DVD Review Vol.2

『REEL ROCK Film TOUR 2011』『THE WIZARD’S APPRENTICE』『MOONFLOWER』『VERTICAL SAILING GREENLAND』『THE LONG HOPE』『HUECOS RANCHEROS』 

構成・文=榎戸雄一(雪山大好きっ娘。) 

*この記事は『ROCK&SNOW No.55 2012年3月号』掲載記事をもとにしています。

 

『REEL ROCK Film TOUR 2011』 BigUP Production Sender Films

http://reelrocktour.com/

オビ・キャリオン。ボルダリング映像の流れを一変させた作品『Rampage』の中で飛び跳ねていた色黒の少年は、あれから十数年を経た今、立場も体形も変わり、ジムのスタッフ兼コーチへと活動の場を移した。 彼がコーチにつくのはアシマ・シライシ。ニューヨーク在住の、9歳の日系の女の子。若手というより子供。次々世代くらいの未来を担うクライマーだが、ボルダーではV12を、ルートでは5.13dをすでに登っている実績は大人顔負けである。クライマーの低年齢化が進み、クライミングの危険性やケガから子供を守るためにも、コーチの重要性が叫ばれている昨今、コンペでも岩場でも、常に熱い声援や眼差しを送るオビの姿は、理想のコーチのお手本のようだ。 ほかにも、アイスの常識を覆したウィル・ガッドの「Spray On」、GII冬季初登を扱った「COLD」など歴史的な映像が盛りだくさん。

『THE WIZARD’S APPRENTICE』 BERNARTWOOD studio

www.adamondrafilm.com/en/

アダム・オンドラ。言わずと知れた、18歳にして世界ナンバーワンのフリークライマー。昨年、ルートでは5.14cのオンサイトを2週間で5本、5.15bのレッドポイントも5本、ボルダーではV16をふたつにV14のフラッシュと、その快進撃はとどまるところを知らない。 この作品はアダムに一年間密着して撮られた膨大な映像をまとめたもの。収録時間は120分と映画並みに長く、ひとつひとつの課題をじっくり扱う贅沢な作りになっている。アダムのクライミングはどのトライも真剣そのもの。若さゆえのあり余るエネルギーを課題に叩きつけるがごとく、よく吠えている。長すぎるほどの映像でもまったく中だるみを感じさせない。 ただし、収録されているのは2009年の姿であり、もはや過去のアダムである。たった2年ではあるが、今とはもはや別人。若者の成長は早い。

 

『MOONFLOWER』 Posing Productions

www.posingproductions.com/product.php?form_action=detail&product_id=248

マグズ・スタンプ。アラスカ周辺に数々の輝かしい開拓記録を残し、1992年にマッキンリーでガイド中にセラックの崩壊に巻き込まれて亡くなる。彼の功績をたたえ、毎年、すばらしい登攀をしたアメリカのクライマーには、彼の名を冠した賞が贈られている。 ハンターのムーンフラワーバットレスを彼が初登したのは81年。30年前だ。アラスカのノーズとも評されるこのライン、今となってはクラシックルートだが、人生の目標にしているアルパインクライマーも数多い。去年5月、イギリスのクライマーペアがムーンフラワーバットレスのわきに新ルートを開拓。このDVDは新ルートの開拓記録となっている。 カプセルスタイルによる開拓ではあるが、環境の厳しさが軽減されるわけではない。絶え間ないスノーシャワーのなかを、じりじりと高度を稼いでいくギリギリ感は、見ているほうにも緊張を強いる。この厳しい環境でよく撮影したと思わせるすばらしい映像には声も出ない。

『VERTICAL SAILING GREENLAND』 Action Directe

www.xpedition.be/?p=484

ニコラ・ファブレス。世界最難クラックの一本、コブラクラック(5.14b/c)の第2登で一躍有名になったベルギーのクライマー。トラッドルートだけでなく、スポートルートでは5.14dも登り、マルチピッチでもオルバジュ(13ピッチ 5.14b/c)を登っているオールラウンダーだ。また、弟のオリビエを含めたベルギー野郎たちでチームを組んで、毎年、辺地のビッグウォールへ遠征を行なっている。どんな場所でもバンジョーをかき鳴らして、歌うことを忘れない彼らのチームはいつも楽しそうだ。 今回の遠征はグリーンランド。イギリスからはるばる2週間をかけて、小さいボートでのアプローチ。手つかずの壁が多く残る数百メートルの断崖に、海抜ゼロメートルから残置なしのオールフリーで次々とラインを引いていくさまは爽快だ。この遠征で2011年のピオレドールを受賞している。フリークライミングの記録に贈られたのは初めて。 今回の遠征の影の立て役者である往年のクライマー、ボブ・シェプトン船長(75)もいい味を出している。

『THE LONG HOPE』 Hot Aches Productions

www.hotaches.com/downloads.html

デイブ・マクリード。足をケガするほどの度重なるロングフォールの末、2006年に初登した世界最難のトラッドルートであるラプソディ(E11/7a)完登までの軌跡を収めた『E11』は衝撃だった。その後も、Eグレードが付く高難度のトラッドルートの初登・再登数を増やし、イギリス国内ではジェームズ・ピアソンと実力を二分している。そして今回は、これまでの実績の集大成となるような世界最難となるトラッドのマルチピッチルートを新たに開拓した。 場所はスコットランド北部の湾岸にある岩塔。ルート名はThe Long Hope(9ピッチ E11/8b)。イギリスのシークリフらしく、下部はボロボロのもろい壁で、カモメの糞と草付に悩まされるも、核心はすっきりした顕著なクラックが走っている反面、プアプロを強いられる。 岩塔の歴史がクライマーの証言とともに織り込まれた映像は、構成もしっかりしており、英語力は必要になるが、見ごたえ十分。

『HUECOS RANCHEROS』 An Owen Bissell Production

www.iclimb.com/products/Huecos-Rancheros-Download.html

フエコ・タンクス。テキサスにあるボルダーエリア。カリフォルニアのビショップと並ぶ、アメリカの二大ボルダーエリアのひとつ。「フエコ」とはスペイン語で「くぼみ」のこと。名前のとおり、スプーンでえぐったような「くぼみ」が特徴の砂岩ボルダーが無数に点在している。歴史的にも貴重な史跡が数多くあるため、残念ながら現在は入場制限があり、中に入るにはいろいろと手続きが必要だが、ボルダーのおもしろさは折り紙付き。フレッド・ニコルのエスペランザをはじめとして、これまでにも数々の名課題が誕生してきた。 この作品には、30分と短いなかにもV6~V12の課題が詰め込まれている。独特の形状から生み出されるムーブは、グレードにかかわらず登りごたえがあり、誰もが楽しそうだ。