アキラ (発表時9b)、25年ぶりに再登される

昨年11月といささか古い記録なのだが、重要なので掲載させていただく。

アキラは1995年に9b/5.15bというグレードで発表され、センセイションが世界中で巻き起こった。なにせ当時の最高グレードは9a、いきなり2グレードも上のルートがフレッド・ルーランという世界的には無名のクライマーが初登したというのであるから。ほとんどのパートがボルダーであることや、場所もわかりにくいことがあってか、アキラを本気でトライするクライマーは居なかったにも関わらす、勝手に「フレッドは登っていないのでは?」という噂までささやかれたのだ。(R&S編集部)

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文=セブ・ブワン 訳=羽鎌田学

フレッド・ルーラン三部作

「ヴィンテージ・ロック・ツアー」と銘打った企画でフランス、シャラント県にある岩場、レ・ゾー・クレー(これまではオークレーと表記)を訪れたのは、もちろん例の3本のルートが念頭にあったからだ。その3本といえば、フランス初の9aとされる“ウグ”、世界で初めて9bとグレーディングされ、その後再登されることもなく半ば伝説と化していた“アキラ”、そして想像を絶するライン取りの“ドゥ・ロートル・コテ・デュ・シエル”だ。幸いにもツアー中にお目当ての3本を再登できて大変満足している。

“ウグ”は、ランジとリスキーなムーブが随所に散りばめられた絶好のテストピース。“アキラ”は、ダイナミックで大きなムーブが続き、パワーかつスタミナが必要な、初登当時には珍しかった20mのルーフを進むルート。今回初めて再登しグレードは9bよりもむしろ9aのほうが相応しいと感じたが、それでもやはり初登された1995年という時代からすれば、ハードで斬新なルートであったのは間違いない。“ドゥ・ロートル・コテ・デュ・シエル”は、そのラインに誰もが目を奪われる。ルーフのど真ん中で一回転するようなジムナスティックな動きが要求されるルートだ。

今回レ・ゾー・クレーで登り、ひとつの興味深いことに気がついた。上記の3ルート、グレードはすべて9aだが、各ルートの特徴は大きく異なっている。そんな3本がまさに「ルーランの三部作」としてひとつになって、将来のクライマーたちの格好のチャレンジ課題となっているのだ。

“ウグ”-フランス初の9a

このルートは時代を抜きん出た一本であったに違いない。最近のボルダリングジムでよく目にするような派手なムーブで構成されている。ランジあり、驚くほど大きなムーブあり。でもこのルートが登られたのは1993年のことだ。まさに時代の先を読んだルートであった。フレッドの先見の明には感服する。(2002年に小山田大が再登している)

“アキラ”-神話的ルート

“アキラ”は90年代に生まれ今に至る伝説的な一本だ。1995年にフレッド・ルーランが世界で初めて9bというグレードを与えて発表したルートである。当時は9a+のルートさえもまだ存在しなかったのだ。クライミング界にとって、非常に意義あるステップであった。

“アキラ”はケイブの天井をロープをつけずに進み、ケイブから抜け出る、終了点手前6mだけをロープをつけて登るルートだ。このルート、誕生から25年間一度も再登されることがなかった。だからこそ、私にとって「ヴィンテージ・ロック・ツアー」 レ・ゾー・クレー編のメインディッシュでもあった。

レ・ゾー・クレーでのクライミング・パートナーは友人のリュシアン・マルティネスであったが、2人で一緒にトライし、共にめでたくレッドポイントすることができた。再登に際し、初登時と同じように膝パッドは使わなかった。

伝説的な存在となっているルートのグレードについてコメントするのは少々微妙だが、正直なところ発表時のグレードよりは易しく感じ、むしろ9aのほうが適切なグレードだと考えている。いずれにしても、当時は斬新で極めてハードなルートであったのは言うまでもないだろう。フレッドに脱帽!

“ドゥ・ロートル・コテ・デュ・シエル”-想像を絶するライン

“アキラ”を無事再登し、歴史的岩場を巡るクライミング・ツアー、レ・ゾー・クレー編もそろそろ仕上げの時がやってきた。最後に私を待ち構えていたのは、やはりフレッド・ルーランの伝説のルート、“ドゥ・ロートル・コテ・デュ・シエル”だ。

ドゥ・ロートル・コテ・デュ・シエルを再登するセブ・ブワン @crucisoffla

 
 
 
 
 
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このルートはフランス初の9aルート、“ウグ”と同じ壁にある。見上げれば空を背景にして誰かがナイフで刻みだしたかのような、それはもう圧倒的、印象的なルーフを登っていくルートだ。信じられないようなムーブで構成され、時には体を一回転させたり、一本指のポケットを使ったり、またとてつもなくダイナミックなムーブをこなしたりしなくてはならない。それは今の世代のクライマーにとっては面白くてたまらないルートなのだが、ほとんどのホールドは人為的に刻まれたものである。今回の再登にあたり、やはり膝パッドを使わなかったが、それは初登当時のスタイルで登りたかったからである。もしそれを使ったら、ルートのグレードは8cぐらいになるとは思う。いずれにしても登っていて面白いルート、の一言だ。

さてレ・ゾー・クレーでの「ヴィンテージ・ロック・ツアー」の仕事を満足に終えた今、次の目的地はソーソワの岩場だ。

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