DVD Review Vol.1

『THE ZANSKAR ODYSSEY』『northern beats』『THE SCENE』『Smitten』『A FINE LINE』『INSTANTE』 

構成・文=榎戸雄一(雪山大好きっ娘。) 

*この記事は『ROCK&SNOW No.54 2011年12月号』掲載記事をもとにしています。

 

『THE ZANSKAR ODYSSEY』 The Zanskar Odyssey

www.facebook.com/ZanskarOdyssey

最近は高所でのボルダリングに興味があるというアメリカのジェイソン・キールの最新作。ボルダラーであるジェイソン・キール、アルパインクライマーのピート・タケダ、フリークライマーのアビー・スミスという異色トリオによる、インド・カシミール地方のザンスカールへボルダリングトリップに出かけたときの映像。 困難なアプローチを経て到達した場所は、平坦な草原のなかに巨大なボルダーがゴロゴロしており、この世の楽園のような雰囲気。すばらしい景観の高峰に取り囲まれた辺境エリアの標高は、3000mを優に超えており、単純に登るだけでも大変そうだ。 ベースキャンプを作った彼らは、1カ月の間に周囲のボルダーを登りまくる。最後には各自が目標課題を決め、全霊をかけて猛アタックをかける。そして……。編集の随所にジェイソン・キールのセンスが遺憾なく発揮されており、見応え十分。

『northern beats』 Bernd Zangerl

www.berndzangerl.com/index.php?id=159

「北欧の作品にハズレなし」という期待を裏切らない、ノルウェーでのボルダリングを収録したすばらしい作品。ベルント・ツァンガールを中心に、オーストリア、北欧、イギリスのクライマー数人でのセッションは、和気あいあいとしており、本当に楽しそうだ。映像はダレることなく25分に凝縮されている。 宣伝文句では「ハードな課題はない」としているが、これでもかというくらいに、最初から最後まで、どっかぶりのルーフ、傾斜の強い課題の映像が続く。残念なのは課題に関する説明がないため、どこの岩場のなんという課題なのかまったく不明な点である。 クライマーを啓発して刺激を与えたいとのことだが、その点では成功しているだろう。最後の「GO OUT AND SEARCH YOUR BOULDER」というフレーズは、ジムクライマーが増えている現在に対する風刺にも見える。

『THE SCENE』 Chuck Fryberger Films

www.chuckfryberger.com/climb.php

高解像度の映像作品で有名なチャック・フライバーガーの『Pure』『Core』に続く最新作。クリス・シャーマをはじめ、ステフ・デイビス、デイブ・グラハム、ナーレ・フッカタイバル、キリアン・フィッシュフーバー、アンナ・シュテールなど、現在のクライミングシーンをにぎわせているメンバー総出演で、今年一番の期待作だ。 彼の作品に共通しているのは、高級感あふれる映像がぎっしり詰め込まれてはいるものの、クライミングシーンの編集に凝りすぎており、まったく伝わってこないものになってしまっている点。 反面、今作ではクライマーへのインタビューを通した描画が非常に掘り下げられており、外岩を重視するデイブとコンペ中心の生活を送るキリアンの対比などは、なかなかにおもしろい。そのため、字幕が重要な役割を負っているのだが、機械翻訳のせいか、日本語の字幕はひどい状態である。 アメリカからオーストリア、スペインと流れるような構成は見事だったりと、いい点も多いが、注目度が高い分、ついつい欠点が目立ってしまう。

『Smitten』 Pickled Productions

www.smittenthemovie.com.au/

オーストラリアのクライマーによるオーストラリアでのクライミングシーンを紹介した作品。闇雲に映像を詰め込んでおり、さらにクライミングとは関係ないBASEジャンプが3分の1を占めているため、やや冗長な感は否めないが、クライミングの映像はどれも熱い。特にルート。 冒頭の、世界初の5.14ルートとなったPunks in the Gymにトライする女性クライマー、ジャミラ・チリルから始まって、最後のGroove Train(5.14b)をトライするベ ン・コッシーまで、どの映像からもクライマーの情熱が伝わってくる。音楽の盛り上がりとともにクライマックスの核心に突っ込んでいく、ベンの映像はとりわけすごく、今年見た映像のなかでは群を抜いている。 出演クライマーは、小山田大さん初登のThe Wheel of Life(V16)を登ったオーストラリア人トリオ、クリス・ウェブ・パーソン、ジェームズ・カッシー、ベン・コッシーら。クリスによるThe Wheel of Lifeのクライミングシーンも収録されている。

『A FINE LINE』 Dead Point Media

www.hdclimbingvideos.com/products/fine-line

アメリカのボルダラー、ジェームズ・ウェブを中心に、彼を取り巻くアメリカのトップクライマー、デイブ・グラハム、ダニエル・ウッズらによるセッションをフィーチャーした作品。 既成の高難度課題のほとんどを登ってしまっている彼らにとって、日々のクライミングは開拓作業と同義。新たな課題を求めて、最近話題のコロラドの山岳エリアやアイダホ、アメリカ南部の未知のエリアを徘徊し、楽しそうにセッションを繰り広げて新たな課題を量産している。 ただ、登っている映像は熱いものの、全体的に音楽と構成がスローなため、カフェで流れている環境映像のようになってしまっているのがやや残念。だが、それはそれで、おしゃれに見せる最近の流れなのかもしれない。

『INSTANTE』 Knock Vision

www.knock.com.mx/

クライミングの作品というよりは、クライミング映像をベースとした前衛的な芸術作品に仕上がっており、従来のクライミング作品とは大きく一線を画している。 コンセプトは、物質主義にあふれかえる都会を離れた、自然のなかでの非日常体験らしいのだが……。本編の映像ではアンビエント系の音楽が鳴り続け、哲学的な問いかけが随所に入り、宗教的な要素も多分にあり、クライミングの動画を見ているのか、何かのイメージ映像を見ているのか、わからなくなる。 収録エリアはタイ、マレーシア、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、スペイン、アメリカ、メキシコ、ベネズエラと多彩ではある。