ピオレドールを4回受賞したスーパークライマー『マルコ・プレゼリ』インタビュー

聞き手=和田 薫
写真提供=マルコ・プレゼリ

スロベニアのスーパークライマーであるマルコ・プレゼリ。

50代後半の今でも山岳ガイドを続け、毎年のように遠征に出かけ、未踏のラインに挑んでいる。卓越したクライミング技術や体力、登山のセンスなどに憧れ、「尊敬する登山家」として彼の名前を一番に挙げるクライマーは国内外を問わず多い。

さらに、ピオレドールを4回受賞しているが(1回目は同賞創設時の1992年)、2007年には受賞を辞退し、登山に優劣をつけて表彰することの意義を問うスピーチをして話題となった。

そんなマルコに、インタビューする機会を得た。

登山に関して大切だと思っていることは何ですか?

スタイルこそが、私が最初に気にかけることです。スタイルが遠征から得られる全ての経験を作ると思っています。僕にとっては登頂したか否かはそれほど重要じゃないんですよ。

そうなんですか? そういえば以前、日本にいらした際(注:2006年)「登山の記録なんて、火が燃えた後の灰のようなもの」とおっしゃっていました。その真意を改めて教えてください。

今でもそう思っています。登攀中は、燃え上がる火のような感情に溢れることもあるけれど、戻ってきてからは感情も消え、火も消えた後の燃え殻みたいなものです。僕にとってはね。

それに関連して言えば、ご自身の「ベストクライミングを挙げることはできない」、ともおっしゃっていますね。

はい、選ぶことはできませんね。以前同じことを聞かれたときは、「自分の子どもが3人いて、どの子が一番お気に入りかなんて選べないでしょう? それと同じです」、と答えました。

2007年にピオレドールを受賞した際は、その前年の「チョモラーリ(7326m、ブータン)北西ピラー」で選ばれたんですが、その年に私はアラスカとセロ・トーレと、3つ登っているんですよ。他の2つがチョモラーリに劣っているとは思いません。 


2016年にヴォイテク・クルティカがピオレドール生涯功労賞を受賞した際に。
マルコ・プレゼリ(左)、セロ・キシュトワールを登った仲間たちと。

他のクライマーから刺激や影響を受けることはありますか?

クライミングそのものというよりも、その人のパッション(情熱)に刺激を受けます。たとえば日本の坂下直枝さんやアメリカのジョージ・ロウを尊敬しています。

クライマーとしてのご自身の強みと弱みを挙げるとすると?

うーん、自分のことをあまり考えたことがないし苦手ですね。強みは、ないです。
弱みは、まず、忍耐強さがないこと。それから、情熱がありすぎることかな?あとは、直接ものを言いすぎるところも。

毎年海外遠征に出かけていらっしゃいますが、家族との時間はどうやってつくっているのでしょう?

家族との時間は多くはないけれど、その分、家にいる間は充実した時間を過ごしているつもりです。妻と出会ったとき (1994年に結婚) には、すでに私はクライマーとして確立されていたので、毎年遠征に行くのはわかってくれていました。

クライマー、山岳ガイド以外に、写真家としても活動されていますね。いい写真を撮るために必要なことは?

その瞬間を感じることですね。

高性能のカメラなど、道具は関係ない?

美味しい料理を出すレストランに行って、オーブンの性能がどうかなんて気にしないでしょう?それと同じことです。


マルコ・プレゼリは写真家としても高い評価を得ている

ピオレドールを2007年に受賞を辞退して話題になりました。この話はもううんざりかもしれませんが、今でも考えに変わりはありませんか?

考え方は変わりましたよ。昔の考え方に固執していては成長できませんからね。ピオレドール自体も選考方法を変えて昔よりマシになったのでは。

(注:2007年の授賞式でマルコが受賞を辞退した後、2012年以降、ピオレドールは選考方法を変えた。それまではノミネートされた隊が会場に集まり、審査員にプレゼンをしたのちに選考されていたが、2012年以降は授賞式前に受賞者を決めて発表するようになった。)

最後に、答えはなんとなく想像がつきますが、うかがいます。次の登山の予定は?

この質問は、今まで何千回と聞かれてきたけど、本当に嫌いな質問だね。スポンサー向けに答えるようなものでしょ!

ですね(笑)。 今日はありがとうございました。

インタビューを読んでいただくとわかるように、何を聞いてもシンプルで明快に答えてくれた。パッションや、エナジーという言葉を何度か使っていたのが印象的だった。まさに本人がパッションやエネルギーの塊のような人だからだ。
一方で、インタビュー当日、マルコは約束の時間少し前に「友達と話し込んでしまって少し遅れます」と律儀に連絡をくれたが、その10分後に現れ、その律儀さには驚いた。伝説のカリスマ・クライマーは、気さくでとても紳士的なユーモア満載の人だった。

(インタビューはフランスのシャモニにて2024年2月3日に行った)

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