エデール・ロンバ、英国最難のスポートルートRainman(9b / 5.15b)を第2登

Isaac Fernandez   desnivel.com
訳=羽鎌田学

2022年5月13日、スペイン、バスク地方出身で、現在は英国に居を構え活動するエデール・ロンバ(28才)が、ノースヨークシャー州マラム・コーブで2017年6月にスティーブ・マクルーアが初登したRainman(9b / 5.15b)の第2登に成功した。Rainmanは、Rainshadow(9a)とBatman(9a/+)のリンクルートで、エデールはそれぞれRP済ではあった。直近の1年間を、その両ルートのリンクに捧げた結果であった。

RainshadowとBatmanを登った後、彼はすぐにRainmanのトライを開始した。もちろんほぼすべてのムーブは勝手知ったるもの。できないムーブはなかった。しかしながら、完登までの過程がどれほど手ごわいものになるかは、まったく想像できていなかった。数字とアルファベットからなるグレードでは表すことのできない「最高の経験ができましたよ」と、彼は言う。

エデールは、以前は、かのジェリー・モファットがオーナーのクライミングジムで働いていたが、そこでの仕事を辞めて、仲間のニック・シレムとNew Age Climbingと名付けたクライミングスクールを立ち上げ、インストラクターとして活動しているのだ。また、英国ナショナルチームのトレーナーの一員としても選ばれ、2028年開催予定のロサンゼルス・オリンピック代表選手として自らの教え子が活躍することを夢見ている。

――Rainmanを再登するまでの過程は?

エデール:もちろん、とても面白かったですよ。昨年の春に、トライを始めたのですが、その時点で、RainshadowとBatman、両方とも既に登っていたので、もちろん各ルートの最難パートを含め、すべてのムーブをこなせることは初日に確認できました。

――どんなルート?

エデール:大雑把に言って、Rainshadowの最も難しいところを登ってから、ニーバーを効かせてレスト。そして今度はBatmanの最も難しいところを登る、という感じですね。最初の頃は、わずか5秒のレストのためだけでも膝のうまいかませ方を見つけるのに数日かかりましたよ。また、冬の間は、ふくらはぎをしっかり鍛えました。まあ、ニーバーレストを挟んで、2本の9aルートを続けて登るルート、とでも言えるでしょう。

――完登に要した日数は?

エデール:昨年の春には9日間、その後は、コンディションが悪くて…。

――コンディション次第?

エデール:そうですね、コンディションの影響は大きいです。マラムは、南向きの弧を描いた半円形劇場のような白い壁です。よく岩場に温度計を持っていって気温を計っていたのですが、午後8時に日陰でも30℃の時もありました。岩場から離れると12℃なのでしたが。岩場に立ち込めるこの熱気のせいで、絶えず岩場の上空に雲が発生し、それが濃くなると雨になるか、雨にならなかったとしても登るには暑過ぎる状態なのです。まあ雲がある日は、まず雨でしたね。春が最も条件のいい季節で、夏は暑さに加えて、大量に発生するヌカカのせいでクライミングどころではないですよ。また特に去年の秋は雨が多くて、湿気も強く、無風で高温の日が続きました。

――いろいろあったようですが…。

エデール:ありましたよ、特に秋にはいろいろと。ある日、最後の難しいムーブで落ちたので、これはもういけると考えて、数日後にもう一度登りに行ったのですが、取付きに着いたら、岩場の上から身投げした人の遺体が横たわっていたのです。それはびっくりしましたよ。すっかりやる気が失せて、しばらく岩場に戻る気もしませんでした。

別の日には、その日は気温が4℃から5℃の完璧な条件で、さて今日こそは完登だと気合を入れてロープをハーネスに結び準備OKとなった途端、ビレイヤーだったニック・シレムの奥さんからの電話が入ったのです。予定日よりも2ヵ月早く出産が始まった、との知らせでした。もちろんニックは飛んで帰りましたよ。そうこうしているうちに、気がついたら冬になっていました。ですから、トレーニングに集中することにしたのです。

――完登の日は?

エデール:まず完登前日ですが、かなりナーバスになっていました。英国ナショナルチームに帯同しスコットランドに行く予定が入っていたので、翌日に登れなかったらその後2週間はトライできなかったのです。その夜は、もう残された時間も少ないし、そのうちにまた暑さがやってくるだろうと考えて、かなりネガティブな気持ちでベッドに入りました。でも、目を覚ました時には、気持ちも落ち着いていて、絶対に登るぞとやる気満々になっていました。午前中には仕事関係のミーティングがあって精神的にちょっと疲れたのですが、実際それには全然影響されませんでした。

岩場の気温は25℃で、ウオーミングアップで登った時にも絶好調というわけではなかったのですが、まああまり気にしませんでした。20分程散歩して取付きに戻った時には、できるという気持ちになっていて、事実できたのです。無駄な力を入れることもなく、あまり疲れも感じずに登ることができました。ニーバーを決めてレストしている時には、もう「これは登れるぞ」と考えていました。もちろん頭上には9aのパートがまだまだ控えていたのですが。上部で、最難のパートを無事通過した後、思わず涙を流してしまいました。ルートはまだ10mから12mほど残っていたのですが。感激の一言です。まったく夢のようでした。

――グレードについては?

エデール:答えるのは、なかなか難しいですね。このグレードのルートに手を付けたのは初めてだったのですが、正直言って、最初にトライした時にはそれほど難しいとは感じなかったのです。その時、最後のパートで落ちたので、これなら絶対できると考えたぐらいです。今までの経験では、あるルートを狙っていて最後で落ちるようになったら、数日後には完登できるというパターンだったのです。でもRainmanでは、最後のパートで35日間落ち続けるはめになりました。最後で10cmの高度をもぎ取るのに大変苦労させられたのです。完登に必要な持久力を過小評価し、それを獲得するためのトレーニングを軽視していたのです。

この冬にトライしていたスペイン、シウラナのLa Ramblaよりは、はるかに難しいことは確かです。でも、難しさの中にも大きな違いがあります。また、RainshadowにしてもBatmanにしても、9aにしてはやけに難しいと言われ、特にBatmanについては、9a+にしてもいいのではと考える人もいます。

いずれにしろ、初登者のスティーブ・マクルーアが9bとし、トライしたアダム・オンドラがスティーブに、そのくらいの難しさはあるだろうと言った以上、Rainmanのグレードについて何か言うつもりはありません。彼らを信用するだけです。

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