ジェームズ・ピアソン、南仏・アノの岩場でE10 7a を初登

文=climber.co.uk  訳=羽鎌田学

フランスからホットなニュースが届いた。ジェームズ・ピアソンがアノで、“Le Voyage”(ル・ヴワィヤージュ)E10 7aを初登したというのだ。 「このルート、かつて一度も登ったことのない最高の“新しい”トラッドルートだった、と言えます」このコメントから、彼が最新の力作にいかに満足しているかがわかるだろう。

ニースの北西、車で2時間ほどのところにあるアノ、1980年代から徐々に開拓、整備が進んで来たクライミングエリアである(ちなみに以前はアンノットと表記されていた)。周辺の山々には、ちょっとした岩壁と数々の砂岩のボルダ―が点在している。ここは、ボルダリング、スポートクライミング、トラッドクライミングの3種類のクライミングを楽しむことができるエリアだ。今回ジェームズ・ピアソンは、当エリアで最難、かつ最高のプロジェクトに出会い、それを初登したのである。

アノのトラッドルートは、コーナーに開いたクラックを登るものがほとんどだ。しかし“Le Voyage”のラインは、存在感のある美しいフェースに引かれ、そこには登るために必要最小限の数のホールドと、極めて重要なことであるが、ギアをセットできる箇所まで存在するのである。ジェームズはロケーションとルートについて次のように説明する。

「壁は、アプローチが簡単なセクターのひとつにあって、絶対に見逃すことはありませんよ。そこはもっとも素晴らしいセクターと言ってもいいでしょう。誰の目にも明らかなその壁に、下から上まで一本の見事なラインが引かれているのです。そのセクターは “Chambre du Roi”(シャンブル・デュ・ロワ)と呼ばれているのですが、そのセクターのど真ん中に壁はあるのです。そして、その上にいくに従って少しずつ傾斜を増していく壁には、途切れ途切れでもなんとか取付きから上まで続けていけそうな40mの一本のクラックが刻まれているのです。クラックの途切れているところは、壁に開いたポケットをプロテクションのセットに使えるのですが、スモールサイズのギアを辛うじてきめられるくらいに小さいのです」

トライ開始から成功までには5日間が必要だった。ジェームズはそのトライを次のように話す。「ムーブを解決するのがやっかいでしたね。パンプも激しくて。私が登ったトラッドルートで最難の一本であることは疑いありません。ただ今回は難易度についていろいろ言うかわりに、そのラインの質を強調したいですね。先ずは見て下さい。それはもう美しい、の一言に尽きます。まさに自然が創り出した驚くべきものです。もしルート上のホールドがひとつでも欠けたら、このルートは存在しなくなるでしょう。こんなルートがまだあったなんて信じられませんよ。特にここアノでは、他のフェース状の壁の多くがブランクセクションだらけなのですから。“Le Voyage”は、私が登ったことのあるルートの中で、最高の“新しい”トラッドルートであることは間違いありません」

※Eグレード=英国発祥のトラッド独自のグレード。Eで始まる(EはExtremeであるからもちろんそれ以下にHVS,VS,HSなどがある)形容詞グレードと、あとに続くテクニカルグレードからなり、この差が大きいほど危険と言うことになる。たとえばスコットランドのAchemineはE9 6cだが、ムーブが6cにも関わらずE9とグレーディングされているということはいかに危険なルートであるかということだ。

※E10 7aとグレーディングされたおもなルート
2000年、二ール・ベントレーによる南バーべッジのEquilibrium。
2000年、ジョン・デューンによるトフェットウォールのBreathless。
2007年、ジェームス・ピアソンによる北バーベッジのThe Promise。
2008年、ジェームス・ピアソンによるクラットクリフのThe Groove E10 7b。
変わり種ではアルノー・プティが2011年、セユーズで登ったレトロトラッドのBlack Beans(8b)。
そしてこの上には2006年、デイブ・マクリードによるスコットランドのRhapsody E11 7a(まれに5.14cと換算されている)がある。

>>グレード比較表

関連リンク

同一カテゴリの最新ニュース