが比較的簡単だが、決勝トーナメントでは異なる国の選手同士を対戦させることになるため、参加者全員が片方のレーンで一人で登っている動画を決勝トーナメント中のステージの数(1/8ファイナル、1/4ファイナル、1/2ファイナル、ファイナルの計4回)だけ撮影する。

その上で、各国から提出されたリザルトを統合し、16名の決勝進出者の動画を拾い出し、各ステージでバーチャルに対戦させていく。それ故、対戦相手が誰になるかわからないため、対戦相手との勝負というよりはいかに自分のベストパフォーマンスを出すかという点が通常の競技会よりも重視された印象を受けた。これはおそらく選手によって得手不得手が出るだろうが、自分との戦いに重点を置かれたパフォーマンスは非常に無駄のないもので、通常の競技会と遜色がない見ごたえのあるものだった。

昨年の世界選手権八王子大会優勝者のルドヴィコ・フォッサリ(イタリア)や元世界記録保持者のユリア・カプリナ(ロシア)といった強豪が出場する中で、見事初代王者に輝いたのはRAHMAD ADI MULYONO(インドネシア)とALEKSANDRA KALUCKA(ポーランド)。共に2000年代生まれの若い選手で、ワールドカップでの優勝経験はなく、特にRAHMAD ADI MULYONOは国際大会出場経験はたったの5回と経験の少ない中で栄冠を手に入れた。

今回の競技会は、世界共通のウォール、ルートで競うスピード種目ならではの取り組みではあるが、ウォール自体の複雑なデザインではなく、シンプルなウォールにボリュームやマクロで変化をつけていくことが主流となっているリード、ボルダリングにおいても、将来的に同様の試みがなされるのではないだろうか。さらに、ウォールの設置と撮影機材の調達という点をクリアすれば、選手が移動する必要がなく旅費等の費用がかからないため、スポーツクライミング発展途上国からの参加のハードルが下がり、競技の普及の観点からもこの試みは評価されるだろう。

新型コロナウイルス感染症の収束が見えない今、選手のモチベーション維持のためにも様々な挑戦が競技団体には求められている。

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