『人生クライマー山野井泰史と垂直の世界完全版』が公開。 山野井泰史も舞台挨拶に登壇

2021年、ピオレドール生涯功労賞をアジア人として初受賞した山野井泰史。世界的クライマーである山野井の実像に迫ったドキュメンタリー映画『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』が11月25日についに公開された。翌26日には、公開記念舞台挨拶が東京・角川シネマ有楽町にて開催され、山野井泰史本人と武石浩明監督が登壇した。

公開を迎え、「本当に映画館でやることになっちゃったんだなあっていう感じがしています」と笑顔を見せる山野井は、本作の映画化について「TBSのドキュメンタリー番組の制作の時のことは『いいですよ』とお答えしたことを覚えているんですが、映画になることについては言われたような、言われてないような感じで始まったんです。僕が他のことを考えているときを狙って話をされたのかも(笑)」と述懐。自身の人生を大きなスクリーンに映し出されることにも「これを目指したわけじゃないので、まあ、いいんじゃないんですか」と飄々とした表情を浮かべた。

武石監督も「山野井さんからは自分から撮ってくれとは一度も言われていないんです。『じゃ、まあいいですよ』という感じで承諾をいただきました」と苦笑いし、自身の情熱で作り上げていったことを吐露。当然のことながら、山野井から『こう撮ってくれ』という注文はなかったそうだが、唯一のリクエストは「ブダイを釣り上げるシーン」だったとのこと。

今年3月の「TBSドキュメンタリー映画祭2022」で上映されたものから「完全版」として本作に追加した9分のシーンについて、監督は「何か足りないものを感じていて。ソロのくだりでは亡くなってしまう方が二人出てきますが、山野井さんをソロクライマーとしてどう描くかということも含めて、ソロクライマーの方の部分を付け加えました」とこだわりを語った。

本作のナレーションには、山好きとしても知られる俳優の岡田准一が担当。

岡田も山野井を「混じり気のない、眩しい存在。生き方に美しさを感じる。日本が誇る、知ってもらいたい日本人だ」と称えるが、山野井は「(奥様の)妙子の実家のほうで岡田准一さんと関係性ができた、繋がりができたと喜んでいました」と笑いつつ、「自分もパキスタンの山に登った時の記録にナレーションを入れてみたんですが、棒読みでお経のようになってしまって。やっぱりプロは違うんだなと思いました」と岡田を絶賛。

監督も岡田の起用に「最初は岡田さんで(映画を)売るのかと思われるんじゃないかとも考えましたが、結果的に岡田さんがよかった。山野井さんと岡田さんは妥協しないところが似ている」と満足気だった。

武石監督は以前から山野井のドキュメントを撮りたいと願っていたが、監督の印象を山野井は「最初はマスコミの人の怪しさがあって・・・(笑)、ちょっと警戒していたのを覚えています。でも、今までいろんな方と会ったけど、(マスコミ人の中で)いちばん体力がある。冬の富士山でもカメラマンは追いついていけないのに、彼は走って一生懸命追っかけてきたんです」と語り、徐々に二人の絆が深くなっていった様子をうかがわせた。

映画のなかでも大事なポイントとなる「マカルー西壁」についても触れ、「結果は失敗したけれど、突き抜けた取材になった。彼をもう一度撮りたいと思ったきっかけです。すべてが成功で終わる人には本当の意味で勝利の美酒を味わうことができないのかも。山野井さんは決してキレイな登山家ではないけれど、失敗があってそれを乗り越えるところがいいんです。ボロボロになってもまた挑戦する姿が映し出されていることがこの映画の魅力だと思っています」と、あらためて山野井を称えた。

今後の山野井の活動も気になるところだが、「実は先日また登山にトライしたんですが、肉体的に無理を感じました。いつも以上にトレーニングをしたんですが、仕方ないなと」と残念がるも、「次は何で遊ぼうかなと考えています」と目を輝かせ、すでに前を向いていた。

最後に山野井は「僕が主人公になっているので、僕の名前は1カ月くらい覚えてくれているかもしれませんが、映画の中には何人か亡くなられている方もいます。その方々の名前も1週間くらいは覚えていてください」と、同じく山に情熱をかけていた同士に敬意を払い、監督は「自分の好きなことをやり続けようと思って、いまだに続けている山野井さん。誰しも大切なもの、やりたいものがあっても、できなかったり、諦めてしまうこともあるかもしれないけれど、彼の姿を見て“燃えるための酸素”をもらえるような映画になっています。ぜひご覧ください」とメッセージを送り、舞台挨拶を締めくくった。

■作品概要
語り:岡田准一 監督:武石浩明 製作:TBSテレビ 配給:KADOKAWA
2022年/日本/109分/©TBSテレビ
https://jinsei-climber.jp/

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