アナック・ヴェルホーヴェン、9b(5.15b)を完登

Owen Clarke climbing.com
訳=羽鎌田学

5月15日、アナック・ヴェルホーヴェンは、スペイン、ビジャヌエバ・デル・ロサリオの岩場にある9b(5.15b)のエンデュランス系ルート、La Planta de Shivaを登り、自身のキャリアの中で最難グレードを更新した。

1996年7月生まれでもう直ぐ28歳になる彼女は、ラウラ・ロッゴラ、ジュリア・シャヌルディ、そしてアンゲラ・アイター(2017年にLa Planta de Shivaを女性クライマーで初めて完登)の3人に続き、世界で9bを登った数少ない女性クライマーのひとりとなった。


Photo=Jona Oberle

4歳の時から壁を登っているアナックは、天才ユースクライマーでもあった。10代の頃には、例えば2011年から2014年までの間にヨーロッパ・ユースカップ(リード)で10個の金メダルを獲得し、その後2014年から2018年までにIFSCリードワールドカップで19個の各種メダルを獲得している。一方で、彼女は岩場での自己最難グレードを押し上げることも忘れてはいなかった。

2017年にはフランス、グルノーブル近郊の岩場ピエロ・ビーチで9a+(5.15a)のSweet Neufを登り、女性クライマーでそのグレードのルートを開拓初登するという卓越した先駆性をも示した。それ以来、アナックは、女性クライマーとして初めて登った2本の9a+ルート、Joe Mama(スペイン、オリアナ)とNo Pain No Gain(スペイン・ロデジャール)を含む、9a以上の高難度ルートを今回のLa Planta de Shivaも入れて12本登っている。近年複数のクライマーにLa Planta de Shivaを登ることを勧められていた彼女は、この春、同ルートに挑戦するためにスペイン南部のビジャヌエバ・デル・ロサリオを訪れた。

「彼らが言うには、ルートは奮闘的なエンデュランス系のテストピースということでした」と、彼女はclimbing.comに語る。「それは、まさに私の好みのタイプのルートだったのです」

2011年、アダム・オンドラがビジャヌエバ・デル・ロサリオで、2006年に2名のローカル・クライマーが2ピッチのルートとしてボルトを打ったものの、その後未登のまま放棄していたラインを1ピッチ、長さ45mのルートとして初登したのがLa Planta de Shivaだ。彼はルートのクリーニング、整備を含め、7日と14トライを要した。アダムの初登以来、2016年にヤコブ・シューベルトが第2登、翌2017年にアンゲラ・アイターが第3登し、続いて2019年にジョナサン・シーグリスト(米国)とホルヘ・ディアス=ルージョ(スペイン)、そして2020年にジョナタン・フロール・バスケス(スペイン)らが再登していた。

延々と続くコルネを使ったパワフルな最初のパートを通過し、ニーバーでレスト。上部には小さなエッジを使ったムーブが連続する、ドロップニーを始め、巧みなフットワークが要求されるテクニカルなオーバーハングした核心パートが待ち構えている。アナック・ヴェルホーヴェンにとって、核心のシークエンスは35手で、チョークアップするチャンスは1度だけ。しかもそれができるのは、左手だけだった。

「こんなにも容赦なく長い核心があるルートをトライしたのは初めてでした」と、彼女は説明する。

アナックは、18日間を費やして、先ずは核心を細かなパートにわけてそれぞれのパートのムーブを解明し、その後それらを繋ぎ合わせて一連のシークエンスを組み立てあげ、そしてスタートからのトライを始めた。彼女は、ムーブを見つけ手順を組み立てることは「肉体的にも精神的にも大変なプロセスでした。でも毎日少しずつでも進歩するのを感じ、それが励みになりました」と語る。彼女は、最初の3回のレッドポイント・トライで毎回到達高度を伸ばしていったが、1日に1回のトライしかできず、トライした翌日には、丸1日をレストに費やす必要があった。そして彼女は、4回目のレッドポイント・トライでルートを完登したのだった。

アナックは、様々なアプローチを駆使してLa Planta de Shivaのムーブを解明したのだが、その過程で最も苦労したことはそれまでの自分の限界グレードを超えた何かに取り組むストレスに対処することであって、時には物事を常に前向きに捉えておくことが難しいこともあった、と語る。

「私はこの自分に課したプロジェクトが不健全な強迫観念になってしまうことは、なんとしても避けようとしました」とも、彼女は付け加える。「もちろん、ハードなものに懸命にトライするためには、先ずは本気で登りたいという強い気持ちが必要でしたが、同時に目標とするルートに私自身が支配されたくなかったのです」

彼女の父親ヴィムは、アナックが高難度ルートにトライする際にはほぼ常にビレイヤーを務めており、それはLa Planta de Shivaでも例外ではなかった。

「父とあたかもひとつのチームかのように緊密に協力し、同じ目標に集中できるのは素晴らしいことです」と彼女は言う。「私は彼を完全に信頼できていますし、彼が私のことをよく知ってくれていることは非常に助かります。もちろん、私たちは完璧というにはほど遠く、誤解やイライラを避けるために、良好なコミュニケーションに多大な努力を払う必要はあります」

目標ルートを完登して一息つくと、アナックは、今度はニーバーレストで膝を守るために使うニーパッドをつけずにもう一度同ルートを登ることにした。奇妙に聞こえるかもしれないが、アナックは高難度ルートの2連続完登と無縁ではない。例えば、スペイン、ペルラスの岩場でEsclatamàsters(9a)をまったく同じようにニーパッドなしで同日に再登し、やはりスペイン、ロデジャールでCosì se arete(9a)を最初は日中に登り、その後夜にヘッドランプを頭につけて再び完登したことがあった。

アナックによると、彼女が高難度ルートを2回連続して登ることに特別な理由はないようだ。例えば今回彼女は、ニーパッドなしで、つまり多くの人が見た目により美しいと感じるスタイルでLa Planta Shivaを登ってみるとしたら、それはすべてのムーブを繋げて登ることに成功した直後が一番ふさわしいだろうと考えただけのようだ。

彼女はアダムがニーパッドなしで初登したと当初は考えており、インスタグラムに、彼の偉業に匹敵する登りが自分にできるかどうか試してみたかったと書き込んだが、あるコメント投稿者が彼女の誤りを指摘した。実際は、アダムでさえLa Planta de Shivaを登るためにニーパッドを使用していたのだ。

「2度目もなんとか終了点にクリップすることができた時、自分のアイデアがうまくいったことにとても興奮しました」と、彼女はclimbing.comに語り、続けた。「2度目の完登は特別なボーナスのように感じました。それによって、今回のLa Planta de Shivaでの経験全体がさらに素晴らしいものになったのです」

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