そのウォームアップ、逆効果かも?!クライマーのためのウォームアップとは?

文=山田 隆/ボルダリングの整体院    モデル=江黒菜々子  

はじめまして、ボルダリングの整体院の山田です。

これから数回にわたり、「クライマーのための正しいセルフケア」についてお伝えすることになりました。

私自身、クライミングを30年近く続けてきました。そのなかで指や肘や肩の故障に悩み、試行錯誤しながら故障を克服した経験があります。そんな経験をきっかけに技術と経験を身に付けながら実践と研究を続け、「痛みのないクライミング」を広めるために今の仕事をはじめました。

私の整体院にいらっしゃる患者さんは、ほぼ100%の方がクライマーです。また、東京都内を始め全国各地でのワークショップなどを通じ、クライマーの身体のお悩みに日々お応えしています。

こちらでは、そんななかから特にみなさんのお役に立てる内容をピックアップしお伝えしていきます。クライマーの故障は特殊なものが多く、相談できる場所がまだ少ないのが現状です。この連載で、長引くつらい故障を予防して、楽しくレベルアップするお手伝いができれば嬉しいです。

第一回目は”クライマーのためのウォームアップ”についてお伝えします。ウォームアップはセルフケアの第一歩であり”セルフケアの要”です。

私自身よくジムや岩場に行きますが、ウォームアップが正しくできている方はあまり見かけません。なんとなく形だけやっている、という方が多いのが現状です。一流のスポーツ選手で、ウォームアップをしない方はおそらくいません。パフォーマンスを維持・向上し、故障を予防・改善させるには必須なのです。

ここではそんなウォームアップの意味だけではなく、「じゃあ何をどうやったらいいの?」という今日から実践できるお話もしていきます。

”ウォームアップ”は必要ですか?

クライミングにウォームアップは必要だと思いますか?

「ウォームアップなんて必要ない!」という方はあまりいないかもしれません。しかし故障のために来院された患者さんにうかがうと、ほとんどの方が正しいウォームアップをできていません。

そもそも”ウォームアップ”って何だろう?

ウォームアップというと何を思い浮かべますか?いつも何をしていますか?「ウォームアップは?」と聞くと「ストレッチをします」という方が多いかもしれません。また「軽く登る」という方も多いと思います。

…じつはここに大きな誤りがあるのです。はたして”ストレッチ”や”軽いクライミング”はウォームアップと言えるのか?という話なのです。

そもそもウォームアップ”warm‐up”とはなんでしょう?あらためて辞書で調べてみました。

(1) 〈…を〉温める:Will you warm up this milk? このミルクを温めてくれませんか?
(2) 〈冷めた料理などを〉温め直す
(3) 〈人を〉〔…に〕熱中させる, 興奮させる 〔to, toward〕

そう”ウォームアップ”とは温めること。

温まらないのであれば”ウォームアップ”とは言えません!そして、”身体が温まる=体温が上がる”ということになります。つまり、ウォームアップの最大の目的は”体温を上げること”なのです。

体温が上がると酵素が動きだす

なぜ運動前に体温を上げる必要があるのでしょう?

理由の一つは”酵素”のはたらきにあります。(注*体内で作られる”酵素”のこと・酵素ドリンクなどは別)体内の酵素は体温が上がると働きがよくなるからです。

あなたが生きていくため、身体は知らないうちに膨大な作業をしています。

例えば…

・食べ物を消化したり
・エネルギーを生産したり
・骨や筋肉などの細胞を新品に交換したり

…いろいろやってくれているおかげで、骨折が治ったりパキっても登れるようになったりするのです。

このような作業で起きる化学反応を”代謝”と言いますが、このとき活躍するのが”酵素”です。酵素のおかげで体温程度の低温で化学反応が起きるのです。

酵素というと”消化酵素”が有名ですが他にも様々な酵素があります。

例えば…

・エネルギーを合成する酵素
・筋肉の収縮に必要な酵素
・神経伝達物質を作る酵素

…などもあり、運動する際に酵素の働きがポイントになります。

手が冷えたまま「ウォームアップ・クライミング」していませんか?

冷えたままではウォームアップで筋肉や関節を傷める危険性があります。また、ストレッチをしても身体はあまり温まらないと思います。つまり”ウォームアップのためのウォームアップ”が必要なのです。

ウォームアップを正しくおこない、体温をしっかり上げると酵素がよく働きます。酵素の働きが活発になると筋肉の動きや神経の伝達が良くなるのです。その結果、全身のコーディネーションや筋肉の出力や反応速度もグッとよくなります。

そんなわけで、本当は登る前にエアロビック系のワークアウトやランニングなどすると最高なのですが、なかなか難しいですよね。そんな忙しいあなたのために、簡単にできるウォームアップ・ルーティンをご紹介します。

運動前の”静的ストレッチ”は慎重に

ちなみに運動前の”静的ストレッチ”はあまりおすすめできません。”静的ストレッチ”とは、反動をつけずにジワーッと伸ばすタイプのストレッチのことです。近年の研究では、運動前の筋肉が冷えた状態で静的ストレッチをすると…、

・筋肉が縮みにくくなりパワーダウンする
・無理に伸ばすと筋肉や関節を傷めたり、のちのち筋肉が固くなりやすくなる

といったデメリットがあることがわかってきました。静的ストレッチよりも、この後説明する”筋肉をゆるめるエクササイズ”のほうがはるかに効果的で副作用も少ないのです。

もし登る前に静的ストレッチをする場合は、痛みのでない程度にしてゆっくりとリラックスして行うようにしてください。登る前に急に無理なストレッチしても、あまり大きな変化はのぞめません。時間をかけて”ゆるめる”意識でおこないます。

柔軟性を増し可動域を大きくする目的であれば、クライミング後や入浴後など筋肉が暖まった状態で静的ストレッチをおこなうようにしましょう。

”動的ストレッチ”はどうなの?

軽く反動をつけて行う”動的ストレッチ”は、課題に合わせて適宜おこなうと動きが素早くなるのでおすすめです。動的ストレッチは、筋肉が縮みやすくなるように軽く刺激を与えるのが目的です。

ただしこちらも、運動前の筋肉が冷えた状態でおこなうことはおすすめできません。動的ストレッチをおこなう場合は、後ほど説明する”筋肉をゆるめるエクササイズ”のあとでおこなうのがよいでしょう。

クライマーのためのスペシャルエクササイズ!”ボルダリング体操”

体温が上がるだけで筋肉の動きは良くなるのですが、クライマーの筋肉はつねに固くコッた状態になりがちです。

「力を入れていないのに筋肉が縮んだままになっている状態」を”コッている”と言います。

体温が上がっても筋肉がコッていると…、

・可動域が小さくなり
・関節の負担が増え
・疲労が溜まりやすくなり
・パフォーマンスが低下し
・故障も起こりやすく

…なってしまいます。

そんなときに必要なのは筋肉を”ゆるめる”こと。

コッた筋肉を”揉みほぐしたり”’’無理やり伸ばしたり”すると、筋肉は抵抗を感じてさらにコリやすくなることがわかっています。くれぐれも揉んだり伸ばしたりは無理にやらないようにしてください。その場は”痛気持ちよく”ても後で筋肉のパフォーマンスが低下し、かえって故障の原因になることが多いのです。

筋肉を”ゆるめる”ために、私が考案したエクササイズが”ボルダリング体操”です。このエクササイズを行うことで全身の主要な筋肉群、特にクライマーが傷めやすい筋肉群を、副作用なく効率的に”ゆるめる”ことができるように作られています。

そんなことを踏まえて考えたのが、次のページにまとめた私のウォームアップルーティンです。

>>次のページ:これでバッチリ、クライマーのためのウォームアップ!