全3回のシリーズ戦、ドライツーリングコンペ参加レポート


第3戦の様子。登っているのは優勝した橋本翼

松永英知

2022年9月から11月にかけて、全3回にわたるシリーズ戦というコンセプトでドライツーリングのコンペティションが開催された。今大会の発起人であり、全3戦を通じてメインルートセッターをつとめるのは中島正人氏だ。同氏は自身もコンペティターとしてアイスクライミングワールドカップをはじめ、数々の国際大会に出場しており、そこで培ってきた経験を生かし、ルートセッターという立場で日本国内の大会を積極的に盛り上げてきた。

また、協賛はミレー・マウンテン・グループ。大会の入賞者にはミレーのアウトドアウェアが手渡される。勝者を讃える準備も万端だ。

2022年に入り、東京都青梅市にドライツーリング専用の練習施設ice point 青梅が立ち上げられたことを契機にドライツーリングプレーヤーが着実に増加しつつある。今大会がはじめてのコンペティション参加となる選手も多く、力試しができる絶好の機会となった。また、コンペティションの翌日には毎回ワークショップという形式で練習会が設けられ、こちらにも人気が集まった。

どんなコンペティションか?

ドライツーリングのコンペティションでは、アイスクライミングと同じく、手にアイスアックス、足元にはクランポン付きブーツを装着するのが本来のスタイルではあるが、会場の都合もあり、なかなか難しいのが現状だ。足元はクライミングシューズで代替するケースが非常に多い。

今大会は、会場のice point 青梅がクランポン付きブーツを利用可能ということもあり、より海外のコンペティションに近いスタイルを実現できている。また、レンタル用品が充実している点は初心者が参加しやすい一因となった。

大会内容としては、全3回にわたる開催ということで、各回にテーマが設けられた。第1回はスピード、第2回が持久力。そして最後の第3回がテクニックとなっており、それぞれのテーマに応じたルールが採用され、コンセプトが色濃く反映された課題が設定された。

第1回はスピード勝負

9月開催の初戦は完全にスピード勝負に振り切った内容で、課題は非常にシンプルな構成であり、全選手が完登できることを前提としている。1ルートにつき3回までトライ可能としており、ただひたすら速く登ることをめざす。回数を重ねるごとにムーブを改善し、登攀タイムを短縮する選手が続出した。各々が必然的に自分自身と競い合う斬新なコンペティションとなった。予選では幾度となく番狂せが起こったが、終始安定した力を見せた橋本翼選手が優勝した。

第2回は持久力勝負

10月開催の2戦目は持久力をテーマにしたロングルートの課題が展開された。制限時間内にどれだけ手数を増やせるかで勝敗がつくため、日頃のトレーニングの成果が存分に発揮される。逆に言えば、まぐれが起きる余地がまったくない。コンペティションでは、ときに閃きや発想力が試される瞬間があるが、今回に限っては皆無。必要な要素は持久力のみ。ストイックな合同練習会のような雰囲気だ。森田修弘選手、森田啓太選手らが善戦したが、今回も橋本翼選手が2連覇を果たした。

第3回はテクニック勝負

最終戦は11月。テーマはテクニックであったが、実際のところスピードや持久力が前提にあってこそのテクニックであり、シリーズ最終戦に相応しく総合力を試されるルートが展開された。予選では8本の課題が用意されたが、どれも難易度が高く、完登するのは容易ではない。到達高度に応じてポイントが付くため、一手でも多く出すことに大きな意味が出てくる。そのため中級者以下にとっては非常にチャレンジングな内容となった。

一方で、今年のアイスクライミングワールドカップの出場をめざす選手が5名ほど参加しており、この選手たちにとっては真剣勝負の前哨戦である。特に高いパフォーマンスを披露したのが嶋田豊選手。数年ぶりのワールドカップ出場に向けて調子を上げており、唯一予選課題の全ルートを完登した。

決勝はオンサイト1課題で、半数の選手が序盤で苦戦したが、優勝争いを繰り広げたのはやはりワールドカップ選手たちで、最終的には橋本翼選手が最高到達地点を更新し、シリーズ3連覇を達成した。

アイスアックスでの登攀技術向上に有効なコンペティション

秋の3連戦が無事成功に終わり、これから各々がそれぞれの目標に向かっていく。今シーズンのアイスクライミングワールドカップに出場する選手はもちろん、冬期クライミングに情熱を注ぐ選手にとっても、目標を成し得るために技術やフィジカルは必要だ。それらを習得する過程でコンペティションへの参加は非常に有意義な機会になったことだろう。勝者には賛辞を送りつつ、結果を出せなかった選手たちにも得られるものが多くあったはずだ。

世界的に見ても日本のドライツーリングはまだまだ黎明期と言えるが、中島正人氏の情熱によって灯された火は、少しずつ広がりを見せている。

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