ウィリアム・モス(18歳)、ガンクスで5.14d Rのトラッドルートを初登。A4ルーフを大胆なV11+でフリー化

ANTHONY WALSH
climbing.com
訳=羽鎌田学

この3月中旬、ウィリアム・モス(18歳)が、米国ニューヨーク州ガンクスのトワイライト・ゾーン・バットレスでBest Things in Life Are Free(BT)のフリー初登に成功。そして、この長さ30mのピッチを5.14d Rとグレーディングし、世界最難トラッドルートの一本とした。

 
 
 
 
 
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BTは、実質、既存のBro-Zone(5.14a/b)から、1984年に初登されたBest Things in Life Aren’t FreeというA4ルーフに繋げたルートである。グランド・トラバース・レッジ、通称GTレッジからスタートし、5.11+Rのフィジカルなパートを通過して、次にV7の2本指クリンプを使ったボルダーをこなした後、すぐに5.13相当のパートを登ってコウモリレストにたどり着き、わずかにレスト。そのレストポイントを出た後は、パワフルなV10のボルダーをこなし、V11+とされるルーフ(小さなナットとフィンガーサイズのカムはすでに6m下)を越える。最後には、French Connectionの5.12dルーフを乗り越え、終了点へ。ウィリアムは、このルートはRカテゴリーに属すると考えて、激しいフォールの危険性から身を守るためにヘルメットを着用した。

BTのグレードは5.14dで、世界で最もハードなトラッドルートの一本であり、そのように明確にグレーディングされた史上2本目のルートでもある(1本目はカリフォルニア州タホにあるEmpath。コーナー・ハーソンがオールナチュプロで登り、5.14dとした)。BTのライン上には3本のボルトがあり、すべて既存のミックスライン(ナチュプロ+ボルト)上のものだが、注意すべきは、ウィリアムがクリップしたのは、Bro-Zoneの下部のV7ボルダーパートとOzone(5.14a R)上の5.13パートにある2本だけである。BT上のV10とV11+の各ボルダーパートは、共にナチュプロ使用。

ウィリアムは、トラッドクライミングは3年前に始めたばかりで、クライミング自体を始めてからは、大半の時間をインドアでの競技クライミングに費やし、2017年の全米ユース大会ではユースCのリードで6位という成績を残している。かつては、あまり高グレードではないが、外岩ではV10を登り、5.13bをレッドポイントしたこともあったが、彼曰く「近くにスポートクライミングのエリアがなかった」ためで、その後はV13と5.14cを登っている。ウィリアムはClimbing誌の取材に対し、スポートクライミングの中でもより冒険的なスタイルに常に興味があったが、トラッドクライミングはお金がかかると考えていた、と語った。2020年、マンハッタンのセントラル・パークにある片岩の岩、ラット・ロックでボルダリングをしていた時、友人のカーター・レイが、初期投資なしでトラッドクライミングを教えてくれるというので、ウィリアムはその申し出をありがたく受けた。

2人はニューヨークの北にあるガンクスに向かい、3日目にはウィリアムは5.12aに取り付く。確かに、このグレードは彼の最高グレードの遥か下のものだったが、先ずは自分でセットしたギアで落ちる練習をするようにというカーターの勧めに従った。「私はもともと持久的なスポートクライミングが好きだったのですが、ニューヨーク近郊にはボルトが打たれたスポートルートはあまりないのです」と、ウィリアムは説明する。「ガンクスでは、スポートクライマーとしての才能をトラッドルートで発揮できること、そして、ナチュプロを使ったルートで落ちても危険ではないことに気づいたのです。トラッドでは落ちられない、と考えていたのですが、まったく事実ではありませんでした。それで目が覚めたのです」。

2020年11月には、ウィリアムは3回目のトライでOzone(5.13d)を、そのすぐ後にBro-Zone(5.14a/b)を登った。そして2021年9月にはFriend Zone(5.14c)をフリーで初登し、クライミング史上でも名高いガンクスの岩場に新しいレベルのトラッドクライミングをもたらす先駆けとなった。さらに2022年秋にはアメリカ西部へのクライミングツアー前に、ワシントン州にあるインデックスの岩場での初5.14ルート、En Passant(5.14a R)をオールナチュプロで初登した。ウィリアムは、トラッドクライミングにおいて着実な成長を遂げていったのである。

ウィリアムはFriend Zoneをフリー初登した後、具体的にBTを登ろうと考え始めるまで、その傾斜の強さと既存のボルトやセットできるギアの少なさから、1シーズン躊躇した。上からロープにぶら下がって様子を探るにしても、ましてや下から登り出すにしても、BTのように強傾斜のラインに手を出すのは、かなりハードルが高かった。その難しさと危険度から、本格的なレッドポイント・トライを始める前に、全てを完璧にしたかったという。「どんな感じか確かめるために、わざと落ちたりもしました。でも、逆さまになる核心では絶対に落ちたくありませんでした」と、彼は説明する。ウィリアムは、中盤の核心にある力が要るアンダークリング・マッチのために上腕二頭筋を鍛えたり、Friend Zoneの核心に入る前の束の間のコウモリレストの体勢を保つため前脛骨筋(すね筋)を強化したりして、BTを登るための準備をした。そのコウモリレスト・ポイントでは、当初わずか8秒でフォールしてしまっていたが、クライミングジムで大きなエッジに足を引っ掛けて頭を下にしてレストするトレーニングを始めてからは、すぐに20秒近くその体勢を維持できるようになった。そして程なく、Best Things in Life Are Freeは、ウィリアムの手に落ちたのだった。

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