ドライツーリング、ドロミテ遠征記録


A Line Above the Skyの橋本翼 

中島正人

2023年8月12日~19日のイタリア・ドロミテ遠征で竹内春子、橋本翼、中島正人の3人が高難度ドライツーリングルートA Line Above the Sky(D15)を完登した。まずはドライツーリングに馴染みの薄い方に向けてD15の位置付けについて少し書きたい。

ドライツーリングにおけるD15の位置付け

ドライツーリング(以下、ドラツー)のグレーディングとなるDグレードのD15以上は、再登検証されたルートが世界的にも限りなく少ない。GWに私が初登する事が出来たフランスのPlug me if U can(D15)もその一つとなる。

今回訪れたのは、イタリアのドロミテ、名峰マルモラーダの麓にあるTomorrow’s Worldと呼ばれる岩場である。ここに英国人登山家のトム・バラード氏によって2016年に開拓されたルート、“A Line Above the Sky”がある。このルートは、世界初のD15とグレーディングされ、更に高難度ドラツールートを攻略してきた有数のクライマーらの再登によってD15が検証された稀有なルートである(トムからの検証の呼びかけと、その人望の強さも感じる)。以降、世界中の高難度ドライを目指すクライマーらの試金石となった。そのルートに今回、ここ数年アイスクライミング・ワールドカップに参戦してきたメンバーの竹内、橋本、中島の3人でトライしてきた。

A Line Above the Sky(D15)ルート概要

D9, D12, D15-, D14+の4つのルートを繋いだ全長45mを超えるロングルートである。うち40mは、水平のルーフとなり、クリップ数も25を超え、挑戦者を威圧してくるルートだ。私は2018年に一度Tomorrow’s Worldには来ており、当時はその威圧から触る事もなく、他の“Edge of Tomorrow”(D13)をトライするも、落とす事ができなかった苦い過去がある。それを払拭するためにも、GWのフランス遠征から更なるトレーニングを続けていた。

完登まで

トライ2日目となる8月13日に、まず中島が2トライ目に核心でアックスを落とすも、3トライ目に完登する事ができた。フランス遠征を含めた半年間の密なトレーニングの成果を出す事ができた。

同日、橋本も核心でフォールするも、レスト日を挟んだトライ3日目に30分の渾身のクライミングを見せ完登。

竹内は、男子メンバーでもビッグムーブとなるところで、リーチ問題に直面。トライ3-4日目はトライ数を1日1回に制限し、核心部のムーブを研究。体力を温存しながら自分のトライ動画を見続け、ムーブを構築していた。そして、トライ5日目に、持ち前の身体の柔軟性と伸びをフルに活かし、リーチ問題を攻略。見事に完登を果す。女性による完登は、イタリアのアンジェリカ・ライナー氏が2017年に登って以降、史上2人目の快挙となる。

竹内春子の完登後のコメント

ルートの構成的には昨年登ったIronman(D14+)のほうが複雑だったので、それよりは登りやすいかと思いきや予想以上に遠く感じるムーブが多く、苦戦した。事前のトレーニングが不足していたかと弱気にもなったが、岩場への慣れや天候、自分のコンディションがそろったタイミングで、ベストな登りができてよかった。

A Line Above the Skyを女性第2登する竹内春子

更なる挑戦(中島): 世界最高グレードD16

Tomorrow’s Worldに2023年現在、ドラツーとしては最高グレードのD16、Parallel Worldが存在する。このルートは、A Line Above the Skyよりもさらに長いルーフにラインを取っており、ルート超は60mとなる。手数も10手以上増え、56手(中島換算)。そして、一手一手も遠い。トライ2日目以降、私はこのルートに挑戦していた。

ルートの構成は傾斜壁を10m登った後、50mはルーフとなる。トライは8月19日の最終日まで続いた。最後のトライで残り2手となる54手目まで達したが、ここでF9をしようと足を掛け替えた際に、アックスに足が掛ってしまった。すぐに解除できれば良かったが、持久力ギリギリの状態だったのもあり、すぐに解除できずにアックスに荷重を掛けてしまった。そのため、終了点には到達できたものの、完登とはしなかった。

再登検証されたD16のルートはわずかで(確認されているD16はこの他に4つ)、Parallel Worldは、第2登者クォン・ヨンヘ氏、第3登者Matteo Pilon氏からはD15+が提案されている。その理由をMatteo氏は、レスト可能なポイントが複数あるという点と、D16をグレーディングするには、何かが欠けていると語っている(リーチが長いクライマーには有利なルートのため、テクニカルな点と推察)。とは言え、明らかにA Line Above the Skyと比べると持久力、ムーブ共にハードなルートと感じた。

Parallel Worldをトライする筆者

更なる挑戦(橋本): DTS

橋本は、GW遠征後、DTS(Dry Tooling Style : F4/9を使わないスタイル)にも熱心に取り組んでいる。フランス人クライマーのピエロ・ブッシェ氏、ガエタン・レイモンド氏らのDTSの登りを直に見てから、自らのクライミングに積極的に取り入れようとしてきた。

今回もトライ3日目以降は、DTSの自己グレード更新に挑戦。D12までは、フランスでRPしたため、まずは同グレードのFear Index”(D12)に取り組み、1デイ2トライで完登。翌日にはEdge of Tomorrow(D13)にトライ。しかし、終了点直前で体を保持する事ができず、F4を使いRPはするもDTSでのグレード更新にはならなかった。

終わりに

Tomorrow’s World は、ルーフルートがメインであるため、低グレードがなく、中上級者向けの岩場であるが、フリークライミングでは中々やる事がない、長大なルーフへのトライに興味のある方はぜひ訪れて欲しい。

また今回もGWに続いて遠征に付き合ってくれた橋本くんと、直前にジョインしてきた、はるこーの3人でのトライは、楽しさと学びが深く、実りの多い遠征となった。本当に感謝。私は惜しくも宿題を残したが、完登する機会を楽しんで待とうと思う。

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