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【ピオレドール詳報】フランス・ブリアンソンで山野井泰史がピオレドール生涯功労賞を受賞
映画館に設営された受賞式典会場で
大会主催者のクリスチャン・トゥルムドルフの質問に答える山野井泰史
写真と文=萩原浩司
(『ROCK&SNOW』元編集長)
11月27日、フランス南東部の山岳都市、ブリアンソンで2021年のピオレドール授賞式典が開催された。
今年のピオレドールは、西部カラコラム、バトゥーラ山群のサニ・パクシュ(6952m)南壁のルヴェール・ガニャン(2500m、M4+、WI4+、90度)を登ったピエリック・フィ―ヌとシモン・ウェルフランジェのフランスチームと、カナディアンロッキー最高峰ロブソン(3954m)のエンペラーフェイス(北西壁)にランニング・イン・ザ・シャドウズ(2300m、US Ⅳ、M6 AI5 A0)を拓いたイーサン・バーマン(アメリカ)とウィスディーン・ホーソン(イギリス)の2チームに贈られた。
フランス南東部に位置する山岳都市ブリアンソンが
ピオレドール2021記念式典の会場となった
ステージ上に集まった受賞者たち
(左からシモン・ウェルフランジェ、ピエリック・フィ―ヌ、イーサン・バーマン、ウィスディーン・ホーソン、山野井泰史、カトリーヌ・デスティベル、シルビア・
特別賞(SPECIAL MENTION)は、カラコラムのシプトン・スパイアーやインド、チリなどの辺境のビッグウォールを20年以上にわたって単独で登り続けてきたシルビア・ヴィダルの手に。そして第13回生涯功労賞に選ばれたのが山野井泰史である。
ピオレドール2021のトロフィー
左から3番目が山野井さんのもの
生涯功労賞(The Lifetime Achievement)とは、長年にわたりアルパインクライミング界で目覚ましい活躍を見せ、その業績が後世のアルピニストたちに多大な影響を与えた人に対して贈られる。ヴァルテル・ボナッティに始まり、ラインホルト・メスナーやダグ・スコットなど、いわば登攀界の「レジェンド」と呼ばれるに値する12人のクライマーに対してこれまで贈られてきた。
今回、13人目の栄誉を受けることになった山野井さんは、1988年のバフィン島トール西壁単独初登攀、1990年のフィッツ・ロイ南西稜冬期単独初登攀、1994年のチョ・オユー南西壁新ルート単独登攀といった輝かしい記録を残してきた。2002年のギャチュン・カン北壁登攀後に悪天候につかまり、一時的に視界を失い、雪崩に流されながらも生還。その結果、手足の指を10本、凍傷のために失うことになったが、その後も今日まで精力的に登り続けてきた。ヒマラヤやアンデスの高峰に、あるいはカナダや中国やイタリアの高難度ルートに挑み続ける姿が、これまで多くのクライマーたちに刺激を与え続けてきたことは間違いない。
授賞式の前にプレスミーティングが開催される
各国から集まったジャーナリストからの質問に答える受賞者たち
授賞式と、それに先立つ合同記者会見にはフランスの『MONTAGNES』、スペインの『Desnivel』、ポーランドの『GORY』、ロシアのウェブサイト「Mountain.RU」といった山岳専門メディアの編集者らが出席し、アジアで初の生涯功労賞の受賞者となった山野井さんに対して多くの質問が投げかけられた。過去のクライミングの詳細だけではなく、ライフスタイルやアルパインクライミングへの姿勢、危機管理についての考え方など、決められた時間のなかではとても答えきれない内容であったため、翌日は朝の10時から夕方まで、ホテルのロビーに各国のメディアを迎えて取材を受け入れることになる。
彼等は山野井さんが行ってきた数々の記録を高く評価するとともに、「完登できなくとも深い満足を得た記録が数多くあったこと」をきちんと理解し、すべての山に対して深い愛情をもって向き合ってきた山野井さんの姿に感銘を受けていた様子だった。今回の生涯功労賞の受賞インタビューを機に、彼の業績とその精神が今後、多くの国の人々に認知されていくことだろう。
特別賞を受賞したシルビア・ヴィダルとともに
辺境のビッグウォールにひとりで立ち向かってきた彼女の業績もまた、今回のピオレドールであらためて評価されることになった