セブ・ブワン、世界初の5.15c、Changeの第3登達成

@johnthornton_photography

Steven Potter  climbing.com
訳=羽鎌田学

8月5日、セブ・ブワンはノルウェーのフラタンゲルにあるハンスへレレン・ケイブで長さ55mのChange(5.15c)を第3登し、充実したクライミングツアーを締めくくった。先月には、アダム・オンドラ初登のIron Curtain(5.15b)を第2登(ニーバーが見つかり、5.15aにダウングレード)し、次に130m長のNordic Marathon(5.15b/c)を初登した。そして今回、やはりアダム・オンドラ作のChangeを再登し、夏の壮大なティックリストに5.15cを追加した。

世界初の5.15cとされるChangeは、2012年にアダム・オンドラが初登し、2020年にステファノ・ギゾルフィが第2登したルートだ。セブは、アダムは使わなかったニーパッドをステファノと同様に使ってこのルートを登り、有名な要ロングリーチのアイアンクロス・ムーブの核心を簡単にした。

Changeは、今回のクライミングツアーを準備する段階では、セブの眼中にはなかった。このルートは、途中のアンカーとレストで区切られた上下2つの異なるパートからなり、最初のパートには前述のロングリーチが必要なボルダームーブがある。Nordic Marathon(5.15b/c)初登数日後のWhatsappでのやり取りでの中で、このエンデュランスのスペシャリストは次のように語った。

「最初のパートは自分向きではないと、いつも思っていました。あまりにもボルダーチック、かつ奇妙なムーブで、肩にひどく悪いと考えていたのです」。

しかし、スイスのアレックス・ロアが5.15aとされる最初のパートをマイプロジェクトとしてトライする姿を見て、ある日セブも一度手をつけてみた。すると、アレックスから得た情報で身を固めた彼は、最初のパートにある3ヵ所の核心を、テンションを掛けながらではあるが、それぞれ一撃で解決してしまった。

7月21日にNordic MarathonをRPした時点で、クライミングツアーは残り2週間。Changeの上下のパートを繋いで登るのに充分な時間があるかどうか疑わしかった。

「ケイブでさんざん登っていて、そろそろ体が悲鳴をあげ始めていたのです」と、彼はプレスリリースで述べている。「しかし、最後の最後まで目一杯登りたかったのです」。 そこで彼は、Changeの上のパートに目を向けた。下のパートより簡単ではあるが、かなり難しいことに変わりはない。グレードは5.14d、と彼は言う。

セブは、核心が3ヵ所あるレジスタンス系の上のパートを5日間かけてRP。しかし、「上のパートを完全にマスターしていたとは、まだまだ言えませんでした」と、彼は私とのやり取りの中で述べた。

「取付きから繋げていった場合、何ヵ所かあるハードなセクションをそれぞれ楽にこなして行かないと、きっとどこかでつまずいてしまうと考えていました」。ツアー終了まであと数日、彼はウォームアップで上のパートのムーブをリハーサルし、その後、取付きからこのルート全体をトライするという作戦を立てた。

「いい方法だとは思いました。しかし、実際にはその時点で出発まで4日しかありませんでした。かなり短い日数だったので、頭の中では、できるかどうかわからないけど、まあ、やってみるかという感じでした。プレッシャーはあまりありませんでした。すでに、満足できるクライミングツアーになっていましたから。ですから、とにかくやってみて、できるかどうか確かめてみようと考えたのです」

「残り4日のうち、最初の日はすごく暖かく、湿度が高く岩も濡れていたので登りませんでした。2日目も湿度が高くて、キーとなるホールドもまだまだ濡れていて、あまり良いコンディションではありませんでした。でも、もう残りの日数も少ないのだから、トライしなければ、という感じで取り付いたのです。結果は、下のパートは登れましたが、上のパートで落ちてしまいました」

一度のトライでかなり体力を消耗するので、翌日はレストして最終日に万全の状態でトライできるようにするつもりだった。しかし、翌日3日目にパートナーのビレイをするために岩場に行った時、彼は難しい選択に直面した。今この時の素晴らしいコンディションを生かすべきか、それとも自身がしっかり回復する明日まで待つべきか。結局、彼は上のパートでウォームアップし、感触を確かめることにした。そしてその過程で、その日の天気がもたらすチャンスを逃すわけにはいかないと悟ったのだ。

「最終的にはすべてがうまくいきました」と、彼は述べた。ひとつもミスをおかすことなく、幸いにも「あまりプレッシャーを感じることもなく」、その日彼はChangeを見事に登り切った。「プレッシャーからくるストレスや肉体的な疲れがあると、最後であっさりとフォールしてしまうのです」

今回のクライミングツアーが成功した理由を尋ねると、「いい流れに乗れたおかげだと思います。そして、その流れの中では、どういうわけか、ミスを犯すことなく、目的を達成できてしまうのです」と、彼は答えた。「たとえば、Nordic Marathonは、あと数週間かかってもおかしくない悪いサイクルに一時陥りかけていたのですが、こちら側の準備と外的なコンディションが足並みを揃えた時に、たちまちルートを登り切ることができたのです。こんなことは滅多にありません。成功ばかりのクライミングツアーなんて、まずありませんよ。狙ったものを確実にゲットできるって、最高にクールでした」

 

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