eGrader、新たなるEグレードの算出方法

2023年4月4日
climber.co.uk
訳=羽鎌田学

はじめに

2021年9月に初登されたLexicon ‐ 英国最新E11ルート ‐ は、続く秋から春にかけて、英国で最も経験豊富なハードトラッドクライマーたちによって、相次いで再登された。そして絶え間ない議論の流れが生まれることになった。オンライン上の公開フォーラムやプライベートな場で、経験豊富なプロフェッショナルたちの間で地道な議論が交わされることになったのだ。

初登者であるニール・グレシャムは、当初、そのような高いグレードをルートにつけることで、「自分で自分の首をしめたように感じた」と言う。しかし、その後の再登者たちは皆、彼がつけたグレードが正しいことを確認したように見えたにもかかわらず、議論は続いた。「これだけ再登者が多いのだから、E10に違いない」だけでなく、どれだけ危険なのかという点にこだわった典型的な誤解、「死ぬかもしれないというので今やってるE9で落ちられないのに、どうしてもっと危険なはずのE11で何人ものクライマーが落ちて大丈夫なんだ?」などなど。

公の場でダウングレードをほのめかす声もある中、プライベートではスティーブ・マクルーアがニールに「どんなに難しいルートであっても、結局全部同じグレードにダウングレードしてしまうのなら、グレーディングなんて意味ないんじゃないの!?」と、声高に言っていた。

その後、数ヶ月の間に、ニールとスティーブ、そしてジェームス・ピアソンとトム・ランドールを加えた4人は、英国式グレーディングシステムに関する理解を深めるための議論を開始した。特に彼らトップを行く者の間で論争が繰り返され、やがて、一貫して機能する線形モデルを作り、Eグレーディングの範囲全体に一貫性をもたせることができることを実証しようと考えた。

フランスのグレーディングシステムは本来的に直線的な性質を持っているので、6aと6a+の間と9aと9a+の間には同じ違いがあると仮定される。また、すべてのグレーディングシステムは本質的に連鎖性、類似性を持つ以上、英国のグレーディングシステムにも同様な直線的な性質が適用されることが妥当であろう。

歴史

歴史的に(便宜上、1986年以降とする)、スポートルートの最難グレードは、英国トラッドルートの最難グレードよりも、より速く、より高度に進化している。以下は、その年表である。

1986年、当時の最難スポートルート、8b+のLe Rage de Vivreが登られる。同年、英国では画期的なクライミング、インディアン・フェイスの初登が達成され、E9とされた。

1987年には8cのWall Street、1990年には8c+のLiquid AmbarとHubbleが次々に登場。そして1991年には、史上初の9aルート、Action Directeが初登された(後にHubbleも9aにアップグレード)。2001年には、9a+のRealization/Biographieが誕生(後ほど9a+にアップグレードされたMutationは、1998年初登)。2008年には9bのJumbo Love、その後、2012年には9b+のChange、2013年には同じ9b+のLa Dura Dura、2017年には9cのSilenceが生まれている。

英国では、同じ時期、2000年にはE10のEquilibrium、2005年には初のE11、Rhapsodyが初登されたが、それ以来17年間、グレードの進化が確認されていない。確かにE10やE11とグレードされたルートは生まれたが、従来の境界線を超えた“新たな”英国グレードは姿を現していない(十分に立証されダウングレードされたルートや、非常にもったいぶってグレーディングされていないルートも含む)。

つまり、スポートクライミングが8b+から9cに進化した一方で、同期間に英国の最難グレードはE9からE11にしか動いていないのだ。最近の世代のクライマーたちは、80年代後半から90年代前半の世代よりも、より高難度のフレンチグレードを登り、全体的なクライミング能力の向上に議論の余地はないにもかかわらずである。一体なぜEグレードは進化しなかったのだろうか?

プロジェクト概念

ジェームス・ピアソンは次のように説明する。 「ニール、スティーブ、トム、そして私の4人は、Eグレードをより深く理解し、願わくは、今後つけられるであろう新しいグレードにより明確な印象を与える手助けとなる、シンプルな公式を作成しました。以来私が理解したこと、そして私たちのこの共同作業が知識の向上に役立つためにも今ここで言及しておきたいことは、Eグレードのスケールが意味を持つためには、先ずは受け入れられなければならない2つの基本的な要素があるということです」

1:Eグレードは、難易度と危険度の両方がダイレクトに反映されたものである。よく考えられているように、Eグレードが高いからといって、自動的に危険度が高くなるわけではない。どのようなEグレードでも、“まったく安全”から“確実な死”まで、危険度の全領域をカバーし得る。そして、ニールが指摘するように、Lexiconよりも危険なVS(Very Severe)ルートがあることを忘れてはいけない。

2:あるグレードから次のグレードへの上昇は直線的であり、指数関数的ではない。個々のクライマーの進歩はグレードが上になればなるほど、ますます難しく感じるかもしれないが、客観的にはE1とE2の差はE11とE12の差と同じである(これは対応するフレンチグレードと関連づけると特に明らかになる)。

「90年代後半の英国のトラッドクライマーが8b程度のスポートルートを登っていたとすると、時が進み20数年後の今日、英国人トップクライマーの平均スポートグレードは9a程度になっていると考えられます。たとえリスクに対する許容範囲は広がっていないとしても、英国人クライマーの身体能力が向上していることは明らかです」

4人のクライマーの間で交わされた話し合いは、2008年にジョン・ダンが提案したアイデアを軸に展開された。ジェームズは次のように振り返る。「ジョンは、フランスのスポートグレードと危険度をEグレード全体に結びつける比較的単純なパターンがあることに気づいていました。これが可能だったのは、90年代半ばに一般的にスポートルートにフレンチグレードが採用されるようになるまで、英国のボルトルートにはもともとEグレードがつけられていたためです。それは基本的に、全体的な危険度に応じてEグレードをいくつか追加するということでした」

「当時、私はスポートルートをほとんど登ったことがなく、また英国以外でトラッドルートを登ったことがなかったので、その意味がよくわかりませんでした。トラッドとスポート、両分野のトップレベルのクライマーとして世界中を旅し、当時としてはほとんど唯一無二の経験を積んでいたジョンは、私たちがさらに10年ほどかかることになったことを既に見抜いていたのです。ニール、スティーブ、トム、私の4人は、ジョンのオリジナルのアイデアをもとに、それに少し手を加えて、Eグレードをよりよく理解し、適用するためのシンプルな公式を作ったのです」。

「才能あるクライマーたちの意欲的なグループが、現代のトラッドグレーディングの複雑さに取り組み、数ある歴史的なルートを関連づけて一貫性を持たそうとしていることは、素晴らしいと思います」と、ジョンはコメントする。「あまりにも長い間、グレードはそれぞれのクライマーによって抑え留められてきたので、クライミングの最先端では非常に混乱した状況になっています」

「常に私は、ある程度の目安を立てるために、Eグレードシステムを重ね合わせたスポートグレードの使用を提唱してきました。トラッドグレードは非常に主観的で、ルートをトライするクライマー個人個人に左右される多くの要因に依存しています。その一方で、現代のトラッドクライミングではスポーツフィットネスの占める割合が大きく、最高のトラッドクライマーは最高のスポートクライマーでもある、と私は考えます。それは、Dawn Wallを登ったアダム・オンドラで、明らかになったのではないでしょうか」

トム・ランドールは、REYT社(英国イングランド、シェフィールドに拠点を構える、スポーツ、アウトドア、ウェルビーイング分野の製品戦略やウェブ&モバイルアプリケーションを開発する会社)のデジタルソリューションスペシャリストであるダニー・トマリンに、トムらのグループが発展させ、大量のルート・データの入力によってさらに強化されたジョン・ダン公式を基にしてアプリを作成する話を持ち込んだ。ダニーは、言う。

「アルゴリズムを作成し、検証した後、アプリケーションを設計し、素早く簡単に使えることを確かめるためにユーザーエクスペリエンス全体を洗練させることに時間をかけました。そのためには、たくさんのデータが必要でした。集まったチームには、そのデータを提供し、直面した課題について詳しく説明することのできる、世界でも有数の経験豊富なクライマーたちが含まれていました。そのデータを学習し、パターンを特定し、最終的にコンピューターが理解できるものを作り上げたのです」

スティーブ・マックルーアも同様な論理的スタンスをとっている。「基本的なポイントは、数学的モデルは議論の余地はないということです。数学的モデルは大量のデータから構築され、グレーディングシステムにおいては、理想的にはすべてのルートが直線上に位置することになるのですが、それはまさにグレーディングが直線的であるからです。eGraderコンバーターは、広く認められたグレードがつけられている数多くのよく知られたルートを使用して線形グラフを作成し、それが機能するようになっています。現在、直線から外れているルートは、なぜ直線から外れているのかについて議論することができます。そして、もし線の外にある理由がない場合は、グレードを変更する、上げるか下げるかする必要があります」

オンラインで機能するアプリを目指してプロジェクトを推進するトム・ランドールは、自身の経験と考えについて次のように語っている。「私は英国トラッドクライミングの世界で、Eグレードは危険度、フィジカル的難易度、技術的なチャレンジなどを網羅しているので完全に論理的でどんなルートにも通用する、と考えながらクライマーとして育ちました」

「2010年頃から、ピート・ウィタカーと私は、既存のハードなトラッドルートの再登と、自分たちで新ルートを開拓初登するために、海外を広く旅するようになりました。そして初めは、その地域で使われていた従来の方法でグレーディングするようにしていました。つまり、アメリカでならデシマルグレードで5.〇〇(危険な場合はRかXを付加)とし、ヨーロッパでならフレンチグレードをつけるといった具合です。しかし、フランスでは、ちょっと困ったことがあったのです。危険な8aルート(ナチュプロ使用)が安全な8aルートより、より“難しい”ことを示す方法がなかったのです。そのため、同じルートでアメリカや英国のグレードを参照で追加することがよくありました」

「しばらくの間は、それでうまくいっていたのですが、次第にアメリカのトラッドグレードの方が、フィジカルな難易度と危険度の程度をより的確に表現し、満足できるものであることに気づきました。また、英国の高難度ルート(例えば、バーベッジ・サウスのCaptain Invincibleのようなもの)について考えた時、人々が歴史的な最難グレードというものにとらわれすぎて、結果としてグレードに幅がなくなってしまったように感じたり、フィジカル的には困難だがリスクが低いということで、英国トラッド界ではグレードがディスカウントされているように感じたりしました」

「アルゴリズムを使ったグレードの計算機の作成は、英国のグレーディングについての議論全体に客観性のある“ツール”を加えることが目的であり、より良いものを作ろうとか、クライマーたちの経験に裏打ちされた共通感覚、統一見解に置き換わるようなものを作ろうとはしていませんでした。このプロジェクトは、新ルートを初登した時に誰でもグレーディングのプロセスに加えることができるツールの作成としてとらえるべきです。さらに、クライマーのエゴや歴史、文化的構造が大きく影響しているようなルートでは、より多くのコンセンサスを得る必要があったり、グレードのステータスをよりしっかりと分析する必要があったりする場合に利用することもできるでしょう」

「クラウド上のAIチャットボットが現在のグレーディング手段に取って代わると考えると、多くの人が目を丸くすると思いますが、実際にアルゴリズムツールについて危惧する必要があるのでしょうか?そもそも私たちの脳は、様々な入力を処理する有機的なコンピューターのようなもので、代数学も似たようなものです。私たちの脳は、膨大な量の定性的、かつ主観的データを扱えるという利点がありますが、“人間の公式”が常に変化するため、出力が一定でないことが少なくないという欠点があります。代数学は、シンプルで定量的であり、アウトプットの公式が固定されているという利点がありますが、やはりインプットと公式そのものが依然として人間的な問題を抱えやすいということを認識しておかなければなりません。要は似たようなもので、余計な心配はいらないということです。」

ニール・グレシャムは説明する。「グレードが抑え留められ、グレード間の幅が縮小される理由はたくさんありますが、その最たるものは、初登者なら誰でも特に最初の頃によく経験する、他のクライマーに自分のルートをダウングレードされることへの恐れであることは間違いないでしょう。つまり結果的に、他人にそうされるよりも、自分でやっておく、最初からグレードを下げておいたほうがいいということになるのです」

「さらに、人々が英国のグレーディングシステムを根本的に誤解している結果として、フォーラムで繰り広げられているすべてのバカ騒ぎがあります。Lexiconを初登しグレーディングした際にも、Rhapsodyの時と同じような、いつものことが起きました。スティーブがあれほど墜落しても死なずに済んで口をきけているのに、どうしてE11もあるんだ!?ってみたいな感じですね。Lexiconよりも危険なVSルートがあり、どのグレードの範疇にも安全なルートと危険なルートがあります。これは、システムをよく理解してグレーディングしているクライマーに影響を与えるようなことではありませんが、実際はイライラさせられます。そして、そんな状態が今後も継続するようなら、事実はますます歪曲され、最難グレードは茶番となり、実際に存在しなくなるところまで行きつくことでしょう」

問題点、微妙なズレ

革新的なものを目の前にした時、条件反射的に粗探しをするのは人間が持つ本来的な奇妙な癖のようなものだ。それに輪をかけて、クライミングのグレードに関するテーマとなると、率直に言ってパブやオンラインフォーラムのような場で、そこに居合わせたグループやフォーラム参加者たちの間で延々と議論が続くような複雑で解決困難な問題だ。

グレーディングに主観的な微妙な差異をもたらす要因としては、次のようなものが考えられるだろう。地域性(グレーディングが辛めか甘めか)、岩の種類や質、スタイルと向き不向き(不安を感じるか、やる気が出るか)、ギアをプリセットするかどうか、ヘッドポイントかどうか、ペグ(一枚、または複数)の劣化および打ち換えの有無、体格、体調と疲労度、湿気、ギアの質、クラッシュパッド(後述)の使用などがある。

チャーリー・ウッドバーンは次のように説明する。「ルートの潜在的な難易度を左右する要素はたくさんあります。例えば、岩が弛んでいないか?どんな状態なのか?シークリフなら、潮の満ち引きなどの影響はあるのかや、緊急時の対応は素早くできるか?また敗退は簡単にできるか?ペグはどんな状態か?ギアをセットする時に、どのくらいパンプするか?といったことです。そして、セットでかなりパンプしてしまいそうなら、特殊なギアが必要なのではないか?というような疑問が続いていきます。確かにルートによっては、一般的にクライマーが携行するギアラックに吊り下げられていないような特殊なギアを使用することで、より安全性を高めることができる場合があります。例えば、私がThe Walk Of Lifeの出だしの大胆なパートで使用した、ヤスリで削って薄くしたボールナッツの青がそうです。このナッツは、人によってはヤスリで削ったペグ(これも特殊なギアでしょう)をセットした、またはまったく使わなかった小さなポケットにフィットしました。スカーフェル・パイクのTalbot Horizonでは、フレアしたポケットにトーテムカムの青を使いました。これは、デイブ・バーケットがルートを初登した時にはまだ発明されていなかったもので、まさに画期的なギアでした。他のクライマーはこれを使いませんでしたが、私の場合、ルートはE9を保証するほど大胆なものではなくなりました。しかしながら、そのギアを使ったからといって、グレードダウンすべきなのでしょうか?論理的な答えは“イエス”でしょうが、そうすると、そのギアを持たずに岩場に来た人とか、あるいはそのギアを使えるとは思わなかった人とかが、グレーディングが間違っていると考えるのは、いとも簡単に想像できます」

この記事が難解な学術論文にならないように、グレードは良いコンディションの中で最も簡単な手順で登った場合を想定して与えられるものだということにしよう。確かに、ベンチマークであるE5を雨天で登った場合、より高グレードに感じられ、同様に、クラッシュパッドの山を築いて登ったE5は、低グレードに感じられ、実際にそのとおりなのだろう。

クラッシュパッド

クラッシュパッドは、トラッドグレードに最も影響を与える現代的な変数であることは間違いない。同時代的な例として、マット・ライトの新しいE9、Eternal Fallについて考えてみよう。初登者マットは、Eternal Fallをグレーディングするにあたって、自分がそのラインをヘッドポイントし、クラッシュパッドを何枚も敷いてハイボールのスタイルで登ったと言っている。そして、難しさ自体はボルダーでいう7B+/7Cではあったが、ランディングは酷く傾斜し、おまけに岩が散乱していたので、非常に危険で、大量のクラッシュパッドを敷いても、まだソロクライミングをしているように感じ、ボルダリングのグレードが内包する“安全”の意味合いからはほど遠いゆえに、危険度を含めることのできるトラッドグレードをつけるほうが相応しいと考えた、と説明する。

eGraderは、その機能の一部であるパダビリティ(パッド+アビリティ)計算機を使って、クラッシュパッドの枚数を増やすことがルートの安全性、そしてグレードにどれほど影響するのかを明らかにすることができる。クラッシュパッドの枚数以外に、サイズや質にも違いがあるので、グレードをつけなければならない初登者にとって複雑で厄介な問題になるが、クラッシュパッド不使用のトラッドグレードをつけ、その後再登者がクラッシュパッドを追加してEグレードを適宜減算できるようにすれば、とりあえず計算がシンプルになる。現在、歴史的なトラッドルートの多くが、通常はスポッターチームとクラッシュパッドの山を配置してハイボールとして登られているが、基本的にそのようなクライミングは、伝統的に与えられていた同じEグレードのものとは見なすべきではないだろう。

ルートによってはクラッシュパッドが使えないものもある。対象のルートがシークリフとか山岳地帯とかにある場合だ。また使えるとしても、まさかトラック一台分のそれを運ぶことはないだろうが、主観に影響する他の変数と同様に、最終的にはクライマーが、自身が登ったスタイルでグレーディングすることが、その人の責任である。

eGraderのアルゴリズム作成には、英国全土(一部海外)の既存のルートについての大量のデータを入力する必要があった。試作品は、すべてのEグレードでベンチマークとなる具体的なルートを使い、eGraderが正しく機能することが証明されている。グレーディングが直線的な性質のものとすると、いくつかの統計学でいう“外れ値”(直線上に位置しないルート)があり、上端部で値の圧縮が若干発生することも観察されたが、これは現状の試作品の欠陥を意味することでもなかった。ベンチマークのルートとして、私たちは次のようなものを参考にした。E5ではRight Wall(フレンチグレード6c、デンジャーポイント2でE5)、E6ではLord of the Flies(フレンチグレード7a、デンジャーポイント2.5でE6)、E7ではStrawberries(フレンチグレード7c、デンジャーポイント1.5でE7)、E8ではEnd of the Affair(フレンチグレード7b、デンジャーポイント3でE8)、E9ではMission Impossible(フレンチグレード8b、デンジャーポイント1.5でE9)。カッコ内の値は、eGraderに入力したフレンチグレードとデンジャーポイント、そして算出されたEグレードである。

スティーブ曰く、「If 6 was 9は、外れ値のいい例になっています。これまでのところ初登時につけられたE9のままですが、多くの人がそれよりも難しいと言っています。というのも、このルートは、今ではフレンチグレードでいう8a+のクライミングで、おまけに危険なのです(初登以来、ホールドとランナーが失われている)。ですから、以前から恐ろしいE9だと感じると言われていたのですが、eGraderによってその感覚の正しさが確認されたのです。実際に、E9ではなく、E10なのです」

「eGraderにかけると厄介なルートがもう一本ペンブロークにあります。ヘイゼル・フィンドレイが、『私がMuy Calienteをフレンチの8a+としてeGraderにかけ、デンジャーポイントを2.5ポイントのVery Runout(私にとっては控えめな表現ですが)とすると、Easy E10として結果表示されるのですが、ほとんどの人はEasy E9だと考えているのです』と、コメントしています」(このMuy Calienteは2010年の初登時には、E10 6cとグレーディングされ、その後は通常E9 6cとされている)

グレードアップのための良い試金石となるMuy Calienteは、興味深い例だ。実際は、派手なランナウトは技術的にやや簡単なパートにあり、一方、より難しいテクニカルな核心はやや安全なパートにある。だから、ルートをセクションに分解して総合的なグレードを判定することも必要となってくるだろう。

eGraderデンジャーポイント(代表例)の定義

0:ボルトが打たれたスポートルート

0.5:プロテクションが良好なトラッド ‐ 肝心なところで一般的なギアをがっしりきめられる。スポートルートよりも危険なことはまずない

1:“スタンダード”なトラッド ‐ 一定の間隔で適切なギアを設置できる。ただし、確実にギアをセットし安全にクライミングするためには、様々なタイプのトラッドギアについての知識を必要とする。ギアセットでエネルギーを使う

2:ランナウト ‐ ギアはしっかりセットされているが、ギアの間隔が離れている。または間隔は近いが、ギアが貧弱、結果的にロングフォールの可能性有。怪我をしないためには、しっかりとしたトラッドクライミングの経験が必要

3:危険 ‐ 非常にランナウトしているか、または通常ギアが貧弱。フォールした場合、取付きの地面、または途中のレッジ近くまで落ちる。大怪我の可能性大

4:極端に危険 ‐ フォールが“保証”され、大怪我をするか、命を失う。きわめて稀な存在のルート

使用法

  • まずは、無料でアクセスできるwww.egrader.co.ukを表示する
  • ルートのフレンチグレードを入力(プルダウンメニューで選択)
  • デンジャーポイントを入力(プルダウンメニューで選択)
  • クラッシュパッドを使えるかどうか判断し、適宜ボタンを選択
  • CONVERT GRADEボタンを押して、Eグレード、ゲットシンプル!

利用者の声

プロジェクトチームは、英国で最も経験豊富なトラッドクライマーを含む複数のクライマーにコンタクトを取り、eGradeについて彼らの声を聞いた。彼らの意見は有益かつほぼもっともなものであった。

ヘイゼル・フィンドレイ

「計算機で遊んでみたところ、多くのルートではうまく機能しましたが、何本かではうまくいきませんでした。例えば、Magic Lineで試してみたのですが、フレンチグレードで8c+を入れ、ボールナッツを2個セットできても核心で落ちると取付きの地面近くまで落ちるので、デンジャーポイントで2のランナウトを選ぶと、結果はE11となってしまったのです。私の意見では、E10なのですが」

チャーリー・ウッドバーン

「このグレード計算機の登場は、大歓迎です。グレーディングにある種の一貫性を持たせるためには、この種のものは素晴らしいアイデアだと思います。Eグレードには明らかに不規則性が目立ち、ルートについてよりも初登者について多くを語っていることがあります。これは大いにパブやフォーラムでのゴシップのネタにはなりますが、クライミングにはあまり役立ちません」

「一般的にグレーディングスケールのトップエンド、上端に議論が集中していますが、実際グレードの相違はすべてのレベルで存在し、クライミング史を見ても古くからあることです。私は、辛めのルートや甘めのルートの存在が英国(そして世界)のクライミングを面白いものにしていて、そのような状況を好意的に見ています。私にとって、新しいグレードに到達し、そのレベルを極めるためには、そしてそのグレードを十分に“理解”できたと感じるためにも、その数字のあらゆるルートを数多く経験する必要がありました。グレーディングが複雑な課題であることは今も昔もかわらないのです」

「私にとって、この計算機に関する最も明白な疑問は、オンサイトで登る場合について話しているのか、それともトップロープでリハーサルして見つけた最も簡単な方法で登る場合について話しているのか、ということです。英国のトラッドグレードシステムは、オンサイトで登ることが例外ではなく、当たり前であった時代に確立されました。しかし、最近はその逆です。ヘッドポイント革命は、E7が最難だった時代に起こり、以後E8以上はほとんどの場合ヘッドポイントルートとして初登され、またそのようにグレーディングされています」

「興味深いことに、オンサイトで登っていた70年代、80年代、90年代の多くのクライマーにとってのE6を登るという経験は、オンサイトが普通ではなくなった現在とは大きく異なります。今日の大多数のクライマーにとって、E6を登るという経験は、40年前のそれと比べると、それほど強烈ではないはずです。それは良い悪いではなく、ただ違うのです。オンサイトで登ると、どんなグレードでも主観的な難易度が大きく変わってしまいます」

「同じルートを登っているのに、一度目は理想的な手順で登り、問題なしと感じても、別の時には、もっと難しい手順で登ってしまい、絶望的に感じることもあるでしょう。このことから、ルートのグレードに整然と分類され明確に定義された難易度を期待しないということを学びました。それで良いのです。謙虚でいること、そしてグレードよりもルートの質を評価することのほうが重要でしょう」

「難易度に関して考慮すべきもう一つの重要な要素は、予測可能性です。これは、ルートのスタイルによって違ってくるのですが、どれだけフォールを予測できるかということです。フレンチグレードと危険度が同じ2本のルートでも、クライマーが登っている時にコントロールできることが異なる場合があります。あるルートは、持ちやすいホールドを使ったパワフルなムーブで構成されていて、あまり微妙さはないとします。力があって調子さえよければ、成功の可能性を高いレベルで予測できます。一方、繊細でテクニカルなルートでは、うまくいけば簡単なのですが、うまくいかなければ全くできなくなってしまう、微妙なムーブが要求され、その成功の予測はなかなか難しくなります。例えば、同じグレードで同じ危険度のMeshugaとHarder Fasterを比較すると、必要な身体能力があれば、MeshugaのほうがHarder Fasterよりはるかに予測しやすく、それが再登数の多さにつながっていると私は考えます」

「このグレード計算機は、過度に一貫性のないEグレーディングスケールを修正する助けになる良いアイデアだと思います。ただ、グレーディングは多くの人が考えているよりもはるかに複雑なものですが、一本のルートの個性は、それを登るクライマーと同じように、クライミングシーンの主役であることを忘れてはならないでしょう」

マディー・コープ

「グレードは、クライマーがルートの難しさを把握し、そのルートをトライしたいかどうか(そして、どんなスタイルで)を判断するのに重要です。また、クライミングがどの程度まで進歩してきたかを知るためにも大切だと思います。しかし、特に高難度のカテゴリーでどんなEグレードをつけるべきかと判断するために開発されたシステムについて、うまくコメントできる自信はありません」

「私にとってEグレードは、実際多くの場合オンサイトできるE6までが意味を持っています。それ以上のグレードのルートになると、ヘッドポイントで登るようになるのですが、そうするとEグレードでは自分が感じた難易度をうまく表現できないのです。ですから、ヘッドポイントの際には、私はアメリカのグレーディングシステムを使うようにしているのですが、うまくいっているとは思います(おそらくすべてのトラッドで)。これは私がアメリカで過ごしていた時間の長さのせいかもしれませんが、アメリカのデシマルグレードの後にPG、PG-13、R、Xとシンプルに続けるほうが、(グレーディングに関与する要素から算出するEグレード)より、わかりやすい方法だと思います」

「トラッドで非常に多くのことを経験できるのですが、クライマーにとって習得すべき重要なスキルは、状況やグレードと自分の技術や知識がマッチしているかを判断するために頭を使うことだと思います」

クレイグ・マシソン

「“辛めのグレーディング”には、文化的、心理的要因が混在していると思います。私は判断がかなり控えめで、また自分がやったことをあまり声高に叫ぶようなタイプでもありません。ですから、控えめなグレード、確実にできそうなグレードを自分のルートにつけて満足していました。それは、そのグレードにしては厳しめのルートかもしれない、という意味です(トポが発売されたらアップグレードされるかもしれません)。それは私が安易に高グレードをつけることはよくないと見なすクライミング文化の中で育ってきたからです。このグレーディング戦略は、おそらく歴史的に、自分のルートで他のクライマーが苦労しているという話を聞くためで、その苦労話はいつもパブでいい笑いのネタになってきました。私はこの70年代のメンタリティを私に植え付けた父を責めますが、70年代、80年代に活動したカンブリア地方のクライマーたちのほとんどが、この保守的なグレーディングポリシーを採用していたと言っていいと思います」

「私が言いたいことは、クライマーの個性、経験、地域性など、あらゆるものがグレーディングに影響を与えるということです。だからこそ、どうすればばらつきが小さいEグレードシステムを提供できるのか、ということが現在の議論の中心になっているはずです。ただ結局、再登が必要なのですが、特にハードルートの多くは再登されることが稀です(統計学者は、グレーディングが比較的正確になるまで何回再登されなければならないかを教えてくれるに違いありません)」

「代替案として、個人的な解釈を部分的に排除した一種のソフトの提供が考えられますが、これもまだ主観的なもので、再登による検証が必要でしょう。しかし、より一貫性のあるグレーディングシステムを実現するための有効なツールにはなるはずです。ちょうど、オンラインでのグレード投票が、一般的なクライマーにルートのグレードについての情報を与えるのに役立つツールになったのと同じようにです」

結語

eGraderは、英国のグレードを根本的に変えるものではないし、そうすることを意図しているわけでもない。グレードのオンライン投票でクライマーがルートの全体的なイメージをとらえられるのと同じように、情報を提供するためのツールなのだ。とは言うものの、このツールは本質的に論理と理性に基づいており、またデータに基づいて構築されており、その直線的な性質は、新しいルートのグレーディングに良い影響を与えるだけでなく、既存のグレードについての情報を与え、それを理解するのに役立つはずだ。

上記で説明されているように、グレーディングはそもそも主観的なものであるうえに、さらにその主観性を複雑にする無数の変数が存在する。それゆえに、世界中でグレードが100%合意されることはないだろう。外れ値や異常値(直線状のグレードのスケール上に位置しないルート)は依然として存在し続け、合意に対する個人の主観もまた絶えず存在し続け、ニュアンスや変数が常に絡んでくることは、前述されたとおりだ。しかし、eGraderは、多々ある外れ値を減らし(なぜ外れ値なのかについての議論を深めることによって)、英国のトラッドクライミングのトップエンドで押さえつけられている最難グレードたちを解き放つのに役立つだろう。

最終的にこのツールの誕生は、クライミングコミュニティへのポジティブな貢献となるはずである。と同時に、コミュニティ側からのアドバイス、議論、尽力によって、さらに強固なツールになるはずだ。プロジェクトチームは、多くのクライマーからのコメントを楽しみにしている。

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