ヤーコポ・ラルケル、Parthian Shot, E10 6c再登

Xa White UKC 訳=羽鎌田学

7月7日、ヤーコポ・ラルケルがイングランド中部ダービシャー州ピーク・ディストリクトのバーベッジ・サウスエッジにある、ホールド欠落後のParthian Shot(E10 6c)を第4登した。

1989年にジョン・ダンによって初登され、1997年にはアイコン的存在の映画『ハード・グリット』の中で見られるようにセブ・グリーヴによって第2登され、その後2011年には、トライ中のウィル・スタンホープが核心部からフォールした際に、永遠に姿を変えてしまったルートでもある。不運なウィルは、墜落の途中で重要なフレークの一部を引き剥がし、「グランドフォールし、血を吐き、息をするのも苦しい」状態で地面に横たわる自分に気がついたという。

2008年にケヴィン・ジョージソンがグランドアップでのトライの過程で被った数知れぬほどのビッグフォールは人々にとって見慣れたシーンになっていたが、そんなParthian Shot E9は、まったく別のプロジェクトとなったのだ。

そして2013年、ベン・ブランズビーがこのプロジェクトを完登し、E10 6cという新しいParthian Shotの初登者となった。それ以来、完登したのは3人だけ。2014年のニール・モーソン、2021年のシーベ・ファンヘーエ、そして最後は、今月初め、英国を訪れたヤーコポ・ラルケルだ。

そんなヤーコポと私たちUKCはコンタクトを取り、その経緯を探った。

――Parthian Shot完登、おめでとうございます!このルートに出会ったきっかけと、その時の印象を教えてください。

ありがとうございます。Parthian Shotは、あまりにも象徴的で有名なので、そのルートについて最初に聞いたのがいつだったか覚えていないくらいです。単純に、トラッドクライマーとして必ず登りたいラインのひとつだったのです。

――あなたはE11までのハードなトラッドルートをたくさん登られています。Parthian Shotにまつわる話題の多くは、ギアについて、特にギアの効きがいかに悪いか、落ちたときに耐えられるかどうかということになりがちですが、このルートを登るに際し、ギアについてどうお考えになりましたか?そして重要なことなのですが、ルート上のギアを信頼されていましたか?

まあ、あの悪名高いフレークにセットしたギアが本当に効いているかどうかの判断は難しいですね。花崗岩なら、もっと信頼できるでしょうが。ギア自体はサイズが小さくてもかなり大丈夫そうに見えるのですが、それをセットするフレーク(の残り…)が少しうつろな音を立てているのです。まあそのフレークがあれ以上剥がれることはないとは思いますが、ただルート最上部からのフォールの衝撃にギアが耐えられるかどうかは今一つわからないのです。ですから、核心部ではかなり安全に感じられたのですが、上部で足を踏みかえる時はそうではなかったのが本当のところです。その瞬間は、ソロクライミング・モードに頭を切り替えていました。

私はエネルギーをもう少し”浪費”することにして、2本のスライダーと2本の小さなナッツをセットしました。そのおかげで上部ではもっと安全に感じることができました。また最初のパートでホールドが1つ欠けていたので、トラバースするところでリードの際に水平の切れ目にカムを1つ余分に入れました。このカムのおかげで安心してフォールできるようになり、またフレーク内のギアを所定の位置に保つのにも役立ちました。実際フレーク周辺の岩はあまりしっかりしていないようで、他のホールドが壊れたとしても驚かないでしょう。

(ヤーコポはリードで登りながらすべてのギアをセットし、ギアをセットした後にクライムダウンするようなこともなかった)

――ルート上の別のホールドが欠けて、そのせいでスタートが少しパワフルになったということですが、そのホールドはルートのどこにあって、その欠落がクライミングにどう影響しましたか?

パワフルになったのは、そのとおりです。初めてこのルートにトライした時、新たに欠落したホールドのことは知らなかったのですが、実際取り付くと、そのパワフルなイントロムーブにすっかり驚かされてしまいました。でも、その日の午後、サム・プラットがそのことを教えてくれた時、少しホッとしました。欠けたホールドは、最初の2つのクリンプから取りに行っていたサイドプルです。ホールド欠落前にこのルートをトライしたことがないので、このことがシークエンスの難易度にどう影響したかはわかりません。でも今は間違いなく、クリンプを使ってもうワンムーブ余計にこなさなくてはならず、その後にスローパーへの大きなムーブが出てきます。背が低いほど難しくなる一手です。

――今回の英国ツアーでは他に何を登りましたか?他に特筆すべきルートは?

正直に言って、トラッドクライミングをテーマにした映画撮影のため、ツアーのプランは単にいろいろなスポットを訪れ、適度な難しさのクラシックルートに何本かトライするというものでした。時間もあまりなかった上に、できるだけ多くのものを見たかったので、ハードなものには手をつけないつもりでした。ツアーの初めは、レイク・ディストリクトでした。もっと高さのある岩場に行ったり、歴史的なルートに取り付いたりしてみたかったのですが、あいにくの雨続きで計画が変更になり、雨でも登れそうな数ヶ所の岩場(主にリーキャッスル・クラッグとシェパーズ・クラッグ)で少し登っただけでした。

その後、私は以前ピーク・ディストリクトで登ったことがなかったので、シェフィールド周辺で数日過ごそうと決めたのも自然の流れでした。まあ暑くて登れないだろうとは思っていましたが、風が強くて予想以上にコンディションが良かったのです。また、北ウェールズでのクライミングにも触れてみたいとは考えていましたが、天気予報も良くなってきたので、結局シェフィールド周辺に滞在し続けました。他のハードルートにはトライしませんでしたが、クラシックルートには何本か触れることができました。ピーク・ディストリクトを象徴するようなハードラインはとても素晴らしそうですから、またいい季節にぜひ訪れてみたいですね。

――象徴的なハードラインといえば、英国に戻って例えばどのルートにトライするのが一番楽しみですか?

答えるのが難しい質問ですね。トライしてみたいルートがたくさんあるのです。Meshuga(E9 6c)、Appointment with Death(E9 6c)、The Groove(E9 7b)、GreatNess Wall(E10 7a)、Lexicon(E11 7a)、Gaia(E8 6c)、The End of the Affair(E8 6c)、Indian Face(E9 6c)、Braille Trail(E7 6c)などです。ノーサンバーランドとスコットランドにあるすべてのルートは言うまでもありません。単純にやりたいルートが多過ぎるのです。スコットランドのベン・ネヴィスにあるデイブ・マクラウド初登のEcho Wallは、間違いなく、人生で一度は見てみたい、トライしてみたい一本です。

――次の目標は?

 昨年は、遠征や撮影の仕事でとても忙しい一年でした。今は正直なところ、自宅周辺やアルプスで時間を過ごすこと、そして単純に可能な限りクライミングをして体調を戻すことを楽しみにしています。差し当たりこれからの数ヵ月間は、パートナーのバプシとイタリア北部のヴァル・ディ・メッロの岩壁にある古いエイドラインのフリー化に挑戦しようと考えています。秋にはフランスのアノにも行きたいし、北イタリアやスイスでトラッドの新しいプロジェクトを見つけることにも時間を使おうと考えています。

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