世界初の女性によるV16。ケイティ・ラム、Box Therapyを完登

STEVEN POTTER climbing.com
写真=Keenan Takahashi
訳=羽鎌田学

長年アメリカを代表するボルダラーの一人でもあるケイティ・ラム(25歳)がV15グレードをスキップし、米国コロラド州ロッキー山脈国立公園にあるダニエル・ウッズ作のBox Therapy(V16)を第4登した。これにより、彼女はV16を登った初の女性ボルダラーとなった。

「Box Therapyでは、ピースがうまく組み合わさるやいなや、すぐにためらいは消え去り、スイッチが入りました」と、彼女はInstagramに書いている。

「山で一人で過ごしたり、野外で無駄話をしながら過ごしたりする日々によって満たされる心のスペース。7月に何日間か、あの牧草地まで歩いて登り、そのスペースを満たすために過ごしましたが、その結果にはとても満足しています」

マサチューセッツ州ボストン近郊で育ち、25年の人生の大半をクライミングに費やしてきたケイティ・ラムは、これまでにNew Baseline、The Penrose Step、Jadeといった名作を含む数多くのV14を登ってきた。今年初めには、デイブ・グレアム作のビショップにあるテストピース課題、Spectreで待望の女性初完登を果たしている。このSpectreは、リーチ次第でV13、またはV14+のいずれかになるとされている。

Box Therapyは、マイプロジェクトとして簡単に選べる課題ではない。なぜなら、ロッキー山脈国立公園のワイルド・ベイスン・トレイルの起点から11㎞、標高3200mの行くのも大変な場所にあるからだ。

このボルダーは15年前に、トミー・コールドウェルが見つけ出したものだ。トミーは、2009年にBox Therapyのスタンドスタートに相当するSpread Eagle(V11)を設定、初登したが、それはボルダーの高さ6m、50度に前傾したフェースの中程にあるホールドからスタートする課題だった。

Box Therapyは、その前傾部の左下部からスタートし、限られたフットホールドのなかで、何ヵ所かの極小クリンプホールドに耐え、Spread Eagleにリンクする。2018年10月の初登直後、climbing.comの取材に応じたダニエル・ウッズは、「Spread EagleのスタートホールドまではV14かV15ぐらいだったが、そのスタートホールドに両手を添えるムーブがハードで、その後のSpread EagleがV12になってしまう」と語っていた。

ダニエルはこの課題の初登までに7日間、計150㎞ほどのハイキングを費やした。この課題は2020年にドリュー・ルアナとショーン・ベイリーによって再登されたが、それ以外の多くの世界的クライマーたちは、彼らの執拗な努力にもかかわらず、退けられている。

ケイティは、プロジェクトに対する全身全霊を傾けたアプローチだけでなく、クラシックな課題を厳選することでも知られている。

「私は常々一途でありたいと考えています」と、彼女は昨年のclimbing.comとのインタビューのなかで語っている。

「プロジェクトにはまってしまい、それができると思ったら、それに集中することが好きなのです」

たとえば、次がその好例だろう。2021年の冬、ケイティはカリフォルニアのビショップに行き、デイブ・グレアムが初登したクラシックなV13のThe Swarmにトライした。12月の1ヵ月間、彼女はわずか6日間しか登らなかったが、そのすべてがその課題でのクライミングだった。それ以外の日は、彼女は指皮の再生に専念して過ごしたのだった。

もちろん、このアプローチにはマイナス面もある。

「2、3週間ぜんぜん登っていないような状態になってしまうこともあるのです」と、彼女は認め、続ける

「時には、どんな課題でもいいから、とにかくそれを完登しようと努めるべきかもしれませんが、私はそれが本当に苦手なのです。本数をこなすクライミングをしたことがないのです。私にとって最高の日は、V8課題をたくさん登れた日ではないのです」

ネガティブな面はさておき、ケイティにとってプロジェクト第一主義が功を奏しているのは明らかだ。Box Therapyの完登について、ケイティは次のように語る。

「私の進歩の多くは、実は単にそれが目に見える成果となって姿を現しただけに過ぎないかもしれません。私は自分がどの程度のことができるかわかっていて、それが実現するまで何度でも通い続けているだけなのでしょう。それは利点なのかもしれませんが、一方でクライミングの楽しみを減らしてしまうかもしれません。最近、クライミングに以前ほど興奮を感じなくなりましたが、ただより喜びを感じてはいます」

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