セバスティアン・ベルト、8cマルチピッチOrbayuのワンデイ・フリーアッセントに成功

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写真=Erwan Rucay
訳=羽鎌田学

ベルギー人クライマー、セバスティアン・ベルトは、同胞のシーベ・ファンヘーエとロープを結び、スペイン北部アストゥリアス州にあるピコス・デ・エウローパ山脈の一峰、ペーニャ・サンタ・デ・カスティージャでRayu(610 m、8c)の初のワンデイアッセントを達成してから僅か6日後、今度は同山脈を代表する岩峰であるピック・ウリエージュに引かれた8cマルチピッチルート、再登者の少ないOrbayu(13ピッチ、500m)をフリーで完登した。

このOrbayuは、Rayuと同様、スペイン人クライマー、イーケルとエネコのポウ兄弟によって開拓初登された。彼らが2009年にフリー初登して以来、5度再登され、今夏セブがRayuを一緒に登ったシーベも2020年に16時間かけて完登している。このルートを1日で登ったのはセブが初めてではないが、麓の駐車場から壁の取付きまでの徒歩でのアプローチ、プロテクションをセットしながらのトライ、RP、そして下山までの全過程を24時間以内に達成したのは、彼が初めてである。以下が、彼のコメントである。

「8月下旬、ピコス・デ・エウローパのピック・ウリエージュで、Orbayuに初めて取付き1日で登り切りました。

8月25日金曜日、フランス人クライマーのソリーヌ・ケンツェル、ウゴ・モニエ、エルワン・ルケ(最後の2人は写真を撮ったり、最初の数ピッチを少し登ったりするために参加)を伴った私は、朝7時15分に7cである1ピッチ目を登り出しました。最初の4ピッチ(グレードは7c、8a+、8a、7aとされるが、実際はおそらくそれより簡単)をスピーディかつパワフルに、すべてのピッチをフラッシュ、またはオンサイトで登ることができました。そして午前10時頃には核心ピッチのビレイポイントに到達できたのですが、その時私は、フレッシュで自信に満ち、頭上に控える最難ピッチにハードにトライするための準備は万端でした。

唯一気がかりなのは、天気が大きく変わり、雲が危険なほどどんどん近づいてくることでした。ルート名になっているOrbayu「オルバーユ」(霧雨)は、海に近いこの山域特有の海からやってくる低い雲がもたらす、気づかないうちに体をくまなくしっとりと濡らす湿った霧、視界を遮るほどの細かな雨のことです。でその日、私たちはそのオルバーユをたっぷり味わうことになったのです。私が8cのピッチを登り始めた途端に、オルバーユの雲が私たちに迫ってきたのでした。

最初のトライ、フラッシュトライにはあっけなく失敗してしまいました。手順を間違えて、核心のパートであっさりと落ちてしまったのです。それから1時間近く、ピッチ終了点に辿り着くためのラインを見いだし、ムーブの手順を組み立てるのに費やしました。核心を過ぎてからのパートにはプロテクションとしてのボルトがなく、かなりトリッキーでした。非常にフィジカルなクライミングで、滑りやすいポケット(ピンスカー:エイドクライマーがピトンを打って抜いた後にできた穴)が多く、またプロテクションのセットが難しいなど、なかなか大変でした。それでも一旦核心ピッチのビレイポイントに戻ると、私はその日の成功の可能性に自信と楽観的な気持ちを抱いていました。

しかし残念ながら、私の2回目のトライは期待どおりにはいきませんでした。私たちを包み込む雲のせいで、全身ずぶ濡れでした。岩肌はまだ乾いていましたが、ロープ、クイックドロー、指皮はすっかり濡れていました。水を吸って重くなったロープがひどくスタックし、1、2度足を滑らせましたが、何とか壁から剥がされずにへばりついていることができました。しかし、核心での奮闘の末、このトライはひどい結果に終わってしまいました。核心パートの最後のムーブでフォールし、それと同時に指先が裂け、人差し指に血まみれの傷を負ってしまったのです。

オルバーユの雲が来ては去りを繰り返し、登り出しのタイミングをなかなか予測できませんでした。それでも、とても長いレストの後、指にテープを巻き、3回目のトライに挑みました。しかし結果は、2回目と同じでした。歯車が噛み合わなくなって物事がうまくいかなくなり、目標達成の可能性は大幅に減少してしまいました。

私は疲れていて悲観的になっていました。でもソリーヌ、ウゴ、エルワンの3人は、とても明るく元気一杯で、彼らのおかげで、雰囲気は素晴らしかったのです。ですから、くよくよ考えずに、私は自分自身の目標、マルチピッチ完登プロジェクトに集中することにしたのです。もうゲームを放り出すことなんてできませんでした。4回目のトライに賭けるしかありませんでした。しかしいざ登り始めてみたものの、動きは緩慢で弱っている自分を感じ、指皮も痛くて、大変きつい思いをしてムーブをこなしていく有様でした。でも、仲間たちがすごい声援を送ってきたのです。戦いは始まっていたのです!どうにか、彼らの声援のおかげで、私は核心のパートを登り切りました。そして、今一度、本当に落ち着いて集中しなくてはなりませんでした。核心に続く最後のパートは、疲れと前腕のパンプを感じながら、時間をかけて懸命に登りました。そして約30分の力闘の末、ついにアンカーにクリップしたのです。最高の瞬間でした。自分が成し遂げたことが本当に信じられませんでした。

時は既に午後5時。私はその核心ピッチにおよそ6、7時間を費やしたのでした。私たちは素早く行動しなければなりませんでした。山頂まで、ナチュプロを使った微妙なピッチがさらに10ほどあったのです。私は次の8aピッチをオンサイトで登り、その後ソリーヌをパートナーにピック・ウリエージュの頂き目指して着実に登り続けました。その後のピッチはグレード的には低いものでしたが、ラインが読みづらく、またプロテクションの取り方に少々癖がありました。頂上に立ったのは、午後11時でした。そして26日午前3時に、途中、非常に湿気を含んだ雲の中で何度か道に迷いもしましたが、ようやくアプローチの開始地点である駐車場に到着しました。先に壁から降りていたウゴとエルワンは、食べ物を手に、依然私たちの帰りを待っていてくれました。それは、21時間の素晴らしい一日の終わりでした。

ソリーヌ、エルワン、ウゴ、そしてシーベ、ノルウェン、キコ、アルバロには大いに感謝しています」

追記:

「正直言って、核心ピッチのグレーディングはなかなか難しいです。おそらくコンディションが最適ではなかったこともあり、私はかなり苦戦しました。再登者たちは8cぐらいとしていますが、私がこのエリアで登ったことのある他のスポートルートと比べても、やはり8cに近いと感じました。ただ8b+だと言われても、驚かないでしょう。おそらくRayuの核心ピッチよりは難しいでしょうが。いずれにして、Orbayuで、また素晴らしいクライミングができたのは確実です」

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