ヘルムケン滝 Bombs Away WI10完登

文=門田ギハード 写真=石川貴大

2023年2月10日、カナダ ヘルムケン滝(Helmcken Falls)Bombs Away WI10を門田ギハードが完登しました。ヘルムケン滝は2011年、カナダ人アイスクライマーWill Gadd氏らによって開拓された世界最難のアイスクライミングエリアとされている場所です。

アイアスクライミングのグレーディングはWI(ウォーターアイス)で表記され、一般的なアイスクライミングルートはWI3~6+とされるルートがほとんど。結氷状態やプロテクションの確保の難易度による違いはあるものの多くのアイスルートは、滝が凍ったり、染み出しが凍ったものを登るため垂直から薄かぶりまでにしか成長しません。しかし、ヘルムケン滝は、落差141mで滝そのものは水量が多く結氷することがなく、その飛沫が滝の裏側の浸食された洞窟に吹き付けられ凍り付き、オーバーハング状のアイスルートができます。そのため、ヘルムケン滝のアイスルートのほとんどがWI10以上の超高難度ルートばかりです。それが世界最難といわれる所以です。

今季のカナダは10年に1度と言われる大暖冬となり、ヘルムケン滝の既存のアイスルートのほとんどが消失していました。その中でも3本の新ルートが開拓され、そのうちの1本であるBombs Away (WI10)を門田が第二登しました。日本人として初めて、そしてアジア人としてもヘルムケン滝のルートを完登した最初のクライマーになります。

「ヘルムケン滝の挑戦はずっと憧れていました。アイスクライミングのコンペティターとしては自然のアイスルートで終始オーバーハングしたロングルートを登れるなんて夢のような場所だと思っていました。こんな場所、世界中探してもここしかないかもしれません。今回登ったルートはハングしたドーム状の岩に張り付いたわずかな氷をたどるシングルピッチのルート。プロテクションを氷から取れないためボルトが打たれています。アイスクライミングとフリークライミングが融合したようなクライミングで、新鮮な感覚でトライできました。暖冬の影響で氷がやせ細り、もろくなり、登っている最中に崩壊しフォールもしました。豪快なクライミングと繊細なフッキングが要求されるルートでしたが、普段からワールドカップに向けたトレーニングをしていたおかげでしっかりと集中し、恐怖心をコントロールできたと思います。

この挑戦は多くのクライマー仲間の応援で達成することができました。とくにパートナーとして同行してくれた石川貴大さんは、登攀のサポートだけでなく、映像の記録も残してくれています。彼なしでは実現できませんでした。本当に感謝しています。ただ、今回はシングルピッチのルートだったので次回来るときはヘルムケン滝をトップアウトする高難度マルチピッチに挑戦したいと思います」(門田)

「ギハードさんに初めて出会ったのは二年前のハンノキ滝冬季単独登攀の時です。私は、撮影隊の歩荷でした。ハンノキ滝を登るという目標に真っ直ぐに向き合う姿勢を見て軸のはっきりした人だと感じました。撮影の後しばらくしてヘルムケン滝に一緒に登らないかと誘いを受けました。正直登れる気はしなかったのですが、私も何かに挑戦したいと思い誘いを受けました。

それからはワールドカップを控えたギハードさんのトレーニングに混ざりアックスの登攀を学びました。トレーニングは私が思っている以上に過酷で地道なものでした。今回の完登がその努力の成果であることは間違いありません。カナダ遠征はコロナ禍で一年延期となっていたのですが、私はその間に環境に大きな変化があり、クライマーとしてではなくカメラマンとして行くことを決めました。

一緒に登るという約束は果たせなかったのですが、今回、別の形でギハードさんの目標達成に立ち会いそれを記録できたことを本当に嬉しく思います。まだまだ先を感じさせる登攀でしたので今後の活躍にも期待したいです」(石川)

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