セルフケアの羅針盤 Vol.7 首の不調・疲労を解消する

根本国彰=文 町田早季=イラスト

最近、首の不調を訴えて来院するクライマーが増えている。その原因の内訳は、
①ジムでボルダリング中に背中から落ちて首を痛めた 
②登っていたら徐々に首が痛くなってきた 
③ルートクライミングのビレイによるもの
これらが大半を占めている。症状としては「朝起きるときがいちばんツラく、日中にかけて体を動かすにつれて痛みが緩和してくる」というものが多く、これは、ほぼ筋肉の問題に由来することを示唆している。
以前からこのような首の不調の訴えはあったが、コロナ自粛中から自粛明けにかけて如実に増えているので、テレワークによる生活様式の変化やクライミングジムの休業、外出自粛の影響も大きいのではないかと考えている。
今年の春シーズンはまともに登れなかった遅れを取り戻すため、クライミングを再開すると同時にハイペースで登った患者が多いようである。
以前、柔軟性の回(第3回)で触れたが、ただでさえ夏場はウォーミングアップ不足になりやすく、重大なケガを引き起こしやすい季節でもあるので、マイナス要因が重なっているようだ。
今回は、首の不調や疲労の改善方法で①~③の症状に使える方法を紹介する。もちろん、パソコンやスマホによる首の症状改善にも役立つので、日常のケアに覚えておくといいだろう。

首の動きの解剖学  

頸椎は7個あって上から1番、2番と数えていくが、第3頸椎以下は胸椎や腰椎の脊椎骨と似たような形をしているのに対し、第1頸椎、第2頸椎は独特の形状で、それぞれ「環椎」「軸椎」と呼ばれる。

環椎と軸椎で形成される環軸関節には、第2頸椎以下の椎間にはある椎間板がないことも特徴で、これは第1頸椎と第2頸椎は首の前後屈よりも回旋運動に大きく関わっていることを示している。  
頸椎の筋肉は多く、各動作において複雑に関わるため、個々の筋肉の働きを把握することは難しい。
よって、基本的な首の6方向(前後屈、左右側屈、左右回旋)の動きに限って、関わる筋肉を見ていくことにする。  

首の前屈には主に胸鎖乳突筋と首の前側の筋肉が関わり、首の後屈には主に頭板状筋、後頭下筋群(小後頭直筋、大後頭直筋、上頭斜筋、下頭斜棘筋)、脊柱起立筋、頭半棘筋、頸半棘筋が関わる。  
首の側屈には首の前の筋肉群、胸鎖乳突筋、後頭下筋群、脊柱起立筋が作用する。  
首の回旋においては、回旋する方向と同側の頭板状筋、脊柱起立筋、それと反対側の胸鎖乳突筋が同時に作用している。  
ここでの注目すべきポイントは胸鎖乳突筋と軸椎である。胸鎖乳突筋は後屈以外の首の動きすべてで作用し、軸椎の棘突起には多くの筋肉(下頭斜筋、頸半棘筋、大後頭直筋)が付着しており、それらの筋群は後屈や回旋に作用すると同時に、頸椎の前弯維持の役割も担っている。  
また、7個の頸椎を可動域別に見ていくと、前屈は頸椎5~6番間で最も角度が大きくなり、後屈は頸椎6~7番で最大となる。回旋や側屈の動きでは頸椎1~2番が最も大きく動いている。  
以上の解剖学的な内容を知っておくと、首に不調が出た際に対処すべきポイントの目安になる。
たとえば、上を向くのがツラいときには、首の付け根の辺り(頸椎7番付近)をマッサージしたり、温めたりというような、理に適ったセルフケアが可能になってくる。  
しかしながら、解剖図からもわかるように、首の筋肉は何層にもなっているので、いちばん深くて重要な筋肉をマッサージすることは困難である。
そこでまた今回も、当院で取り入れている活法(整体法)から「首の動きを改善する自己調整術」を紹介しよう。

首の回旋を改善する自己調整術

 


まず、正座で正面を基準に右と左の首の可動域を確認する。立位より正座のほうが、正確に首の動きを自覚することができる。このときの筆者は右の回旋が悪いことがわかる。  

次に、動きの悪い側の手を床につく。手の位置は写真左ぐらいがベスト。写真右のように、手が近すぎると猫背になって効果が発揮されない

背中はまっすぐのまま、姿勢を崩さずに手をつくようにする

手をつくときは指先に注意。写真左のように、なるべく指先は正面に向ける。写真右のように、指先が外に開きすぎるのはNG。正面から手をついた側へ首を向ける動作を5回ほどゆっくり繰り返す

終わったら手と体を正座の形に戻し、深呼吸を1回行なう。 動きを確認すると、自己調整術を行なう前と比較して可動域が広くなっていることがわかる

正座ができない場合の立位バージョン

写真のように壁に手をつき、正座のときと同じように首を動かす

首の前屈を改善する自己調整術  

 

まず、立位で正面を基準に首の前後屈の動きを確認する。筆者の場合、前屈が悪いことがわかる。  


顔は正面のまま、小さく前にならえをする。
小さく前にならえをしたまま、首を前屈する。  


首は前屈したまま、手を下ろす。


顔を正面に戻し、深呼吸を1回入れる。 


確認すると、前屈が改善していることがわかる。

首の後屈を改善する自己調整術  

筆者の場合、前屈が悪かったので、後屈を調整する必要はないのだが、後屈のほうが悪かった人のやり方も紹介しておく。

手を背中で重ね合わせる。  


手の位置は低いよりも高いほうがいいことが多いが、首の後屈が楽になる位置が正解なので、高さは各自で確認すること。

首の後屈を5回ほど繰り返す。その都度、手の位置が高くなっていっても構わない。首を楽に動かせる手の高さを探ること。

5回終わったら深呼吸を入れ、首の動きを確認すると、最初よりも首の後屈が改善されていることが実感できる。  
首の動きを改善するこの自己調整術は、前回の胸郭の調整術とは違い、回数に決まりはなく何度行なってもいいので、紹介した回数は参考基準と考えてもらっていいだろう。ただし、手順だけはこのとおりに行なわないと効き目がないので、落ち着いて順を追っていただきたい。

※当連載は「ROCK&SNOW」089の記事内容を一部編集し、再掲載しています

 

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