2023ピオレドール授賞式速報

文=和田 薫(日本山岳会 国際委員会委員長)
写真=Piotr Drozdz

2023年11月14日から16日にかけて、フランスのブリアンソンでピオレドール授賞式が行われた。ブリアンソンは、フランスの南東部に位置し、クライミングやスキーが盛んなフランスでも有数の山岳都市として知られている。

今回受賞したのは、審査員の鳴海玄希氏が別途詳細を解説している通り、3つの登攀隊と、審査員特別賞の女性チーム、そしてジョージ・ロウに生涯功労賞がそれぞれ贈られた。

>> 2023ピオレドール受賞チームが決定

本稿では授賞式の様子を報告する。

まず、1つ目の受賞者はペルーのヒリシャンカ南南東稜(6,094m)を登ったカナダのアリク・バーグとクエンティン・ロバーツ。2人とも子どもの頃からクライミングを始め、特に南北アメリカ大陸でそれぞれに多くの新ルートを開拓してきた。会場では、キノコ雪だらけの南南東稜はアンデスの山特有のものだったと写真を交えて紹介した。


(左から)アリク・バーグとクエンティン・ロバーツ

次に、ネパールのジュガル・スパイヤー北壁(6,563m)を登った英国のポール・ラムゼンとティム・ミラー。ラムゼンは、今回で史上最多の5回目の受賞となったが、「2003年に初めてミック・ファウラーと受賞したときは、ミックが僕のメンターだった。今回は、「ティム(・ミラー)のメンターのような存在として一緒に登れてうれしい」と話した。30才近く歳の差があるラムゼンとミラーだが、長年お互いをよく知っており、今回の授賞式直前まで再び共にヒマラヤ遠征に出かけていた。「自身にとって最も美しいラインは北壁の、難易度の高い登攀」、と話すラムゼンが今度はどこを登ったのか。今後の報告が今から待ち遠しい。


(左から)ポール・ラムゼンとティム・ミラー

最後に、パキスタンの山域で残された課題の一つとも言われるプマリチッシュ・イースト(6,850m)を登ったフランス人トリオのクリストフ・オジエ、ビクター・ソセード、ジェローム・スリバン。スリバンは、「困難な登攀だった。なんなら、最初は登れるとも思っていなかったが、3人のチームワークがうまく効いた。毎日雪が降って厳しい状況が続いたが、一度も撤退を考えたことはなかった。」と語ってくれた。


仲のいいフランス人トリオ

審査員特別賞は、各国から集まった女性8人チームが受賞した。全長15メートルのヨットでフランスからグリーンランドまで航海し、グリーンランドのレンランドでクライミングをして帰ってくるというプロジェクトである。

授賞式には登攀チームのキャプシーン・コトー(フランス)、カロ・ノース(スイス)、ナディア・ロジョ(スペイン)が出席した。6週間かけてグリーンランドに上陸した後、レンランドのノーザン・サン・スパイヤー(1,527m)に新ラインを開拓し、「ヴィア・セドナ」と名付けた。帰路も4週間に及び、帰ってきたときは極限まで疲弊したという。クライミングの内容もさることながら、冒険性も高く(「一番の難所は初日の嵐の中の航海」だったそうで、グリーンランドでは熊に遭遇した際に備えて銃も携帯するほど)、女性だけで環境負荷を最低限に抑えた航海と登山は、多くの聴衆を魅了した。


(左から)カロ・ノース、ナディア・ロジョ、キャプシーン・コトー

メンバーのカロ・ノースは、「グリーンランドのクライミングは長年の夢だったので実現できた。今回の自分たちの受賞が女性のクライミング、環境保護の2つの面でいいインパクトを与えることができたら嬉しい」と笑顔で語った。

今年の授賞式では冒頭で女性クライマーの対談も行われた。女性クライマーの育成や活躍をサポートするための活動を行っている4人が登壇し、それぞれの想いや成果を発表した。なお、ピオレドールを主催するGHM会長のクリスチャン・トロムスドフは、「ピオレドールが(詳細は未定だが)今後何らかの形で女性のアルピニズムをプロモートすることを決定した」と発表した。

最後に生涯功労賞を受賞した米国人のジョージ・ロウについて。2017年に同賞を受賞したジェフ・ロウの従兄弟であり、1978年のラトック1峰の挑戦や、1983年のエベレストKangshung壁の初登攀他で知られる。物理学の博士号ももちシステムエンジニアとしても充実したキャリアを築いた。授賞式では、同席した家族への感謝を述べると感極まる場面もあった。著名なクライマーでありながら、他の受賞者や関係者にもとてもフランクに積極的に交流を楽しんでいたのが印象的だった。


受賞者たちと喜び合うジョージ・ロウ

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