「垂直のトライアスロン」 オリンピック競技としてのクライミングの未来(2)

その一方で、アダム・オンドラはEpicTVとのインタビューの中で、スピード競技を加えた複合競技にすることに疑問を投げかけている。「不自然な、どこにいっても同じルートで明けても暮れてもトレーニングする姿は、本来のクライミングとは大きく異なっている」と、彼は主張する。アダム・オンドラは2014年にはボルダリングとリードクライミングの両世界選手権で優勝し、世界にその圧倒的な力量を示している。そんな彼とオリンピックメダルとの間に立ちはだかるのがスピードクライミングでもあるのだが。

「クライミングフィロソフィーと相容れないスピードを入れた3種複合など話にならない」と彼は言い、2020年のオリンピックに参加するか、それともボイコットするかは思案中だと付け加えた。

「数人のクライマーは別にして、ほとんどの人が一つの競技のみに特化して努力しているのが現実なのに、今回の決定はすこし不公平だな」と、ダニエル・ウッズはIOCの発表当日にInstagramで呟いている。そして続ける。「もちろん3種複合成績で表彰するのはいいんだけど、それとは別に各競技別にメダルがあってもいいんじゃないかな」

この新しい競技形式に従えば、自然の岩でハードルートを登ることによって名声、そして生活の糧を得ているプロクライマーたちは、アウトドアでのクライミングを諦めて、インドアでプラッチックルートを登ることに励まなくてはならない。彼らが自然の岩場でのハードルート開拓、初登から身を引き、インドアジムで時間を費やすことは、彼らをスポンサードしているギアメーカーにとっても、彼らがネットにアップする素晴らしい写真を求めているInstagramのフォロワーにとっても、面白いことではない。

またIFSCのスポーツ主事であるジェローム・メイヤーは、「個人的には、今の流れに必ずしも満足できていない」と述べ、「東京以降のオリンピックでは、スポーツクライミングの中ででも、より多くのメダル、競技が競われるようになるべき。その実現のためには、IFSCは積極的に活動することが必要で、そして多少の妥協もしなくてはならないだろう。」と続ける。 

――誕生、垂直のトライアスロン

今回のスポーツクライミングのオリンピックへの追加は、2007年にIFSCの存在がIOCによって認められたとき以来の、長年にわたるIFSC側の努力が実を結んだ瞬間でもあった。それはもちろん名誉なことではある。しかしながら同時に、そのとき限りの追加競技ではなく、全大会常時実施される種目になるまでの本当の闘いはこれからなのだ、ということを忘れてはいけない。もちろん今回の追加決定がクライミング界全体にとってひとつの大きな弾みとなったことは言うまでもない。アメリカのクライミングジムで結ばれる新規登録契約書を数えてみれば、実に日々1000人の新しいクライマーがプラスチックルートに手をかけていることになる。IFSC参加国は計62ヵ国。アメリカ一国でその数なら、世界的に大きな反響を生んでいることは間違いない。

確かにIOCと東京オリンピック組織委員会はスポーツクライミングの追加を決めたわけではあるが、割り当てられた金メダルは男女一つずつ、計2個。当初、IFSCは3種複合のメダル以外に、各競技別のメダルも求めてはいた。しかしながらIFSCの代表が、その審議の場に加えられることはなかった。

「オリンピック競技数は既に飽和状態で、参加選手40名に対してメダルが一つしか割り当てられなかったとしても、実はそれほど驚くことでもないのです」と、前出のメイヤーは言う。「だからこそIFSCは3つある競技を前にして悩んだのです」「確かにスピードクライミングは他の2つの競技とは本来的に異なるものでしょう」と彼は認め、そして続ける。「私たちが取った考え方は、シンプルでした。全てのクライマーに門戸を開放する、という考え方です」IFSCが先ず目指したのは、1競技だけを外すことは避ける、であった。

>>参加選手数を比較しみよう……



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