サーシャ・ディジュリアン、マティルダ・スーデルンド、ブレット・ハリントン、Rayu(610 m、8c)第2登

Eva Martos   desnivel.com  訳=羽鎌田学
写真=Jan Novak/Red Bull

3人の女性クライマーは交代で各ピッチをリードし、スペイン、ピコス・デ・エウローパ、ペーニャ・サンタ・デ・カスティージャ峰にてRayu(610 m、8c)の第2登を達成した。

同時にそれは女性クライマーが初めて成した快挙でもあった。サーシャとマティルダの2人は、8cとされる核心ピッチをリードでRPし、女性を主人公としたクライミング史のビッグウォール分野に新たな一歩を刻んだのであった。

彼女らは10日ほど前にRayuの最難ピッチをRPして全ピッチを個別に解決した際、仕上げとして取付きから山頂まで各ピッチを順次RPして登り切るつもりであると宣言していたが、9月26日、自身らのSNSを通じて、その達成を熱狂的に発表した。

サーシャ・ディジュリアンは言う。「やりました!ピコス・デ・エウローパのビッグウォール、610m、8cのRayuを第2登、女性としての初登を成し遂げました。女性クライマーだけがロープを結んで登った最も困難なビッグウォールクライミングです」

その企ての中心的な進行役であった米国人クライマー、サーシャは、次のように説明する。「基本的にトップを交代しながら、チームとして全ピッチをフリーで登ったのですが、8cの1ピッチだけは、マティルダと私、2人共がトップでリードして登りました」

9月12日、サーシャとマティルダの両名(共にスポートでは9aを登る実力者)は、一ヵ所のダイナミックムーブを含みながらも終始マイクロホールドを繋いで登っていく最難ピッチ、約45mの8cをRP。その後、彼女たちは、自身初の8cとなるピッチのRPに取り組むブレットをサポートするために壁に戻る。ビッグウォールやアルパインアイス、ミックスクライミングを得意とするブレットは、毎日彼女のビレーのために400m以上をユマーリングして登るチームメイトに支えられながら、約6日間トライしたが、結局同ルートのRPは果たすことができなかった。

「私たちは、チームとしては全ピッチをRPしました」と、サーシャは言い、説明を続ける。「8cのピッチは、マティルダと私、2人共、リードでRPしました。その他のピッチでは、トップを交代しながら、ナチュラルプロテクションをセットしながら登りました」。ランニングポイントとしてのボルトの設置が最小限に抑えられたピッチでは、ブレットが持つナチュプロセットの豊富な経験が、チームにとって大きな助けとなった。

「チームを組んで、クリーンな、ナチュプロを多用するマルチピッチルートを登る場合の手順を学ぶことができて最高でした」と、マティルダは言う。スポートクライミングの高いレベルを活かし今回のクライミングに貢献しながらも、マルチピッチルートの経験がほとんどない彼女は、次のように付け加える。「一度誤って落としてしまった岩のブロックが、危うくサーシャの上に落ちそうになりました。ルート上には岩が不安定な場所があっちこっちにあり、また全てのピッチでそこでは絶対に落ちてはだめだというところがありました。クラックも汚れていて、ナチュプロのセットが難しくなっていました。幸いなことに、致命的なフォールは経験せずに済みましたが」

Rayuは、2020年夏にイケルとエネコのポー兄弟がアルゼンチン人山岳ガイドであるキコ・セルダーを伴い開拓初登したルートで、それ以来、再登者を迎えていなかった。ルート核心の8cとされる最難ピッチを中心に、複数のナチュプロ・ピッチを含むフレンチグレード7台(5.11後半から5.13a)の難易度のピッチが連続する14ピッチで構成されている。世界的に見てもトップレベルのクライミング、肉体的、精神的な大いなる挑戦になることは間違いなく、同時に今回、女性クライマーだけのチームで完登された高難度マルチピッチルートとなった。

*ペーニャ・サンタ・デ・カスティージャ
スペイン北端、ピコス・デ・エウローパ連峰を形成する3つの山群のうち最も西方に位置するコルニオーン山群最高峰(2.596 m)

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