patagonia50周年 現状を問い、未来へ向けて考える
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文=吉澤英晃、写真=鈴木岳美
環境に配慮した活動で知られるパタゴニアは、 1973年の創業から今年で50周年を迎えた。しか し、多くのクライマーは、彼らの原点がそれよりもさらに昔にあることを知っているはずだ。パタゴニアを創業する数年前、イヴォン・シュイナー ドは、当時経営していた会社の売り上げの多くを 占めていたピトンの製造・販売の中止を決断する。 そして、1972年には仲間のクライマーたちにピトンの使用中止を訴えると共に、クライミング環境の劣化、道徳の劣化を文面で顕わにし、クライミングを楽しむフィールドと冒険的要素を守るための方法を『Chouinard Equipment』のカタログのなかで紹介した。
それが、プロテクションにチョックやヘックスを使用して岩への痕跡を極力残さない、いわゆる「クリーンクライミング」だ。
考えてみてほしい。現在私たちがクライミングを楽しんでいる環境は、この先もありのままの姿を保ち続けることができるだろうか? もしも、 チョークの痕が道標のように残り、必要以上にボルトが打たれたルートが増えたら。それは、ゲーム的要素の強いルートになるかもしれないが、クライマー一人ひとりの自由と本来そこにあるべき冒険的要素も容赦なく排除してしまう。
クライミングは近年オリンピックの競技にも選ばれ、スポーツの一種として社会に認知されつつある。それ自体は喜ぶべきことだが、多くのクライマーを魅了してやまないクライミングの本質も見失ってはいけないだろう。
パタゴニアのアンバサダーのひとり横山勝丘は、昔のインタビュー記事で、登る行為を楽しみつつ「未知を見つけ出し、足を踏み入れることに 喜びを感じる」とコメントし、同じくアンバサダ ーの倉上慶大は、過去の記事で「自由で創造的なクライミングに長年魅了されてきた」と記している。そして、かのイヴォン・シュイナードは、冒頭の51年前のカタログで「我々自身と未来のクライマーがクライミング体験を確保する唯一の方 法は、第一に垂直の野生地を、第二に体験に内在 する冒険を守ることである、と我々は信じている」と明言した。
この先、はたして私たちは自然の岩場で本来のクライミングを楽しみ続けることができるのだろうか。最後に、パタゴニアの創業50周年に寄せられた横山と倉上のメッセージを紹介する。彼らの言葉には、現状に対する危機感や未来へ向けた 行動への意思が込められている。
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クライマーは山や岩に登るべきラインを見いだす。その過程の中で、多かれ少なかれ自然に手を加えることになる。
クライマーのエゴ? でもそのおかげで豊かな 時間を過ごせるし、そのフィールドに対してより 深くコミットできるようになる。
であるならば、そのエゴに対して責任を持とう。フィールドを守るのはもちろんのこと、僕た ち自身のクライミングは未来のクライマーに審判を下されるのだと肝に銘じたい。
想像力を駆使して、五十年後に輝く行動をしよう。クライミングは、時代を超えて同じ喜びを共 有できる唯一無二の存在なのだから。(横山勝丘)
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クライミングの自由は、まっさらな自然を相手に独自の感性で見いだしたラインを描く過程にこそある。
その自由を追い求めることによって、クライマ ーたちは自由の表現者となり自らの生を謳歌してきた。
今を生きる我々はいま一度、クライミングそのものの原点、そして自然環境におけるクライマーの在り方を見つめ直すことが時に必要なのかもしれない。
未来の表現者たちから、彼らの自由を奪わないために。 (倉上慶大)