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追悼 柳 志雄(Liu ZhiXiong)
2014年も残すところあとわずか。当サイトでは登山界でのさまざまなニュースをお伝えしてきましたが、最後にひとつだけ、残念なお知らせを。 中国のアルパインクライマー、柳志雄(リウ・チション)が11月下旬、四姑娘山(スークーニャン)南壁の登攀終了後、下降中の事故で帰らぬ人となってしまいました。享年26。中国四川省アビ峰(5694m)南壁のソロ登攀でピオレドール・アジアにノミネートされ、ソウル市でのプレゼンテーションの際に「次のプロジェクトはここ」と宣言したわずか1ヶ月後の訃報でした。
ソウルで会ったリウ氏の印象は、社交的で明るい性格。カタコトの英語で私や和田淳二さんにさまざまな質問を投げかけ、同行した尾川智子さんの息子さんの面倒もよく見ていました。そしてなにより、クライミングに対する熱意が人一倍強かった。親善クライミングではインスボンのマルチピッチではなく、迷わずボルダリングを選択し、韓国クライマーたちとのセッションでは誰よりも数多く打ち込んでいました。実際に、フリーでのオンサイトグレードが5.12a、レッドポイント5.13aで、氷(WI6)やミックス(M8)にも安定した力を持たれていたとのことです。
今年のピオレドール・アジアでは残念ながら受賞を逃しましたが、帰国前夜、ホテルの私の部屋で、お互いの山の写真を見せながら話し合ったことがつい昨日のようです。「近いうちにもっといいクライミングをするから、ぜひ来年も会いましょう」と言って別れたのが、彼から聞いた最後の言葉になってしまいました。
中国人のアルパインクライマーとしては、同じ四姑娘山の北西壁に新ルート「自由の魂」を拓いた厳冬冬(ヤン・ドンドン)が有名でしたが、彼も2年前に天山の未踏峰でヒドゥン・クレバスに転落し、亡くなられています。リウ氏の事故も登頂成功後の下山中のものだと推測されていますが、私も1年前のアウトライアーでの下山中にちょっとだけ危険な目に遭っていたことから、不確定要素の強い高峰クライミングの怖さを改めて実感した次第です。
1年の最後に残念な話で恐縮ですが、同じアジアに将来有望なひとりのアルパインクライマーがいたことを記憶にとどめていただきたく、ご紹介させていただきました。2015年が皆さまにとってよい年になりますように。(「CLIMBING_net」『ROCK&SNOW』編集長 萩原浩司)