ヤコブ・シューベルトによるB.I.G.(Project Big)、世界3本目の9c/5.15dに

Steven Potter climbing.com
訳=羽鎌田学

2023年9月20日、ヤコブ・シューベルトは、ノルウェーのフラタンゲルにある公開プロジェクト、Project Bigを初登した。そして、9月27日、彼はこのルートの正式な名前を「B.I.G.」、グレードを「9c/5.15d」と公表した。

これでヤコブは、アダム・オンドラ(2017年、Silence)とセブ・ブワン(2022年、DNA)に続く3人目の9cルート初登者となった。目下、ステファノ・ギゾルフィがSilenceの第2登に向けてトライを続けているが、現在までに9cルートが第2登されたことはない。

グレードというものは興味深く、恐ろしく、そして特定するのが難しい。ヤコブがこのプロジェクトの完登に費やした2ヵ月の間、B.I.G.が世界最難グレードに値するかどうかは、彼にとって必ずしも明確ではなかった。2022年にアダムとヤコブが一緒にラインをトライし始めた時、彼ら二人は当初、おそらくB.I.G.は9c(5.15d)になるだろうと考え、かつそれを期待した。しかし、攻略法はすぐに解き明かされ、1週間もしないうちにアダムとヤコブの二人は「完登近しと感じる」ようになった。しかし、その後両者ともそれを実現できず、今年になってヤコブが再びトライを始めた時も、やはりB.I.G.はすぐには登らせてくれなかった。

「今になってみれば、(昨年は)実はそれほど完登間近でもなかったのではと思います」と、彼はインスタグラムの中で述べている。そして「今シーズン、自分のトライがどのように進展していったかを考えることで、違った視点から見ることができるようになりました」と続ける。実際彼は、何回も取付きからノーフォールで登って最大の核心ムーブを決めることができたにもかかわらず、その後の同じ数手のところでフォールを喫する羽目になっていた。そして完登を決めたトライの際には、上部の8a/+(5.13b/c)のパートで、最初は濡れたホールドに遭遇して、二度目は手にしたホールドが割れ、危うく落ちそうになったりもした。

「B.I.G.はムーブだけを試してみると実際にはそれほど悪く感じないので、ある意味グレーディングしづらいルートだと思います」と、彼はthecrag.com中のB.I.G.についてのコメント欄に書いている。

「核心は8A+(V12)のボルダームーブですが、最後にはそれを完全にものにしていて、連続で何度か続けて簡単にこなせるようにはなっていました。しかし、非常にパワフルなボルダームーブですので、そこまでで80以上ムーブをこなしてからでは一層ハードになってしまうのです」

ヤコブは、驚くべきことに、以前一度のツアーで目標とするプロジェクトの完登に失敗したことがなかったのだが、今回は、B.I.G.の完登に2シーズンにわたり計2ヵ月近くを費やさなくてはならなかった。しかし、ついに終了点に無事クリップし、「私がこれまでに経験した中で最大のメンタルバトルでした」と締めくくったが、実際のグレードについては確信が持てず、その発表には時間がかかったようである。単純に比較の対象となりうる複数のルートにトライしたことがないことも、その理由のひとつだろう。

一般的にコンペクライマーとみなされることが多い彼は、事実、種々のコンペで気の遠くなるような数の49個もの金メダルを獲得し、2011年、2012年、2013年、2018年度のコンバインドワールドカップで年間優勝を果たし、4度のリード世界選手権と2度のコンバインド世界選手権でチャンピオンとなり、オリンピックでは銅メダルを獲得した。そんなヤコブではあるが、外岩での実績も素晴らしく、9a+(5.15a)以上のルートを十数本、高難度ディープウォーター・ソロ、8C(V15)までの数多くのボルダー課題などを登っている。しかし、彼の驚くべき成功を収めたキャリアにもかかわらず、ヤコブが9b(5.15b)というグレードを超える難易度について唯一言及できるのは、そのグレードが確認されている(※)数少ないルートのうち、Perfecto Mundoの一本のみだ。

高難度ルートを登るクライマーの間でさえも、9b(5.15b)以上のグレードは経験が浅いと考える者は、彼だけではない。それほど9b+(5.15c)、9c(5.15d)といったグレードはまだまだ目新しいものであり、結果的にその境界線はまだ明確にされていない。

「ルート数と再登者数が多いので、9b(5.15b)までの各グレードの範疇は落ち着いているようです」と、彼はthecrag.comの中で述べ、続ける。

「しかし、9b+(5.15c)と9c(5.15d)については、まだまだそうも言えません。比較できるルートの数が依然として非常に限られているのです。9b+(5.15c)を登ったと標榜するクライマーは10人もおらず、9b+(5.15c)以上にグレーディングされたルートの合計は依然として15本未満で、そのほとんどがまだ再登されていません。ですから、9b+(5.15c)と9c(5.15d)の両グレードの境目はまだまだ曖昧なのです。でも時間の経過とともに、再登や意見の共有を通じて明らかになっていくに違いありません」

ただし、それでもヤコブがPerfecto MundoとB.I.G.を比べた時、両ルートは比較にならなかった。

「私にとって、Perfecto Mundoの方がはるかに簡単に感じられました」と、彼は断言する。彼は、B.I.G.完登に際し、トライを重ねることによりルートを完全に把握していた。

「私は、自分にとって可能な限りの最も効率的な方法を見つけ出し、もうそれ以上の改善の余地が見当たらないレベルに到達していると感じていました。つまり最後には、自分のフィジカルとメンタルのコンディションがすべてだったということになり、その時に自分がそのベストなコンディションにあったのです」

これらの事実を考慮し、またこのルートに多大な時間を費やした唯一のクライマーであるアダム・オンドラにさらに相談した結果、ヤコブ・シューベルトは「9c(5.15d)とするのが妥当であると感じる」という結論を出さざるを得なかったのである。

※ Perfecto Mundoは、アレックス・メゴス、ステファノ・ギゾルフィ、ヤコブ・シューベルトによって再登されている。一方、クリス・シャーマ、アダム オンドラ、ホルヘ・ディアス=ルージョら、最強のクライマーたちによる多大な努力をはね返している。

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