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ヘイミッシュ・マッカーサー、V17を3時間で完登
Anthony Walsh, climbing.com
訳=羽鎌田学
2025年5月4日、英国人クライマー、ヘイミッシュ・マッカーサー(23歳)が、米国コロラド州サンダー・リッジにあるV17(9A)のNo One Mourns the Wickedをわずか1日のセッションで完登し、クライミング史に名を刻んだ。
その日彼はまず、2013年11月にダニエル・ウッズが初登したV15(8C)課題、ボルダリングで最も難度の高いムーブの一つを含むと言われるスタンドスタートのDefying Gravityを1時間ほどのトライで完登。続いて、Defying Gravityのロースタートである、2024年12月3日にナサニエル・コールマンが初登してV17としたNo One Mourns the Wickedにトライを始め、これもまた1時間ほどのトライの後に完登してしまった。
クライミングに詳しい方なら、ヘイミッシュ・マッカーサーが直近の半月ほどの間に2本のV17課題をゲットしたことに気付くだろう。彼はほぼ2週間前の4月20日にコロラド州エルドラド・キャニオンにある、2022年にショーン・ラブトゥが初登しV17とグレーディングしたMegatronの待望の第2登を達成したばかりである。昨年のパリ・オリンピックに英国代表として参加し、コンバインド競技で5位になっているヘイミッシュの実力は、Megatron完登当日(セッション5日目)に存分に発揮されたようだ。
その日、彼は既に核心を足元にしているMegatronの上部から、8回連続でフォールしたにもかかわらず、9回目のトライで執念で完登に成功したのだ。今回の完登でヘイミッシュはV17課題を2本登ったことになるが、V15(8C)はRailway、V16(8C+)はBig Zを登っているだけである。
そんなヘイミッシュは5月6日にNo One Mourns the Wickedを登るビデオをYouTubeにアップし、その後足早に再び岩場に登りにいってしまったが、その直前に彼をつかまえていくつか質問をぶつけてみた。
その日、セッションに出かける前は、どんなことを期待していましたか? 実際はいかがでしたか?
最近は変に期待しないことを心掛けているので、答えるのが難しい質問ですね。期待を捨てることで、ワイルドで予測不可能な展開になるスペースが生まれるような気がするのです。とはいえ、このボルダーを登るという夢は、初登者のナサニエルが2024年にこの課題を初登する姿を動画で見て以来、ずっと心の片隅にありました。
ボルダーに到着してホールドに触れ始めた時、そのひどさに驚きました。どのホールドもフラットで、且つスローピーでとても滑りやすいので、それぞれの体勢を維持し、それらを繋げていくには、体全体に完璧なバランスが求められます。
核心となるムーブをこなす時、余裕がありましたか? 動画を見ると、素晴らしい気合いの入った叫び声をあげていますが、その声には同時に、ホールドに手がかかった驚きやホールドから手が外れることへの不安なども入り混じっているように聞こえたのですが。
これほど自分に合っているムーブは他にないとは思います。核心の細部を比較的早く理解し、スタンドスタートから登るたびにそれを絶えず再現できるほどでした。ただし、ロースタートから登ってくると、まるで別物でした。V13はあるイントロで疲れているのはもちろんですが、核心のムーブを起こす体勢に入るためはスタンドのスタートホールドを的確に取らなくてはならないのですが、そのためにはとてつもない正確さが求められるのです。
完登トライでは、飛ばした右手でそれ以前のトライの時よりも悪いところをとってしまったので、あの叫び声は、ハードなムーブをこなしている最中に頭をもたげてくる不安を抑え込むためのものでした。
直近の2週間で挙げた成果は、アウトドアでのボルダリングへの展望にどのような影響を与えましたか? V17レベルでは、数週間にわたるようなトライ期間も要らないようですので、V18レベルの課題に挑戦したいと考えていますか?
私たちが考える可能性について今一度考え直したいと思います。私は人生は夢と希望に満ちたものであるべきと考え、そのためにも日々学びを積んでいます。それはポジティブな変化をもたらすためには不可欠なことです。自分がやるべきことをしっかりやってさえいれば、やがてはクライミングよりもはるかに広い舞台で、今の閉塞した世界から抜け出すことができるはずです。
私のパフォーマンスは、数字、符号で表されていますが、大切なのは、そこに込められたメッセージです。V18は、そうであると信じる勇気を持つ人なら誰にでも可能です。