マリ・サルヴェセン、インディアン・クリークで Belly Full of Bad Berries(5.13)をフラッシュ

planetmountain.com 訳=羽鎌田学

3月下旬、マリ・サルヴェセン(ノルウェー)が米国ユタ州インディアン・クリークにある悪いことで有名なBelly Full of Bad Berriesをフラッシュし、2011年のピート・ウィタカーに次いで同ルートをフラッシュした2人目のクライマーとなった。

Belly Full of Bad Berriesは、世界で最も知られたオフウィドゥスの一本であることは間違いない。1995年に、その巨大なアーチ状の壁に刻まれたクラックを発見しその後初登したのは、ワイドクラックの達人ブラッド・ジャクソン。また、2018年11月にアダム・オンドラがアメリカ・ロードトリップの際にトライしたルートとしても知られている。2度目のトライで登り切ったアダムは、「人生で最高に気合の入ったクライミングのひとつ」と述べている。

Mary Eden/@tradprincess

Belly Full of Bad Berriesフラッシュ
マリ・サルヴェセン記

Belly Full of Bad Berriesは、幾つかの理由によって、おそらく世界で最も知られたオフウィドゥスでしょう。その見事に刻まれたクラックは極めて美しく、かつ手も出し易く、手軽に素晴らしいクライミングシーンを撮ることもできます。また、ハードなのですが、格別にハードというわけでもなく、気軽にトライして楽しめるルートでもあるかもしれません。他の多くのトラッドクライマーと同じように、このルートの存在については、かなり前から知っていましたが、実際にトライしてみようと計画したことは一度もありませんでした。でも数ヵ月前、突然アメリカ・クライミングツアーのチャンスが巡ってきたのです。そうとなったら、ToDoリストに欠かせない一本であるのは明らかでした。ここ数年、時折オフウィドゥスに手を出しては、次第にその面白さに魅せられつつあったのです。

Belly Full of Bad Berriesは、それだけのフィジカル的な能力さえ持っていれば、充分にフラッシュできるルートだと思います。最初から最後まできれいに刻まれたクラックで、想定外のパートなどありません。登る前に下から、ルート上で何をすべきか全てを事前に考えておけるのです。終始、ほぼ同じムーブの繰り返しで登っていけるのです。クライミングツアーの計画を立て始めた時から、「お前は絶対にこのルートを一撃しなくてはならないぞ」と、私の耳元で囁く声が絶えず聞こえていました。それにはちょっと悩まされました。頭の中の現実主義的な部分では、「それはかなり難しいぞ」と考えていたのですから。確かにフラッシュできそうなルートだったのですが、トライした人たちのいろいろな話を耳にして、少し腰が引けていたのです。数多くのクラックの熟練クライマーたちが挑戦し、敗退したことを知っていました。ですから、ノルウェーでの冬眠状態から抜け出してきて、いきなり一撃するなどと考えている自分を、ちょっと的外れの間抜けにも感じてしまっていたのです。ただトライしに行った日は、リラックスできていて、やっとこの目でルートを見られるということでウキウキしていました。もうその時点では、ベストを尽くしてやってみるしかなかったのです。アレックス・オノルドとかアダム・オンドラとかが登っている動画を見て、彼らがフィストから足の先送りに切り替えたクラックが少し広くなっている部分には気がついていました。でも、登るにつれ、もうこれ以上フィストをうまく決めることができなくなってきた時、まだその部分まで少し距離があったのです。ですから、彼ら以上に足を先送りして登らなくてはならないのに気付いた時には、挫けそうになりました。でも、その後は全てがうまくいったのです。終了点間近では、ビレイしてくれていたトム・ランドールから、また終了点にぶら下がって撮影していたピートからもムーブとかホールドを教えてもらえ、大変な励みになりました。

今回のクライミングツアーを前にして、フィジカル全般を鍛えることに集中しました。コンスタントにボルダ―ムーブをこなしていく力は持っていましたが、それが一日に長時間、複数の日にわたるようになると、さすがに燃え尽きてしまうのでした。ですから、食事の量を増やし、ウエイトトレーニングとかロックオフトレーニングを取り入れ、オートビレー機を使っての登り込みとか、両親の家のガレージに作ったクラックシステムでのトレーニングとかにも励んだのです。そのガレージには、短いものですが、45度に前傾するオフウィドゥスも作ってありました。それを使うとクライミングシューズがすぐにボロボロになってしまうのが悩みの種でした。もちろん実際のルートと比べたら全然サイズも小さくて、真剣に使ったのは3、4日ぐらいだったかもしれませんが、大変役立ったとは思います。実際に登っていて、足先行ムーブで進むパートで、足をクラックに決めるために、少しトリッキーなムーブがあったのですが、同様のムーブをノルウェーのガレージで練習したことがあるのを思い出しました。

では今回のクライミングは、私にとって、どんな意味があったのでしょうか?事実、私のフラッシュにたくさんの人が興奮してくれて、とても嬉しいです。クラッククライマーは、互いに助け合う精神に富み、愉快で楽しい人たちです。何ごとにもすぐに熱くなる人たちです。 彼らとは心の底から素直に楽しめるのです。おまけに、毎日朝から晩まで一緒にいるパートナーのピート・ウィタカーと、この私が、10年のタイムラグはありますが、Belly Full of Bad Berriesをフラッシュした世界でたった二人のクライマーだなんて、素敵じゃないですか。

もちろんフラッシュできて嬉しかったのですが、その余韻に浸っていたのも短い間で、すぐにもっともっと登りたい気持ちが湧いてきました。今回のフラッシュ達成で自信がつき、アメリカ滞在中にもっと難しいルートにトライできるのではと確信したのです。ただ、まだまだウォーミングアップに取り付いたルートで苦労してしまうこともよくありますが。グレードを問わず、また特定の目標とするルートでなかったとしても、全力で取り組むのが私のクライミングですが、これからは一層モチベーションを与えられるルートのみにターゲットを絞り込むこともありかもしれません。もっぱら、より高難度のルートになるわけですが。

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