さらなる強さを追い求める アークテリクスの軽量クライミングパック

小川郁代=文

アークテリクスを象徴する商品を一つ挙げるとしたら、何を思い浮かべるだろうか。アウトドアシーンはもとより、タウンにもブランドの存在感が広く浸透した今、バックパックやシェル、インサレーションなど、さまざまなアイテムの名が並ぶに違いない。

しかし、質問の対象をクライマーに絞ったとしたら、たとえ商品名が正確にわからないとしても、明確なイメージをもってこのバックパックを挙げる人の比率は、かなり大きくなるだろう。シンプルを極めたこのモデルには、クライマーの感性に訴えかける何かが存在している。

「アルファ FL バックパック」は、アイス&ロッククライミングのための超軽量パックとして、2014年に誕生した。軽さと耐久性を兼ね備え、防水生地にテープシームを施した全天候型設計。必要最低限な要素だけをストイックに絞り込んだスタイルは、多くのクライマーたちの絶大な支持を、現在まで途切れることなく受け続けている。

その名品が今季、メイン素材を変更する。従来モデルで使用されていたのは、ナイロン生地に特殊なウレタン加工を施した高耐久素材。もともと、ギアや岩との接触を想定した強度を備えていたが、それをさらに強化すべく、LCP(液晶ポリマー)糸をグリッド状に織り込んだHadronTMLCPに変更した。

その結果手に入れたのは、引き裂き強度30%、耐摩耗性60%という大幅な耐久性の向上。通常の使用による引き裂きや破れの不安はこれまでもほぼないに等しかったが、長く使ううちに現れる「味」のようなわずかな使用感すら、今後は見られなくなるだろう。

すでに製品として完成形といえる状態にあったため、素材以外の構造にほぼ変化はない。上部にロープ固定用のベルトを備え、ドローコード式クロージャ―の中に、容量の拡張が可能なロールトップの一体型インナーバッグを備える構造。収納は、インナーバッグの外とフロント上部にある、ファスナー付き小型ポケットのみ。6つのラッシュポイントに通されたバンジーコードとボーン型のアルミパーツを使って、クランポンやアイスツールを取りつけることができる。

わずかに変わったところといえば、ストラップ類を固定するパーツやラッシュポイントの形状が、扱いやすくなったことぐらいだろう。背面は硬めのパッド入り。コンプレッションやフィッティング調整の機能はないが、ギア類が背中に当たる不快感は充分に抑えられる。

ショルダーストラップも薄手だが、名品と呼ばれるハーネスで使われている熱形成の技術によるものだと知れば、背負い心地にも大きな不安はない。アタッチメント類の少なさは、スリングやコードを足すことで、自由度の高いアレンジを可能にする。

素っ気ないほどに無駄のないスタイルは、シンプルゆえの不自由さもあるが、登りを邪魔するものは何ひとつない。技術や経験がなければ使いこなすのは難しいが、お仕着せのものには満足しない玄人好みの魅力があることは、ガイドの使用率の高さを見ても明らかだ。

完成形にあえてメスを入れた、今回のリニューアル。耐久性を大幅に向上させながら、重量の増加がないことも、忘れず記しておかなくてはならない。

アルファ FL 30 バックパック
価格: 3万6300円
カラー: 2色
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