引き算の美学が次世代を切り開く アークテリクスの軽量ハーネス

文=小川郁代

ここ数年で「薄くて軽いクライミングハーネス」の選択肢は大きく広がった。しかし、その先駆けがアークテリクスであることに、異論を唱える者はいないだろう。1991年に誕生した「ヴェイパーハーネス」は、3D熱成型のフォームパッドと熱圧着ラミネート構造により、「薄くても痛くない」という新しい価値観をもたらした。2008年発表の「ワープ・ストレングス・テクノロジー」は、荷重を広範囲へ分散して面で支える独自の構造で、パッドに頼らない快適性と衝撃吸収性の両立を現実のものにした。

今季の新作「リソス SL ハーネス」は、その系譜をさらに先へ推し進めるスポーツクライミング向けモデル。左右ひとつずつのギアループに固定式レッグループという、極めてミニマムな構成だ。従来の男女別展開を廃止し、ジェンダーレスの新サイズシステムを採用。6種のウエストサイズそれぞれに、股上(ライズ)と太もも周径の異なる2バリエーションを設けたことで、性別を超えた体形差に細かく対応できるようになった。太ももに合わせるとウエストが緩い、ライズが長すぎてハングドッグ時にウエストベルトがずり上がるなどの理由から、あえて異性向けモデルを選んで
いたクライマーにとっても朗報となるだろう。

そして「リソス」は、アークテリクスのハーネス史の分岐点となる大きな改革を遂げている。「ワープ・ストレングス・テクノロジー」の大胆なアップデートだ。従来は1本のウェビングから横糸を抜き、ハンモック状に広げた縦糸をラミネート成型していた。一方「リソス」では、そのウェビングの背中側を大幅にカット。最小限だけ残した左右の端部を、高強度な構造用ファブリックで圧着接続する新構造を採用した。ウェビングがぐるりと一周する構造から、ハイテク生地でパーツをつなぎ合わせたセパレート形状へ、根本的な設計転換が行なわれている。

この変革のきっかけは、型崩れ防止の補強材を開発するプロセスにあった。その補強材自体が、従来ウェビングの担っていた荷重分散を、予想以上の高いレベルで代替できるという発見だ。高機能繊維と圧着技術の、革新的な進歩の賜物といえるだろう。

その結果、ベルト厚はわずか2㎜に。クライマーの信頼を積み上げてきた衝撃吸収性を損なうことなく、より薄く、より軽く。長期間の使用に耐える適度な剛性を備えつつ、柔軟に体の動きに追従する。接着剤の使用量削減と複雑な手作業工程の簡略化は、品質安定性と価格抑制にも直結した。さらには、足上げ時のストレスの原因だった股下の構造的な縫い目の排除にも成功。いずれも、徹底したフィールドテストに裏付けられた成果だ。

18年にわたりハーネス開発の根幹を担う技術の中核に、文字どおりメスを入れ再構築された「リソス SL ハーネス」は、単なる簡素な軽量モデルではない。ヴェイパーハーネス以来貫かれてきた薄さと快適性へのこだわり、積み重ねた技術への自信、そして先駆者としての責任。ブランドの思想そのものを体現した一作が、次世代ハーネスの新基準となる

アークテリクス リソス SL ハーネス
価格: 2万5300円
カラー: 1色
問合せ先:アークテリクスゲストサービスセンター
arcteryx.jp/