アルフレード・ウェッバー(52歳)、史上最難5.14bをフリーソロ

Bennett Slavsky   climbing.com
訳=羽鎌田学

3月初旬、イタリア人クライマー、アルフレード・ウェッバーはイタリア、アルコに近いモンテ・コルトの岩場ムーロ・ディ・ピザーラでPanem et Circenses (*)をフリーソロで登った。グレードは8c/5.14b、未だかつて誰もロープ無しで登ったことのないグレードだ。アルフレードの年齢は52歳。

Panem et Circensesは長さ15mのわずかに前傾した石灰岩の壁だ。小さなエッジと浅くて縁の甘いポケットを使う、非常にテクニカルでデリケートなムーブを要求されるルートだ。そんなルートをアルフレードは、ロープはもちろん、スポッターも無しで登ったのだ。プロテクションは、取付きに敷いた2枚のクラッシュパッドのみ。

アルフレード・ウェッバーという名前は馴染みのある名前でもなければ、事実彼自身プロのクライマーでもない。彼は人生の長きを採石場で働きながら生きてきた。と同時に、何十年にもわたり熱心にクライミングに打ち込んできたクライマーだ。そんな彼のひたむきさ、努力は2017年に彼が48才の時に実を結ぶこととなった。アルコのマッソーネで5.14dのThunder Ribesのレッドポイントに彼は成功したのだった。

 
 
 
 
 
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2017年、48歳の時アルコ・マッソーネのThunder Rives(9a/5.14d)を登るウェッバー
Photo_Matteo Pavana

当時、Thunder Ribesのレッドポイント達成後、彼はプラネットマウンテン誌に「私のこの年齢で5.14dを登るなんて、夢であることは当然にしても、そもそも思いもよらないことですよ」と語っている。「9aなんて並の人間には手の届かないグレードだった時代にクライマーとして成長しつつあった私なのです。ヴォルフガング・ギュリッヒがAction Directeを登る写真を見て、その写真のムーブ、ホールド、すべてが超人的なものにしか見えなかったのです」

彼は続けて言う。「辻褄を合わせることが重要です。例えばスタミナが必要なクライミングに体が耐えられるようにするためには、当然(Thunder Ribesのような)強傾斜の壁を登らなくてはなりません。また自分に課したダイエットを忠実に実行しようと努めるのですが、ただ単に運動を目的とした体調維持のためだけではありません。それはもう、実はまったく“内なる旅”で、自分の心をコントロールすることに意味があるのです。そして私は日々、新たな発見をしながら、新しい仲間と出会いながらクライマーとして進化しているのです」

アルフレードは2019年にPanem et Circensesをロープを使って、レッドポイントしている。しかし今回の同ルートのフリーソロは思いつきの結果では決してない。緻密に計算された過程の結果だったのだ。彼はこの2年間、同ルートを登るのに必要となる、純然たる魔法のような4分間のために、フィジカルとメンタルを鍛えてきたのである。

高難度ルートのフリーソロとしては、デイブ・マクラウドが2008年にDarwin Dixitに、そしてアレックス・フーバーが2012年にKommunistに成功しているが、両ルートともグレードは、5.14a。今回アルフレードは、その上をいく5.14bのルートをロープ無しで登り、高難度フリーソロの新たな歴史を創ったことになる。と同時に、アルフレードの功績は、年齢とキャリアがクライミングにおけるパフォーマンスを制限する要因には必ずしもならないことを証明したことにあるだろう。それは、熱い心と意志こそが何ごとにも勝る、ということでもあるのだろう。

(*)ラテン語。読み:パネム・エト・キルケーンセス、意味:パンとサーカス/見世物

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