2023ピオレドール受賞チームが決定

文=鳴海玄希

2023年のピオレドールの受賞チームが決定した。選ばれたのはヒマラヤから2隊、そして昨年は特に印象的なクライミングが行なわれたペルーアンデスから1隊の合計3隊。2023年度国際技術審査委員のひとりである鳴海玄希氏が、それぞれの登攀について解説する。

ヒリシャンカ南南東稜(6,094m)

ワイワッシュ山群のヒリシャンカはペルーの6,000m峰の中では最後に登られた山であり、どの方角から登っても難しいピーク。カナダのアリク・バーグとケンティン・ロバーツが3日間の完璧なアルパインスタイルで登った「レイノ・ホンゴ(1,000m, M7 AI5+ 90°)」が選ばれた。

2人は過去に触られたことのないキノコ雪だらけの南南東稜を7月21日に登攀開始。数日前の降雪で下部は雪がべっとりついていたため、初日は雪の影響の少ない南側の強傾斜のパートに回り込み、難しいミックスクライミングをこなして、再びドラゴンの背のようなリッジへ合流。2日目は南南東稜を登攀し、3日目にプロテクションが取りにくく、フォローもリード同様に危険なヘッドウォールをこなし、23日に山頂へ。ここで彼らは、過去20年近くも登られていなかった山で、なんと偶然にももう2人の登山者と偶然出会った。彼らは南東壁の右側を登ってきたアメリカ隊であった。

下降はアメリカパーティと共に東バットレスから南東壁に回り込み、もう1ビバークでベースキャンプにたどり着いた。各自パックを背負い、リード&フォロー。未知であったラインは山頂へダイレクトに突き上げており、シンプルで美しく、かつ難しいラインだと思う。今日、ヒマラヤではない山域でも、こんなにも大きく綺麗なラインを引けることに気づかされたクライミングである。

ジュガル・スパイヤー北壁(6,563m)

ネパールからはイギリスのポール・ラムズデンとティム・ミラーによるジュガル・スパイヤー(akaドルジェ・ラクパⅡ、6,563m)北壁の「ファントムライン(1,300m, ED)」。こちらも完璧なアルパインスタイルによる5日間のクライミングで、山頂からはこれまた未知であるピークの南側から西側に下降した。

登山期間中は毎日雨、雪、雹に見舞われながらも、偵察では辛うじて壁を横切るように繋がるアイスを発見、途中ブランクに見えたセクションも、行ってみるとフレークの後ろにチムニーが隠れており、「スコティッシュスタイル」クライミングで登った。2日目の夜にチリ雪崩でテントが引き裂かれるも、立ったままのビバークでやり過ごし、37ピッチのクライミングの後、5日目で山頂へ。下降は、こちらも情報の無い山の南側から西側に回りこみ、もう1ビバークして氷河へ到達した。

やがては消えてしまう氷の特性と、偵察時には光の当たり方次第では見えなくなってしまう登攀ラインから、ルート名を「ファントムライン」とした。

経験豊富なラムズデンをして「これまでで最も良いルートの一つ」と言わしめた。登攀対象を見つけるセンスと完璧なまでにシンプルなスタイルが光る、尊敬と嫉妬しかないクライミング。

プマリチッシュ・イースト(6,850m)

そしてパキスタンからはプマリチッシュ・イースト。このピークは、過去に幾つかの強力なチームがトライするも未踏のままに残っていた、プマリチッシュ山群最後の課題であった。

クリストフ・オジエ、ビクター・ソセード、ジェローム・スレバンからなるフランス隊は近年の気候変動による夏の暑さを避けるため、通常より1ヶ月早く5月に入山するも、天気待ちの27日間のベースキャンプ 滞在中、26日も降雪が続いた。大量降雪のため、雪崩の影響の受けにくい、傾斜の強いライン取りを選択した結果、ルートは壁の強点をつくことになり、非常にテクニカルなクライミングであったと報告している。

難しさから中間部では荷揚げとユマールを余儀なくされたが、できるかぎりフリークライミングをし、6,600m地点でもクライミングシューズで6b程度のロッククライミングをこなした。

不快なビバークをこなしつつ、5日目の午前10時に、頂上稜線のキノコ雪を登り山頂へ立った後、最終ビバーク地点まで戻り、日が落ちて雪のコンディションが安定するのを夕方あたりまで待ってから同ルートを下降し、その日の夜中にABCへたどり着いた。このサイズの壁で強点をつくこと自体が印象的なクライミングであり、クライミング時期の見極めと、危険を最小限にとどめつつアルパインスタイルで登攀可能なラインを見出したことに、クライマーとして、またプロの山岳ガイドとしての、豊富な経験に裏付けられた判断力と卓越したセンスを感じる。

また、審査員特別賞として、各国から集まった女性だけによるチームで登られた東グリーンランドはレンランドのノーザン・サン・スパイヤー(1,527m)に引かれた新ライン「ヴィア・センダ」が選ばれた。

3人のクライマー、キャプシーノ・コトー(フランス)、キャロ・ノース(スイス)、ナディア・ロジョ(スペイン)、それに写真家のラモナ・ワルドナー(オーストリア)は、スキッパーのマルタ・ゲムス(スペイン)、クルーのキャロリーン・デュエ、アリクス・ジャイカル(フランス)が駆る全長15mのヨット、ノースアバウト号に乗り、フランスのロシェールを6月20日に出港し、悪天と氷に阻まれながらも6週間かけてレンランドに到達した。この時点でクライミングにさける時間は10日間しか残されていなかった。

コトーとロジョが時折エイドを交えながら、2日間のクライミングで下部の難しいパートに300mロープをフィックス後、ノースを加えた3人でゴーアップした。さらに4ピッチを伸ばした後、ポータレッジでビバーク。翌朝さらに6a-6bで6ピッチを伸ばし南リッジの最上部に達した。山頂までは簡単なスクランブリングであったものの、予報通り天気は荒天し始めたため、そこから同ルートを下降した。帰路も4週間に及ぶ航海で、合計航続距離は約6,400kmにも及んだ。

冒険そのものが素晴らしいだけではなく、自立した女性だけのチームであり、CO2排出も最小限に抑えられており、環境へのインパクトが低い登山であったところが、ピオレドールが発信したいメッセージとマッチした。

なお、授賞セレモニーは11月14日から16日にかけて、フランスのブリアンソンで開催される予定である。

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