クールダウンってやらなきゃダメ?その目的と効果とは?(2)
クールダウン=ウォームアップの逆まわしでOK!
運動後の”筋肉を緩ませるエクササイズ”には静的ストレッチも有効ですが、登った直後のこわばった筋肉は伸ばしにくい事が多いです。また、ストレッチは受動的なエクササイズなので筋肉のポンプ作用が起きにくく積極的な血行促進にはあまり向いていません。
おすすめのクールダウンは、簡単に言うと”ウォームアップの反対”。順番を逆にして行うイメージです。
まずはじめに”一定時間心拍数を維持できる持久系の運動”で、心拍数を維持して老廃物を筋肉から追い出します。
例えば…、
・軽いランニングや水泳
・エアロビック系のワークアウト
・縄跳び
・エアロバイク
などなど。
…でもこれをクライミング直後にやるのは難しいですよね?
そこで、クライマーはこんなふうにやるのが良いでしょう。
これでバッチリ!クールダウン
①クールダウンは1枚羽織っておこなう
体温を下げないようにジャケットなど羽織ってクールダウンに入ります。
②水分を補給する
登った後で水分不足を感じるようであれば先に補給しましょう。水分不足になると血液がドロドロになり血行が悪化してしまいます。体を冷やさないよう、常温の水やスポーツドリンク・アミノ酸飲料などがあればさらにgood。
どれくらい水分を摂ればいいですか?…これにはいいヒントがあります。尿の色です。いきなり尿の話ですみません(笑)
尿の色の濃さで、水分不足かどうかが判断できます。”無色透明~うすーい黄色”まではOK!ですが色が濃くなってきたら水分不足。すぐに補給しましょう。
③”ガバを探して手足自由”で”スピードを意識して”登る
これはできる限りやさしいもので行います。課題をこなすのではなく”手足自由”、課題を無視してガバを探しながら動き回るイメージです。このエクササイズは、スピードを意識することでムーブの見極めや的確なフットワークのトレーニングにもなります。
…これをやって心拍数が上がったところで次に移ります。
④シャドークライミング
シャドークライミングは前回ウォームアップ篇でもでてきましたが、クールダウンにもとても良いエクササイズです。
・空いてる壁を探して
・マットの上を歩きながら
・色々なホールドを色々なムーブでつかんだり引っ張ったりします
・肩や脇や背中をゆっくりストレッチするイメージで全身を大きく動かします
・深呼吸しながらリラックスして行います
血行のよい状態でゆっくりおこなうことで、筋肉の緊張を少しずつ落ち着かせながらこわばりを取ることができます。特に収縮したままになりがちな”脇の筋肉”をゆっくり伸ばしてあげましょう。マットの上を歩いておこなうので指への過剰な負荷もかかりません。
⑤心拍数が落ちないうちに”ボルダリング体操”
”ボルダリング体操”は私が長年患者さんと向き合いながら作り上げた、”クライマーのための”スペシャルエクササイズ。クールダウンにこそやっていただきたいエクササイズです。これで筋肉の緊張をていねいに取っていきます。
この体操については前回”ウォームアップ篇”で詳しく解説しました。そちらもあわせてご覧ください。
⑥体が冷えないうちにストレッチ
忙しくて時間がないと、ここまではできないかも知れません。⑤まででも十分ケアができます。ですが時間があるなら、ボルダリング体操のあとに静的ストレッチをやるとさらに完璧です。
ストレッチには様々なものがあり、ネットや書籍で膨大な情報が得られます。ここではストレッチする際の基本事項をまとめておきます。
・ターゲットを意識する:ストレッチする筋肉がどれかを意識して行いましょう。なんとなく伸ばしているだけだと効果が低いうえに筋肉を傷めやすいのです
・痛みが出ない程度におこなう:ツンとした痛みが出る手前でキープします。あまり無理すると伸張反射という筋肉のクセによって効果が下がり、傷めるリスクも増えてしまいます。
・息を吐きながら伸ばす:大きく深呼吸して吐くタイミングでゆっくり伸ばします。息はゆっくり長く吐きます。呼吸が止まっていたり、息を吸うタイミングだと筋肉が緊張しやすいのです。
・リラックスしておこなう:身体に力みがあるとストレッチはうまくいきません。深呼吸しながら全身の緊張を取り除き、落ち着いた意識で伸ばすようにします。
・30秒程度は伸ばす:短時間で筋肉は伸びません。30秒程度は同じ姿勢をキープしましょう。そのなかで息を吸うタイミングには伸ばし方をやや弱めにします。呼吸に合わせて伸ばす強さを加減すると効果的です。
⑦厚着をして足早に帰る(笑)
クールダウンの効果を長持ちさせるため、暖かくして体温を下げないように早足で帰りましょう
…以上ですが、さらに帰宅後もクールダウンの一部と考えることもできます。
⑧お風呂でゆっくり温まる
体のどこかに強い炎症や腫れなどがなければ、お風呂に入ってゆっくり温まるのはとてもおすすめです。血液循環をよい状態に保ってくれるうえ、精神的なリラックス効果からも筋肉の緊張を防いでくれます。
⑨ゆっくり寝る
毎日忙しいですか?あなたも寝るヒマもなく登っているかも知れません。ですが睡眠は本当に大事です。
成長期の子どもを除けば、成長ホルモンの多くは就寝中に分泌されます。30代以上の場合は特に顕著です。壊れた組織の回復や筋力アップに成長ホルモンは必須なので「寝ないと強くならない」とも言えます。
ある調査によれば、プロスポーツ選手はこんなに寝ています。例えば…、
・レブロン・ジェームズ(「NBA最強の男」バスケットボール)…平均12時間
・ロジャー・フェデラー(「史上最高のテニスプレーヤー」テニス)…平均12時間
・ウサイン・ボルト(「人類最速の男」陸上短距離)…平均10時間
・ヴィーナス・ウィリアムス(テニス)…平均10時間
・マリア・シャラポワ(テニス)…平均10時間
・スティーブ・ナッシュ(元NBA・バスケットボール)…平均10時間
一流のアスリートは一般的に睡眠時間が長いことが知られています。サッカー選手のメッシやロナウドには睡眠の専門家がアドバイスをしているそうです。できるだけ…よく寝ましょう!
アイシングはしなくていいの?
ここまでクールダウンについてお話しましたが、アイシングは?…という声が聞こえてきそうです。
結論から言うと、アイシングは「したほうが良いときもあれば、しないほうが良いときもある」、というのが私からのアドバイスです。
アイシングとは、冷水や氷水で数分~数十分患部を冷やすこと。クライマーの場合は指のアイシングをする方が多いと思います。肘から先を氷水に15分。…冷たくってしんどいのを我慢して我慢して…。感覚がなくなるまで冷えたら完了です。ジムによっては冷凍庫に氷が作ってあったり専用のバケツが用意してあったりします。
○アイシングの意味とは?
アイシングは、患部を冷やすことで血行をにぶらせて内出血を止めたり、炎症を抑えることで故障の進行をストップさせたりする効果があります。
ただ、血行が悪くなるので闇雲なアイシングは逆効果の場合もあるのです。内出血も強い炎症も起きていなければ、温めて血行を促進したほうが良い結果が出ます。アイシングで血行を悪化させると、せっかくのクールダウンが台無しになってしまうこともあるのです。
登ったあとで指先に”強いほてり・腫れ・脈打ち感”があるときはアイシングしましょう。反対にそのような兆候が見られないのであれば、家に帰ってゆっくりお風呂に入って温めるといいです。
今までアイシングしてきて故障が良くなっていない方は、一度試しにアイシングをやめてみるのをおすすめします。(アイシングでよくなっている方はやめなくていいですよ!)
○温冷浴もオススメ!
手間はかかりますが「温冷浴」もおすすめです。やや熱めのお湯(42~3℃程度)と氷水を用意し、冷やしたり温めたりを繰り返すのです。こうすることで炎症を助長せず血行を促進できます。
ただ、これは実際かなり面倒なので、「温かいお湯に浸かりながら時々患部をアイシングする」というのがいいかも知れません。お風呂に氷水の入ったバケツを持って入り、お湯で温まったら氷水で冷やすのを繰り返します。
銭湯などで水風呂があれば、水風呂と温かい湯船を交互に入るのもいいでしょう。
…以上、アイシングについてお話しましたが人の感覚や症状は様々です。必ず翌朝の身体の状態をチェックするようにしましょう。冷やした翌朝調子がよければそれでOKですし、温めた翌朝調子がよければそれもまたOKなのです。
どちらがいいかは結果で再確認します。そのデータを積み上げることで自分にあった正確な判断ができるようになっていくのです。
・・・
以上、正しくクールダウンをする意味とおすすめの方法をご紹介しました。
クールダウンを正しくやっている方は必ず上達します!全身の動きが良くなり故障予防も同時にできるからです。故障で休むことでレベルダウンしてしまうのが一番もったいないです。全部やっても10分~15分。ちょっとだけ時間を作ってぜひ試してみてください。仲間で登っている方はみんなで一緒に行うと楽しく続けられます!
山田 隆(やまだ たかし)
ボルダリングの整体院 院長 / ボルダリングストレッチクラブ・山田塾 代表
高校時代クライミングと登山に出会う。元国体神奈川県代表、北米最高峰デナリ登頂ほか。クライミングでは2段・5.13aと平凡ではあるものの、ボルダーからアルパインクライミング、トレイルランやバックカントリースキーまで幅広く続けている。
20代で脱サラ後、クライミングショップのカラファテに勤務ののちボルダージム立ち上げを経験。自らの故障改善のために身に付けた治療法をジム利用者に行なううち評判となり、クライマー専門整体院「ボルダリングの整体院」を開院。これまで数千名のクライマーに身体のケアや個別指導をおこなっている。
2016年から「正しい効果的なセルフケア」を広めるため、「ボルダリングストレッチクラブ」および「山田塾」を開始。SNSでの情報発信や全国各地でのワークショップをつうじて”Painless Climbing〜痛みのないクライミング”の輪を広げるために活動中。