セブ・ブワン、世界で2本目の9c(5.15d)と目されるDNA初登

climbing.com    訳=羽鎌田学 写真= Lena Drapella

それは、セブにとって最も長期にわたるプロジェクトであった。彼曰く、「150日以上に渡る努力」。それが今実を結んだのだ。彼自身が登った最難ルートとして。

セブは、フランス、ヴェルドン渓谷にあったプロジェクト、DNAの初登に成功し、9c(5.15d)とグレーディングした。深く刻まれたヴェルドン渓谷。その側壁の一部、谷筋をはるか下に臨む高みに位置するセクター、ラ・ラミロール。その圧倒的な前傾壁に引かれたライン、DNAは、ポケット、ピンチ、コルネと多彩なホールドを繋いで登っていく。最初のパートは、8c(5.14b)。続いて2ヵ所の核心。最初は8A(V11)、2番目は8A+(V12)相当のボルダームーブ。そして最後のパートは、8c+(5.14c)。片時も気を緩めることができない、容赦のない強傾斜の壁が終了点まで続くルートだ。

セブが、DNAのラインにボルトを打ったのは2019年夏。同じセクターでLa Rage d’Adam(9b/+、5.15 b/c)を初登した直後のことだ。「新たなチャレンジ課題が欲しかったのです」と彼は言う。「刺激的な場所にある見事で素晴らしいライン、何度も何度もトライしに戻ってきたくなるようなプロジェクトが必要だったのです」。DNAは、間違いなく、彼が望むような素晴らしいラインであった。それに加えて、家から近いということも別の魅力であった。

セブ・ブワンはこの10年間、ラ・ラミロールで旺盛に登ってきた。洞窟と見まごうばかりの覆いかぶさるような強い傾斜の石灰岩壁でのクライミングは、セブが好むスタイルのもので、また新たなレベルに到達することを夢見る彼にとって必要な環境を提供してくれる場であった。

「端から端まで知り尽くしている岩場で、プロジェクトを設定するのならここしかないという、願ってもないところでした」と、セブは言い、次のようにルートについて説明する。「DNAの出だしは5本目のボルトまで8c(5.14b)ほどのパートを登り、レストポイントへ入ります。レスト後、それほどハードではないムーブを幾つかこなすと、最初の難易度の高いボルダームーブがある核心が出てきます。8A(V11)相当の難しさです。最近のボルダリングコンペでも見かけますが、右足をダイナミックに投げ出すようにして次のフットホールドを捉えにいかなくてはなりません。そして次に、思いっきり遠いところにあるコルネを全身の勢いで取りにいくのです。ムーブの特性からみて、このパートを無事通過できる確率はかなり低くて、偶然に左右される面が大きいのです」

「その最初の核心をこなすと、続いて第2の核心、今度は8A+(V12)相当のボルダー課題の登場です。この核心は、非常にフィジカルで、左手でピンチを摘み、右手で滑りやすいアンダーを捉えなくてはなりません。このムーブの成否は、岩のフリクション次第で、気象条件がかなり影響します。この第2の核心をこなしたら、ちょっとしたレストポイントがあって一息入れることができますが、その後は8c+(5.14c)の最後の熱い戦いが待ち構えているのです」

セブ・ブワンが、この春の爽やかな天気に恵まれた一日、遂にDNA初登を達成するまでに費やした日数は、150日以上。トライ回数にして250回以上。それは3年という長い道のりであった。念願の目標達成後の高揚感に浸るひと時、フッと一つの問いが心に湧き上がる。今までで最も困難で、また完登までにかつてなかったほど多くの時間を費やしたルートに、いったいどんなグレードをつけるべきか?

セブは、先ず150日以上というトライ日数を、以前のプロジェクトとのそれと比べてみた。9b/+(5.15b/c)であったMove(ノルウェー、フラタンゲル)には40日。9b(5.15b)のMamichula(スペイン、オリアナ)には25日。9b/+(5.15b/c)のBeyond Intégral(フランス、ピック・サン・ルー)には50日を掛けた。9b+(5.15c)のBibliographie(フランス、セユーズ)は、まだ再登に成功していないが、トライ時の印象からしたら、DNAのほうがはるかにハードに感じている。

同時に、ラ・ラミロールのような傾斜の強い壁でのフィジカルなクライミングがとても気に入っていることを意識せずにはいられなかった。「ラ・ラミロールでのクライミングが自分に最高に合っていて、また特にDNAが100%自分のクライミングスタイルに合致するルートである点をグレーディングの際に考慮すべきだと考えました」と言う。例えばスラブに通じないクライマーは、一歩上のレベルの難しさになると考えられるようなスラブルートをグレーディングすることはできないだろうし、またすべきでもないだろう。その分野でのエキスパートのみが、グレーディングできるということだ。セブはDNAのグレーディングに関し、いっそうの責任を感じることになった。

「例えば、セユーズにあるルートは、Bibliographieもそのうちの一本ですが、私のクライミングスタイルに似つかわしいものではありません。それほど傾斜もない壁を小さなポケットホールドを繋げて登るようなルートは苦手なのです。ですから、DNAがまったく自分のクライミングスタイルに合ったルートであるにもかかわらず、今までにないほどの時間を必要として、かつ今までに登ったいかなるルートよりも難しく感じた以上、9cが相応しいのでは、と考えたのです」と、彼は説明を続けた。

しかしながら、セブは9c(5.15d)というグレーディングに依然ためらいを感じている。初登は第2登よりも、多大な努力を要するのである。例えば、Bibliographieを初登し、当初9c(5.15d)としたアレックス・メゴスに尋ねてみれば、彼も同じようなことを言うだろう。そんな彼のBibliographieは昨年の夏、9b+(5.15c)にグレードダウンされている。

岩にラインを見いだし、掃除してボルトを打ち、ボルダー課題のまとめサイトbetacache.comのようなものに頼ることもなく自分自身で可能なムーブを探ることは、既成のルートを登ることとは、まったく異なる行為なのだ。初登は本来的により困難さを感じさせられるものであるのだ。ただセブは、「ラ・ラミロールでの経験は、明らかに9b+(5.15c)というグレード以上の価値のあるものでした」と言う。

「私たちのスポーツ、クライミングでは、審判という立場の第三者を必要とはしていません。ただプレーヤーたる私たち自身が審判なのです」と彼は言い、続けた。「それはそれでいいのですが、同時に、場合によっては、重荷になるのです。特に今までになかったグレードをつけなくてはならないような時には。そこで、そんな私の負担を軽くするためにも、世界のトップクライマーたちがラ・ラミロールを訪れ、DNAにトライしてくれることを大いに望んでいます」

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