アダム・オンドラ、Lexicon(E11 7a)フラッシュ

Xa White, ukclimbing.com
訳=羽鎌田学

2025年5月16日、アダム・オンドラが、英国カンブリア州レイク・ディストリクト地方のほぼ中央に位置するペイヴィー・アークの岩場でニール・グレシャム初登のLexicon(E11 7a)のフラッシュに成功した。このLexicon第6登は、史上最難のトラッド・フラッシュであり、またそれは事前にホールドを実際に確かめることなく達成された。

E11とされるLexiconは世界最難トラッドルートのうちの一本で、2021年9月4日にニール・グレシャムによって初登された。そのほぼ2週間後、やはり英国を代表するベテランクライマーのひとり、スティーブ・マックルーアが第2登に成功したが、スティーブがその直前のトライで最後から2番目のムーブで失敗し、20m以上の派手なフォールを喫したルートで知られている。

翌2022年3月下旬には、ニールやスティーブと同様にベテランのデイブ・マクラウドが第3登を、2ヵ月後の5月中旬には、今度は英国の若手クライマーのうちのひとりであるマシュー・ライトが第4登を達成。そして6月には、あのジェームス・ピアソンが、先ずは大胆なフラッシュに挑戦。しかし、動画でスティーブが落ちたところより少し下でフォールし、フラッシュ失敗。ジェームスは、その後のトライで第5登に成功している。

ただジェームズは、アダムと異なり、最初のフラッシュ・トライの前にルート上を懸垂下降し、ホールドを掃除しながら触って確認し、またどんなギアが使えるかもチェックし、体の置き方の目途を立て、かつティックマークをつけた。この入念な準備について、ジェームズは当時次のように語っている。

「正直言って、私は自分の『フラッシュ』の定義さえも押し広げようとしているのかも知れません。私にとって、フラッシュとは、オンサイトではないということです。ムーブを事前に練習することなくルートを登りきったこと、しかしながら他の情報はすべて得たうえで登った時のことです。ですから、私の定義が必ずしも他の人の定義と一致するとは限りませんし、もし最終的に他の人がそれを『フラッシュ』と呼びたくないとしても、それは私には関係のないことです。自分を追い込むような、そしてそれに対して完全に正直なやり方で、こうしたことに挑戦するのはただ楽しいのです」

また当時、ジェームズは次のようにも語っていた。

「本当に強いクライマーなら、事前の下見のようなこともせずに、Lexiconをフラッシュできると思います。全く可能です。フラッシュレベルが9aで、8b+のフラッシュにトライする場合、ホールドを間違えてしまったとしても、余裕はたっぷりあるでしょう」

この記事を書いた日の午前中、私たちは初登者のニール・グレシャムとコンタクトを取り。アダムのLexiconフラッシュの模様について話を聞いた。ニールは次のように語った。

「アダムは、Lexiconを正真正銘のフラッシュで登ったのです。懸垂下降によるルートの下見や実際にホールドを触るようなことは一切ありませんでした。(私が懸垂でぶら下がりながらLexiconのホールドの掃除をして、ギアのセットの仕方とかムーブとかを説明している時に)確かに彼はAstra(E2 5c)からルートのほうを見ましたが、Astraはルート3本分、右に8mほど外れたところにあるルートです」

「アダムのフラッシュが、私が40年以上にわたるクライミング人生の中で見てきたものの中で、最も印象的だったのは言うまでもありません。そして、私がこれまでにしたビレイの中でも、最も責任の大きいものでした。今でも今回の出来事をうまく受け止めきれていません。それだけ衝撃的だったのです」

アダム自身は、今回のクライミングについて次のように語っている。

「初登者であるニール・グレシャムの傍らで、イギリスで経験した本当に特別な一日、特別な瞬間でした。ニールは、ビレイというとても重要な勤めを果たしてくれました。もちろん怖くなって、心臓がバクバクしていましたが、必死になって、あの派手な墜落を体験することなく、最後のレッジまで登りきることができました。YouTubeチャンネルへの動画のアップを含め、詳細は後日公開予定です」

「今ここでは、私がどのようなスタイルを採用したか、具体的に説明しておきます。インターネットで公開されている動画はすべて見ました。そのなかでも特に注目したのは、ニール・グレシャムが登る動画です。そのニールが、最初にルートを上部のレッジから懸垂下降しながら、ホールドを掃除して、チョークをつけてくれたのです」

「その後、私はLexiconから右へ8mほど行ったところにあるAstraの終了点から懸垂下降し、ニールが最後のプロテクションとなる水平クラックへのギアのセット方法とLexicon上部のヘッドウォールでのムーブを説明してくれるのを見ました。そして終了点のレッジまで登り返し、フィンガーボードを使ってウォーミングアップをしました。次に、レイクのローカルクライマー、クレイグ・マセソンのビレイで、Sixpence(E6 6b)の核心まで降りましたが、その間絶えずLexiconを背にして、そのホールドが目に入らないように右方向を見ていました」

「続いて、Lexiconの最終ギアをセットする水平クラックのすぐ上からスタートし、Sixpenceの3mほどの核心を登り、Lexiconの最後のスロットホールドに触れたり、それを覗き込んだりできるところの手前でストップ。そこからは右方向にスイングし、Magical Thinking(E10 7a)の最後の数ムーブをこなして、ウォーミングアップとしました。これをアップで2回繰り返しました。その後、レッジ上でギアを準備してから、Lexicon沿いに、でもホールドを一切見ないように湖側を向いたまま、素早く懸垂下降しました。そして、集中するために少し間を置き、登り始めたのです」

今回アダムがLexiconを登ったのは、フランスのアノにあるジェームス・ピアソン初登のトラッドルート、Bon Voyage(E12)を第2登してから僅か1年余り後のことだ。Bon Voyageは、アダムによると、ボルトが打たれていれば紛れもない9aルートとなるようだが、世界最難のトラッドルートである。

また最近、アダムはボルダリングにも以前より力を入れ、今年になって、既に8Bを1本、8B+を3本フラッシュしている他、2月上旬にはフォンテーヌブローでSoudain Seul(9A)をセッション5日目の3回目のトライで第4登。9Aボルダー課題を初めてゲットしている。

※Soudain Seulは8C+/V16とされることもある

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