門田ギハード、アメリカ・コロラド州ヴェイルの「Saphira」M15- 完登

文=門田ギハード 写真=石川貴大

2024年3月12日、アメリカ コロラド州Vailにあるミックスクライミング世界最難ルート「Saphira」M15-を完登した。

「Saphira」は2016年、アイスクライミングW杯チャンピオンにも輝いたチェコ人クライマーLucie Hrozováによって開拓された世界最難のミックスクライミングルート。エリアの右端から強傾斜を30mほど登り、途中大きなハングを2つ超え、最後は天井の巨大ルーフ(約25m)をフィギュア4を駆使してエリア左端まで横断する全長約55mの長大なルートだ。

ミックスクライミングルート(Mグレード表記)とされているが、ルートは岩が主体のドライツーリング的な要素が高く、氷は終了点まで使わないとされている。これまでにW杯選手を中心に多くの再登者がいるためダウングレードの噂がある。しかし数字が下がったとしても、現在のところ「Saphira」より難しいルートが存在しないため最難であることは変わらない。それは、単に長大なルートだからというわけではない。数ミリの極小ホールドでフィギュア4の連続を強いられる繊細さと長時間の空中戦をこなすフィジカルが要求されるからだ。さらに、「Saphira」のあるエリアThe Fang Amphitheaterが標高2700mの場所にあり、酸素濃度が平地の73%程度。酸欠気味の中、前腕の激しいパンプとの闘いが強いられる。

まず、一番うれしいのは、昨年2月Helmcken Falls完登(世界最難アイスエリア)の時のパートナーである石川さんと、今度はミックスクライミング世界最難に挑戦できたこと。僕の挑戦に付き合ってくれて、登れた時は一緒になって喜んでくれたことが何よりもうれしかった。

ルートは「第二ハングの空中トラバースからの乗越し」、「最上部ルーフ帯の入り口」、「ルーフ帯のフィギュア4トラバースの後半の極小ホールド繋ぎ」とタイプの違う核心がちりばめられていて基本的には3~5mのランナウト。最後の10m近いランナウトは精神的にもかなりキツかった。標高が高いのは知っていたので、対策として日ごろからフィギュア4を連続100回以上1時間程度ぐるぐる回る持久トレーニングをしていたが、それでも最後まで繋げられず、心が折れそうになった。

3月10日に登れたものの、途中にある氷柱を使ったことで「FA時と異なる」と言われ、完登としないことにした。モヤモヤしたままで終わらせたくないという一心で、レスト日を挟んだ翌日、無事完登。スタートから終了点まで1時間もかかったが、ちゃんと登れることを証明することができてよかった。

なかなか登れない日が続き、気持ちが沈んでいたとき、現地のガイドやクライマーたち、(SNSで挑戦中を知った)W杯各国選手みんなが「お前ならできる」と励ましてくれたおかげで何とか奮起することができた。「仲間っていいな」って改めて思わせてくれる遠征になった。

シーズンを振り返ると、前半は大会も遠征も本当に何もうまくいかず、おまけにコロナ感染や肺炎にもなり、踏んだり蹴ったりだったがそこで腐らずに我慢して耐えてよかった。

シーズン後半の世界選手権で最高成績の5位入賞ができ、「Saphira」完登で良い締めくくりができた。今回の遠征だけでなく、日ごろから一緒に登ってくれる仲間や応援してくれる人、すべての人に感謝して来年の更なる飛躍を目指したい。

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「Vailへの遠征はHelmcken Fallsでの登攀に続き、2人で行く2回目の遠征となった。ギハードさんの超高難度に挑む姿勢は変わっておらず、今回の目的は世界最難ミックスルートとなった。

アメリカに着くと、例の如く到着した翌日からすぐに登攀を開始した。ギハードさんが挑む「Saphira」という課題を見て思ったのは、とにもかくにも長いということ。初日のルート探りは2時間半にも及ぶビレイとなった。翌日以降も確認とトライが続くが、その長さゆえにどこまで繋がれば可能性があると言えるのかがよく分からない。それでも日に日に到達地点は前に進んでいった。

そして、トライ6日目に実質1回目のRPとなった。ただ、このトライ中にルート上にある氷柱で大レストをとったことが物議になった。初登時には使われなかった氷を良しとするのかどうかということだ。私は、ギハードさんならそこでレストを入れなくても繋げられるだろうと期待していた部分があり実は心から喜べていなかった。口では「おめでとう」と言いつつも、できたら氷柱を使わずルーフ区間を駆け抜けてもらいたいと思っていた。

だから、レストを挟んだ翌日に氷柱でのレストを入れない文句なしの再登をしてくれた時は、心から良いクライミングを見せてもらったと感じた。これは本物の実力があったからこそできたことだと思う。まだまだ限界の見えていないギハードさんの登りに期待したいと思う」(石川)

 

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