「ビースリー春日部」無人での非接触営業を開始

GYM DATA

所在地:埼玉県春日部市樋堀374-15
営業時間:月~金曜9:00~23:00、土日・祝日10:00~21:00
無人営業日・時間:月曜9:00〜23:00、火〜金曜9:00〜13:00
*無人営業時間の利用は、フリーパスを購入したメンバーのみ
*火〜金曜は12:30ごろよりスタッフが清掃に入ります
*月曜に臨時休業となる可能性があるので、ホームページ、SNS等でご確認ください
ジム情報:https://www.climbing-net.com/gym_detail/b3-kasukabe/
ホームページ:http://bouldering-b3.main.jp/


混雑時はどうしても休憩スペースが密に……

長期戦を余儀なくされたコロナ禍で、全国のクライミングジムの負担は、ますます深刻化する一方だ。どうしたら感染を防ぐことができるのか、以前と同じようにクライミングを楽しんでもらえるのか、どのジムも対策に頭を悩ませているだろう。

コロナによってダメージを受けるのは、利用者であるクライマーも同じ。臨時休業や人数制限で登りたいときに登れない、混雑していて感染の不安を感じるなど、以前とは違うストレスを感じることもあるだろう。何よりも、コンスタントに登ることでキープしてきた、モチベーションやコンディションを落としてしまうのは、クライマーにとって、もっとも大きな痛手だ。

混雑を解消する非接触営業への取り組み

そんな状況のなか、新たな対策を打ち出しそうとしているジムがある。埼玉県・春日部市にある「ボルダリングサイト ビースリー春日部」。これまでも、手洗いや消毒、マスクの着用や人との距離を保つことなどの対策を徹底してきたが、小規模ジムならではの悩みを抱えていたという。どうしても、来客が重なり混雑する時間ができてしまうのだ。

取り立てて狭いジムではない。広い駐車スペースを備える敷地に建つ長方形の建物は、テラスドアを含む2面の大型開口を持つ開放的なつくり。換気も充分に行なえる環境ではあるが、クライミングジムの特性として、登っていない間は安全のためにマットから下りるため、限られた待機スペースに人が集中する状態になる。入場制限をすれば解消はできるが、登る機会を減らさずに、もっと積極的な方法で混雑を緩和できないかと考えたという。

大きなドアを全開にして店内の換気は万全

そこでたどり着いたのが、スタッフ不在の無人営業時間を新たに設けるという手段。火曜から金曜の13時以降と休日は、従来通りスタッフが在店して営業を行ない、毎週月曜終日と火曜から金曜の9時から13時を、スタッフ不在のままオープンするのだ。

こうすることで、スタッフとの接触による感染リスクを減らすことができるうえに、営業時間が増えることで、一定の時間に集中する来客を分散させることができる。勤務時間の増加で、スタッフの休暇を圧迫することもない。

追加になるのは平日の午前中が中心だが、テレワークや在宅勤務など、コロナ禍で仕事のスタイルが変化し、平日の時間を自由に調整できるようになった人も多いだろう。通勤に費やしていた時間を利用して、始業前や昼休みにトレーニングをすることもできそうだ。

従来の営業時間ほど密になることはないと予測されるが、状況を見て、無人営業時間帯の人数制限も検討するなど、柔軟に対応していくという。

スタッフ業務を補うしくみと信頼関係

もちろん、この方法には解消すべき問題点もある。利用料の支払い方法、防犯対策、利用中の安全管理やトラブル対応など、従来スタッフが行なってきた業務をどのように無人化するかだ。

講じたのは、極めてシンプルでオールドスクールな手段。無人営業時間にジムを利用できるのは、事前に会員登録を行ない、月額定額制のフリーパスを購入した会員のみ。入口にナンバーロックを設置して、フリーパス会員のみに解除番号を知らせるようにする。盗難などのトラブル防止のために、カメラも設置する予定だ。

もっとも気になるのは、利用中の安全管理だろう。けがなどの事故発生時の対応や、危険な行為を注意するなど、スタッフの目がない状態では管理が徹底できない点は否めない。しかし、そもそも危険を伴う行為であるフリークライミングは、それを充分に理解したうえで、自分の責任で行なうというのが大前提。そのため、初心者や初来店者は対象とせず、充分に自己管理ができる経験があり、店のルールも理解している、「ビースリー春日部」の既存メンバーに利用を限定。店側が利用者を信頼して無人の店舗を解放する代わりに、利用者も自分の責任で、ルールにのっとった利用を約束するという、互いの信頼関係の上に成り立つものだ。

開店以来地道に関係を繋いできた、固定客に支えられる地元密着型のジムであるからこそ可能なスタイルだろう。


入口に新たに設置されたナンバーロック


利用者は入店時に自分で検温して体温を記録


引き続き手洗い、マスクなどの感染対策も徹底して

コロナ禍でモチベ―ションを保つため

今ではあまり聞かないが、一昔前までは無人のジムがいくつかあった。存在を知る一部のクライマーだけが自由に出入りできる、プライベートジムに近いものだ。「ボルダリングサイト ビースリー春日部」の前身である、千葉県流山市にあった「B3」も、まさにそんなジム。2000年に、当時は珍しかったボルダリング専門のジムとして生まれ、10年以上にわたって、時代をけん引するコアなボルダラーたちに愛された。現在のビースリー春日部の店主、佐川史佳さんも、当時の利用者の一人。利用料金はポストに入れ、掃除もメンテナンスも利用者たちが自主的に行なうスタイルが、今回のプランのベースにあるのだろう。


「仕事前のひと登りに利用してください」(佐川さん)

「正直なところ、無人営業でジムを開ける時間を増やしても、金銭的なプラスはほとんどありません。ただ、コロナのせいで思うように登れないお客さんのために、顧客サービスのつもりで考えました。古いお客さんからは、『昔のB3に戻るみたいだ』といわれますが、まさにそんなイメージですね。

当時私は都心で会社勤めをしていて、平日の残業後にトレーニングができるのは、深夜でも登れるB3だけでした。冷暖房も水道もなくて冬は岩場より寒かったけれど、わずかな時間でも登る場所を与えられたことで、なんとかクライマーとしてのモチベーションが保てました。コロナのせいでクライミングをやめてしまうなんていう人を減らすために、少しでも役に立てばと思っています」(佐川さん)

取材・文=小川郁代、写真提供=ビースリー春日部