平山ユージインタビュー

  映画『フリーソロ』の監督が世界的アスリートのあくなき挑戦に密着!
『崖っぷちからの挑戦状 with ジミー・チン』
  #1 アレックス・オノルド:絶壁の先に

平山ユージインタビュー

映画『フリーソロ』の監督が世界的アスリートのあくなき挑戦に密着!
『崖っぷちからの挑戦状 with ジミー・チン』
#1 アレックス・オノルド:絶壁の先に


文=小川郁代 写真=奥田晃司
 協力=ウォルト・ディズニー・ジャパン
 Sponsored contents 2023.01.20

ナショナル ジオグラフィックが贈る新番組『崖っぷちからの挑戦状 with ジミー・チン』の放送開始を前に、番組のホストであるジミー・チン、初回キャストとして登場するアレックス・オノルドの両氏と親交のある、プロクライマー・平山ユージ氏に、彼らとの関係や番組の見どころなどを聞いた。

Interview
平山ユージが語る2人のクライマー
『フリーソロ』はジミーにしか撮れなかったし、
ジミーがいなければ、アレックスの成功はなかったかもしれない

語り手 平山ユージ

1969年東京都生まれ。15歳でクライミングを始めてすぐ国内で頭角を現し、舞台を世界に広げた後も世界のトップクライマーとして、数々の難関ルートで歴史的な記録を樹立する。競技でも、1998年に日本人初のワールドカップ総合優勝を達成。1997年には、映画『フリーソロ』の核心として描かれている、ボルダープロブレムを通るサラテのバリエーションルートで、オンサイトに成功している。

—最初に、この番組全体を通しての印象を教えてください。

映画『フリーソロ』でタッグを組んだジミー・チン(以下ジミー)とアレックス・オノルド(以下アレックス)の関係や、映画の撮影に至るまでの様子が描かれていて、ひとりのクライマーが自分の目標に向かう姿が、映画を見た人はもちろん、見ていない人にも響く内容だと思いました。アレックスのクライミングシーンはもちろんですが、友人を命がけの挑戦に送り出す、周囲の人々の心境や葛藤が見えた部分が興味深かったです。

—平山さんにとって、ジミーとはどういう人ですか?

彼は、同じザ・ノース・フェイスのグローバルアスリートとして一緒に活躍する仲間で、古くからの友人でもあります。山岳カメラマンとしても世界を代表する存在であり、クライミング映画で世界的な成功を収めた人といえるでしょう。

クライマーとしても監督としても、やっていることはとても冒険的ですが、実は彼はものすごく優しくて、柔らかくて、温かい人。クライマーは普段温厚な人が多いけれど、彼はその中でも群を抜いて優しいと思います。人の意見を聞いたりまとめたりするのがとてもうまくて、彼がいるだけでチームの安心感が比較にならないほど大きくなる。だからこそ監督という仕事ができるんでしょうね。

—アレックスについても教えてください。

アメリカにいるときに、たまたま出かけたトークショーで初めて見た彼は、司会者との会話に苦労するくらい、シャイで口下手な若者という印象でした。ところが、その後アレックスがザ・ノース・フェイスのアスリートに加わってからは、人が変わったように社交的になりました。数年前に日本で一緒に回ったトークイベントでは、会話をリードするまでに進化していたのには驚かされました。

彼は、フリーソロという分野で秀でた才能を現わしていますが、シビアで挑戦的なクライミングだけに興味があるのではなく、登ることがとにかく大好き。日本で一緒に登った時は、普段のフリーソロ・クライマーのイメージとはまったく違う、石灰岩の前傾壁を楽しそうに登る姿を見せてくれました。

—2人を知る平山さんから見て、ジミーとアレックスの関係はどのようなものに思えますか?

ジミーが監督、アレックスが被写体という関係以上に、2人の間には深いつながりができていると思います。長期にわたる『フリーソロ』の撮影や、今回の番組に描かれているモロッコのツアーも含めて、2人は衣食住を共にして世界中を旅しています。長い旅の間には、きっといざこざもあっただろうし、意見を戦わすこともあったと思うけれど、それを超えてきた2人の間には、本当の意味で「親友」と呼べる関係ができているのを感じます。

映画の撮影中、ジミーが僕に、友人のフリーソロを撮影することの恐怖や不安を、こっそり相談してきたことがありました。そのときジミーが戦っていた葛藤は、本当に大きなものだったと感じました。でも、それがアレックスの希望であり、ジミーのプロとしてすべき仕事だった。だから、『フリーソロ』はジミーにしか撮れなかったし、ジミーがいなければ、アレックスの成功はなかったかもしれないと思います。

—平山さん自身は、アレックスのフリーソロをどのような心境で見ていますか?

僕の気持ちは、モロッコでトレーニングパートナーを務めた、トミー・コールドウェルととても近いですね。自分はフリーソロをしないけれど、友人であるアレックスを止めることはしない。止めたとしても彼の目標がそこにあるかぎり、止められないことがわかっているから。だから、一緒にトレーニングすることで、精いっぱいのサポートをしてあげたいし、それ以外にできることはないという想いが、痛いほどよくわかります。

—番組のなかで、一番印象に残ったシーンを教えてください。

シーンというよりも、モロッコでのフリーソロの後の、アレックスの満足いかない表情がとても印象的でした。エル・キャピタンに向けたトレーニングという位置づけとはいえ、モロッコでのフリーソロも、すごい記録のひとつです。それでも、彼自身が自分の登りに納得できなかったんでしょうね。登れたことだけでなく、内容に納得できてこそ本当の成功だという気持ちは、同じクライマーとしてよくわかります。

逆に、外から見れば失敗でも、自分にとっての価値や満足感が得られれば、それは成功なのかもしれません。成功までの道筋には、挫折や失敗もあって、それを克服することが次の成功の秘訣になるはずだから。

—ただ、フリーソロでの失敗は、ほかの失敗のようにやり直しがきかない...。

確かにフリーソロは落ちないことが大前提ですが、映画『フリーソロ』では一度、やろうと決めてスタートしたのに途中で中止しています。あれは彼にとって、大きな挫折であり失敗だったでしょう。その後18ヶ月という準備期間を経てあの偉業を成し遂げたのだから、自分の力で不安を克服し、大きな挫折を乗り越えたからこその結果だと思います。

—番組の中で、ジミーがアレックスのことを「数学者」と表現していました。映画『フリーソロ』の公開時に、平山さんもアレックスのことを、数学者のような人だと言っていますよね。

そうなんですよ。ジミーとその話をしたことはないんだけれど、番組内で同じことを言っていて驚きました。よくフリーソロをする人を、命知らずだとかクレイジーだとかいうけれど、アレックスにその言葉は、まったく当てはまりません。彼はものすごく緻密でクレバーで、すべてにおいて計算のできる人です。彼がフリーソロをするときは、たった一つの正解が明確に導き出されたとき。だから、不安や恐怖を感じることなく、数学者が解き明かされた数式を淡々と検証するように、クライミングに集中できるんです。ゴールを決めて、それに必要なプロセスをすべてクリアしていくから、自分の正解に迷いがない。目的のために必要ならやる、そうでなければやらないと、本当に明確で強い意志があります。

—このシリーズでは、ほかの山岳系アスリートとしてコンラッド・アンカーと、ウィル・ガットを取り上げる回もありますが、2人とは交流などがありますか?

『MERU/メルー』でジミーと一緒だったコンラッドも、ザ・ノース・フェイスのアスリートです。いつも「僕がユージをザ・ノース・フェイスに推薦したんだ」と言っています。ウィル・ガットは、アイスクライミングの地位を築き上げた人ですが、当時はフリークライミングのツアーにも参戦していて、1991年にクライミングのワールドカップ東京大会で来日しました。2人とも個性的ですごいアスリートなので、ジミーが2人の内面や成功の裏の挫折など、深いところを描き出してくれると思うと、ほかの回もとても楽しみです。

—最後に、この番組をこれから見ようとする読者に、見どころや注目のポイントを教えてください。

手に汗握るフリーソロのシーンはもちろんですが、アレックスがそのためにどれだけの準備をしてきたのか、ジミーやトミーをはじめとする彼の周りの人たちが、どんな気持ちで彼を支えているのかを感じてほしいです。また、フリーソロやクライミングにかぎらず、自分が定めた目的に向かって自らをコントロールすることの価値や、それに伴うルールと責任についてなど、クライマー以外の人にも、この番組を通して多くのことが感じてもらえると思います。

『崖っぷちからの挑戦状 with ジミー・チン』
どれほど優れた監督や写真家であったとしても、ジミー・チンのように生死をかけた極限の世界に身を置く同じアスリートでなければこの作品が生まれることはなかっただろう。その道を究めた者だけが足を踏み入れることを許される世界を内側からの目線で描く冒険のストーリー。アスリートたちの感動や希望、挫折や葛藤が見る人すべての心を激しく揺さぶる。
第1話/アレックス・オノルド:絶壁の先に
放送日時/2023年1月29日(日)21:00〜22:00(2話連続放送)
ナショナル ジオグラフィックにて、以降2話ずつ全10話を毎週日曜21:00~放送
*ジミー・チン監督が手がけた映画『フリーソロ』は、第1話放送直前の1月29日(日)19:00〜放送

https://natgeotv.jp/tv/lineup/prgmtop/index/prgm_cd/3117


ナショナル ジオグラフィック

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