ジェームス・ピアソン、Echo Wall第2登

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訳=羽鎌田学

2024年8月1日、2008年に初登されて以来、ほぼ16年間、グレーディングもされず、また再登されることもなく、常に謎の雰囲気を漂わせてきたルート、Echo Wall(E10 7a)が遂に再登された。

英国で一番高い山、ベン・ネヴィス北面の高い場所にあるEcho Wallにアクセスするだけでも一苦労なのに、ましてやルートにトライするために必要なギアを運んだり、クライミングの適切な評価ができるだけのまともな天候の時期を見つけたりすることはなおさらだ。

ジェームスが、2008年7月28日に初登したデイブ・マクラウドとまったく同じギアを使ったかどうかはまだ不明だが、デイブはそのルートについて、ルーフまでの最初の12メートルは8a+で、そこまではブラックダイヤモンドのマイクロカムの最少サイズのものだけを使ったと説明している。ルーフの下では、ルートのテクニカルな核心を前にして、まずまずのニーバーレストが可能。その核心パートは、非常に浅いスロットにセットした当てにならないキャメロット、まあしっかりと効いてそうなのだが疑わしい岩の“歯”にセットしたナッツ、それとセットした岩自体が心もとないもう一本のナッツをプロテクションにして登らなくてはならない、とも説明する。

核心手前でレストするジャームス・ピアソン

核心を越えた後に続く、わずかにシェイクができるポイントまでのランナウトするパートは、それが始まるところになんとかマイクロナッツの3番を効かせることができた、とデイブは続ける。そしてわずかなシェイク後は、最後のボルダームーブが待ち構えているのだが、そのムーブは剥がれそうなフレークにセットしたマイクロナッツとまったく当てにならないスカイフックをプロテクションにしてこなさなくてはならない。デイブは、最後のボルダームーブは、落ちたら死ぬことを覚悟で、それもパンプした腕でこなさなければならないと、コメントしている。

その2年前の2006年8月に世界初のE11であるRhapsody(E11 7a)を登ったデイブは、このEcho Wallを初登に成功する前から、それまで登ったいかなるルートよりもワンランク上のものになる、とコメントしていた。

「このルートはRhapsodyのようなものとはまったく違います。確かにRhapsodyはかなり難しかったですが(当時はそれが私の限界でした)、Rhapsody自体は直ぐそこにあったのでした。数分でルートの上からロープを垂らして、余計な手筈をせずにすぐに登り始められたのです」

「デイブ・バーケットやジョン・ダンがつくった山の高いところにある難しいルートも登ったことがありますが、それらはこのルートと比べれば簡単でした。ただそこまで登って、1日か2日かければ十分でした。でも、これは違います。8c以上のハードなクライミング、リードでのグランドフォールの可能性、そしてベン・ネヴィス北面のこれほど高いところでクライミングをするためのロジスティックスな課題が混在しています。だからこそ、他のルートと比べてレベルが違うのです。それが私が求めるものなのです」

2008年の夏にこのルートを登った後、デイブは自身のブログに、このルートは「人生で最も難しいルート」であり、「8c以上の難易度、妥協のない真剣さ(具体的な言葉にすれば、落ちたら死ぬという意味)、そして実際にルートを開拓するに際しロジスティクス上の課題が生じるほど遠い場所という諸条件がミックスしたルートを作ることにインスピレーションを受けた」と書き込んだ。

今年初め、初登以来すでに15年以上もグレードをつけていなかったこのルートを、デイブはE10とした。そして、ボルトレス・ルートを開拓する厄介さと、ルートにトライする間、常に念頭にあった「ほぼノープロテクションの状態でのリードになるだろう」という考えが、当初トップロープでも8cはあると誤って判断する原因になったかもしれないとほのめかしている。ただグレードに関係なく、今回のジェームス・ピアソンのEcho Wall第2登で最も印象的なことは、おそらく彼がそれを達成したスピードだろう。

ジェームスは、7月21日、先ずはアプローチとなるベン・ネヴィスのタワーリッジを登り、ルート取付きまで大量のギアを運ぶ長い一日を過ごす。そして23日、再びEcho Wallまで登ったが、湿度の高い悪天のためクライミングは不可能であることを知る。

続く24日、天気に恵まれ、初めてルート上で充実した一日を過ごす。その間、ジェームスはすべてのホールドをブラッシングし、すべてのギアをセットし、いくつかのムーブを繋げ始めることができた。翌々日の26日、再びEcho Wallまで登り、ルート上でトライ2日目を過ごす。その日、彼はニーバーレストからルート終了点までの上部のパートのすべてのムーブを繋げることができた。また、下部のパートでは最も難しいムーブの手順に磨きをかけた。

そして29日、先ずはジェームスはロープにぶら下がって長い時間かけて汗をかきながらルートのクリーニングに励む。そしてその日の最後にはスタティックロープでセルフを取りながらではあるが、繋げに手応えを感じることができた。続く30日は、ルーフを抜ける核心のシーケンスの手直し、下部のパートの繋げトライ、上部ヘッドウォールのリハーサル、ニーバーでのリカバリーの練習に一日を費やした。

31日、ジェームスはルート全体をあらかじめギアをセットした状態で登り(最後のギアはスタティックロープでバックアップ)、この方法がトップロープよりも簡単なアプローチであることを発見した。

ついに8月1日、濡れた岩が乾くのを辛抱強く待った後、4日連続のクライミング、そしてルートに手をつけてから6日目で、ジェームス・ピアソンは初登から16年と4日後にEcho Wallの第2登を達成した。

ジェームスは完登後、次のように述べている。

「ついさっき伝説のEcho Wallを登れたばかりで、ほっとしている。意義深い素晴らしい一本だった。詳しいことは、山の上からギアを全部降ろした後で」

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